テラーノベル
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富貴さんの住まいは東京だ。俺たちと金谷さんも、東京に出向くことになった。
待ち合わせ場所は、富貴さんちの近くの古風な喫茶店で、喫煙席を転用したらしい個室があった。俺達は早めに来たのだが、富貴さんはすでに個室席にいた。
「あっ、お久しぶり。大丈夫?」
声を掛けると、富貴さんはこちらを振り返った。あ、化粧で隠してるっぽいけど、だいぶクマがあるな……。
「……ごめん、あんまり大丈夫じゃない。そっちの人は?」
「あっ、こっちは……」
俺は付いてきた千歳(朝霧の忌み子のすがた)を見て、固まった。どうしよう、富貴さん一度千歳に会ってるけど、そのとき千歳はごつい男の姿だったよな! 同一人物だって言ってわかってもらえるか?
「えっ、えっとあの、俺の同居人で霊能力者の千歳」
『こんにちは!』
千歳は元気に挨拶し、富貴さんは目を丸くした。
「へ? 千歳さんって男の人じゃなかったっけ?」
「えっとえっとその……千歳は特殊メイクとコスプレが趣味で、前会った時はすごく盛ってて、今はすっぴんですって言ったら信じてくれる?」
「は?」
富貴さんは、あからさまに怪訝な顔をした。そりゃそうだよねー! そうなるよねー!!
すると、千歳はキョロキョロして周りの目を伺い、店員さんが遠くの席の注文にかかりきりになっているのを見てから『えっと、今半分しか変えられないんだけど、ちょっと見てくれ』と言った。そしてボンと音を立て、下半身だけ黒いおばけになった。
『ワシ怨霊なんだ。結構いろんな姿になれるんだけど、いま基本的にこの格好しかなれなくてさ』
「え!? え!?」
富貴さんは目と口をパクパクさせている。うん、そりゃそうなるよな……。
千歳はまたボンと音を立てて元の姿に戻り、富貴さんに言った。
『そんでさ、ワシ強い怨霊だから他の霊倒すのに駆り出されることあってさ。大抵の霊はぶん殴れるぞ。あと、時間になったら来ると思うけど、金谷あかりさんは若いけどもう何年もお祓いの仕事やってて、無難にお祓いしたいならそっちに任せたほうがいいかも』
「いや、その……怨霊って!? 本当にいるの!?」
富貴さんはやっと言葉を発した。
『普通にいるぞ。ていうか、そういうの信じてるから水子供養とか言い出したんじゃないのか?』
「そ、そう言われると、何も言えないけど……」
富貴さんはなんともいい難い表情をしている。俺は、ここまで来たらちゃんと話そうと思って言った。
「俺、二年ちょい前に、転んで祠を壊しちゃったことがあってさ。その祠にいたのが千歳で、千歳は怒って『子々孫々まで祟ってやる!』って俺の所まで来たの。でも「俺で末代だよ」って言ったら困っちゃって、俺に子孫残させるために家事とかしてくれてるんだ」
「そんな漫画みたいなことあるの!?」
「まあ漫画みたいだけど、実際起こっちゃってるから……で、その縁でお祓い屋さんとか、霊能力のある人たちと知り合って、今日来る金谷さんはその一人。たしかに若いけど、しっかりしてるよ」
「そ、そうなの……」
話していたら、金谷さんが個室席に飛び込んできた。
「お待たせして申し訳ありません! あと、今お会いしてわかりましたけど、富貴さまが困ってらっしゃるのはこちらの不手際なのでお代などはいただきません!」
金谷さんは富貴さんに深々と頭を下げた。え、どういうこと?
富貴さんも、意味がわからなかったようで首を傾げた。
「え、その、意味がわからないんだけど……初対面よね?」
「今ご説明します」
店員さんが注文を取りに来たので、各々適当に注文してから、金谷さんは話を始めた。
「先日、大きい小児病院で亡くなった子供の霊の複合体の除霊がありまして。その複合体の心残りはうまく解消できたので、あとは分離した個々の霊を見届けるだけで良かったのですが」
あ、こないだ博物館につれてった子の話?
「分離した霊は、それぞれの親御さんの元に行ってからあの世に行く形で、私どもはそれを確認していたんですけれど、一人、親御さんが両方とも亡くなっている子がいまして。その親御さん、富貴さまのお住いの近くに住んでいたので、もしかしたらと思っていたのですが、今富貴さまにお会いしてはっきりしました。その子の霊の気配が、富貴さまに移っています」
富貴さんは目を見開いた。
「え、じゃあ、うちにいるの、小さな子の霊なんです?」
「はい、三歳の女の子です。悪霊に変化した霊ではないので、ただ遊んでいるだけだと思いますが、物理的干渉ができる霊はやはり大変なので、私が連れていきます。それで」
金谷さんは俺と千歳を見た。
「あの霊の複合体は、千歳さんと和泉さまにとても懐いていたので、お二人がいたら喜んでついてきてくれるかなと思いまして。わざわざお呼び立てして申し訳ありません」
あ、それで千歳だけじゃなくて俺も必要だったのか。
「そういうことでしたら、協力させていただきます」
『また遊んでやればいいんだな?』
「はい、よろしくお願いいたします」
金谷さんはまた富貴さんに向き直った。
「いる霊自体は気難しい霊ではないので、ご自宅に上がらせていただければ比較的すぐ済むと思います。予定通り、ご自宅にお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい……」
富貴さんは頷いたが、何だか、心ここにあらずと言った形だった。
「小さい子、なんですか……三歳……遊んでただけ、なんですか……」
「悪意のある霊ではないですよ」
「そう……なんか、私が産んであげられなかった子のお供え物を荒らした嫌な霊って考えてたから、三歳の子が遊んでるだけと思わなくて……」
「お供え物ですと、富貴さまが自分の所有権を手放したもの扱いですから、霊が手を出しやすかったんだと思います」
「そう、ですか……」
富貴さんは頷いたが、やっぱりどこかに気持ちが行ってしまってる感じだった。
「富貴さん、大丈夫? いろいろありすぎて、頭ぐちゃぐちゃ?」
千歳の怨霊カミングアウトだけで、普通の人には相当な情報量だもんな……。
だが、富貴さんは、「ごめん、大丈夫」と片手を上げた。
「なんか、小さい子がうちで遊んでるだけって言われて、予想外すぎて。和泉くんたちも協力してもらえる?」
「そりゃ、もちろん」
そういう訳で、俺達は富貴さんちまで行くことになったのだった。
コメント
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千歳の怨霊カミングアウト、めちゃくちゃ面白かったです(笑)「特殊メイクとコスプレ」ってごまかし方がもう和泉くんらしくて。でもその後の金谷さんの説明で、実は小さな女の子の霊が遊んでただけだったっていう……富貴さんの「産んであげられなかった子のお供え物」って言葉がじわっと刺さりました。悪霊だと思ってたものが違ってたっていう救い、いいなあ。次も読ませてください🌷
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