テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
移動中、富貴さんはずっと金谷さんに問題の霊のことを聞いていた。
「小児病院の霊ってことは、病気か何かで小さい頃に亡くなっちゃった子なんですよね?」
「そうですね、入院生活長くて、もっと遊びたかった子ばかりで。千歳さんと和泉さんが遊んであげてくれて、ほかの人も遊んであげてくれたので、複合体から個々の霊に戻ったんですけど、まだ遊び足りない子もいたのかもしれません」
「そう……うちでお供え物ひっくり返してるのも、遊んでるだけ……ああ、そういえば、あの子用の靴下をぬいぐるみに履かせたりしてたのよ……おままごとだったんだ……」
富貴さんは顔を覆った。そうか、そんなこと起こってたんだ……。
俺は富貴さんに話しかけた。
「遊んであげれば満足すると思うし、遊んであげたことのある俺たちもいるし。大丈夫だよ」
「うん、その辺は心配してないんだけど……」
富貴さんはずっとしょんぼりしてる。自分の子のお供え物を荒らしてると思ってた霊が、小さな子、遊べなかった子が遊んでるだけと聞いて、胸が痛んだんだろう。富貴さん、能力もプライドも高いけど、小さい子への愛がある人だからな……。
やがて、富貴さんの住まいのタワマンについた。うわー、富貴さんが仕事絶好調なのは知ってたけど、実際目に見える形で経済力示されると改めてすごいと思っちゃうな。
エレベーターに乗り、家に入れてもらった。うわー、広い! 部屋数がすごい! あときれい!
「いつも荒らされてるのは、あそこなの」
富貴さんが窓辺の棚を指さした。そこには白いレースのクロスが敷かれていて、骨壺を包んでいるらしき藤色の袋が置いてあった。周りには、小さい靴下やぬいぐるみ、ベビー用のお菓子。
「あ、今寝てますね」
『チビだもんなあ』
金谷さんと千歳が棚の下を見て言った。
『あかりさんは、見えない人にも見せられるんだよな?』
「はい、そのほうが話早いので、やっちゃいますね」
金谷さんは窓辺の棚の下に手をかざし、目を閉じて何事かを唱えた。すると、手の下に、丸くなって眠る小さい子が浮かび上がってきた。
三、四歳くらい、病院で着るような白い前開きの服を着ている。髪は長めで、ふたつ分けに結んでいて、多分女の子。
富貴さんが目を見開いた。
「この子!?」
金谷さんが頷いた。
「この子ですね。起こしたいですけど、小さい子はそうするとむずがると思うので、どうしようかと……」
〈んー……〉
女の子がぎゅっと体を縮めてうめき、目を開けた。何が起こっているのかわからないらしく、体を起こしてキョロキョロあたりを見回す。
そして富貴さんに目を留め、〈あ、ねえね!帰ってきた!〉とはしゃいだ。
〈ねえね! あそんで!〉
女の子は富貴さんに突進し、抱きついた。富貴さんはとまどった。
「え!? え!? 触れる……!?」
〈ぎゅーできた!〉
女の子は喜んで、さらに富貴さんを抱きしめた。しばらくして、俺達のことも見た。
〈あ、おじちゃんたちだ、なんでいるの?〉
「え、ええと……」
富貴さんは目を白黒させる。なんだこれは、え、もしかして富貴さん、見えなかったからわからなかっただけで、この子はずっと富貴さんと遊ぼうとしてたってこと?
千歳も金谷さんも、同じ考えに達したようだった。
『なんか、この子ワシらじゃなくて富貴さんに遊んで欲しかったんだな』
「ずっと、富貴さんに遊んでもらうのにトライしてたんですね……」
〈だっこ!〉
#幽霊
凛道桜嵐 新
193
#日常
がくじゅつてき・あかげ
22,155
わーい
41
485
「ちょ、ちょっと待って」
富貴さんはバッグを床に置き、女の子の脇に手を入れて「よいしょ」と抱き上げた。
「これでいい?」
〈うん!〉
「ずっと、ここで遊んでたの?」
〈うん! おかーさんとおとーさんいなかったから、おままごとしてた!〉
女の子は笑って富貴さんに頰を擦り寄せた。な、懐いている……。
金谷さんが「どうしますかね、これは……」とうめいた。
「前の霊の複合体と記憶は共有してるみたいですけど、好みとか違うみたいで、富貴さんじゃないとダメなぐらい執着してしまってるので……」
それは、傍目に見てもわかる。この子を富貴さんから引き剥がしたら、多分大泣きだ。どうする?
「あの」
富貴さんが女の子を抱っこしながら言った。
「この子、この子専用のおもちゃあげたら、多分それで遊ぶと思うから……しばらくうちにいて大丈夫です」
「え!?」
金谷さんは驚いた。
「いいんですか?」
「悪意のある霊じゃなくて、遊びたいだけなんでしょう? 見えて触れる状態にしといて欲しいですけど、それだけしといてもらえれば大丈夫です」
「それは……できますけど……」
〈おもちゃ! ほしい!〉
富貴さんは笑って女の子に話しかけた。
「どんなおもちゃ欲しい?」
〈しるばにあふぁみりー! おうちも!〉
「よーし、じゃあ買ったげる」
富貴さんは女の子を抱き直した。俺は聞いた。
「富貴さん、それで大丈夫なの?」
「まあ、もし私がうまくいってたら、いつかこれくらいの子世話してたんだし」
富貴さんは苦笑した。
「あ、そうか……」
今気づいたけど、この女の子は親のない子で、富貴さんは子のない親だ。そうか、足りないものがある者同士、噛み合ったのか……。
金谷さんが「じゃあ、見えて触れる状態が続くように、もう少し処理しますね」と富貴さんに近づき、手をかざして何事か唱えた。
「これで大丈夫です。この子は食事も出来ますので、好きなもの食べさせてあげてください。ただ、食事が日常になるとトイレの必要も出るので、お気をつけて」
〈みー、トイレ一人で行けるよ!〉
女の子は元気に返事した。富貴さんは幸せそうに笑った。
「何が食べたい?」
〈ふれんちとーすと!〉
「じゃ、そのうち作ろうね」
そういう訳で、ことは解決した。いや、特に霊を移動させたり祓ったりとかしてないけど、こんな解決方法もあるんだな。
帰り道、千歳が言った。
『いい形で終われてよかったな。富貴さんがいていいって言わなかったら、うまく行かなかった』
「富貴さん、子供亡くしたの本当に寂しかったんだと思う。だから、生きてたらいずれこんなになったのかなあ、を埋めるような子に、会えて良かったと思うよ」
『そうだな、よかったんだろうな』
俺と千歳は頷きあった。俺たちに縁があった子が、最後まで幸せに過ごせるようで、よかった。
コメント
1件
富貴さんがずっと見えなかったから気づけなかっただけで、女の子はずっと「ねえね」と遊びたかったんだな…って思うと泣ける😭💕 しかも「足りないものがある者同士、噛み合った」って気づき、刺さりすぎだよ…! 富貴さんが「もし私がうまくいってたら」って言うところ、胸がぎゅってなった。最後はみーちゃんが「ふれんちとーすと」食べたいって言っててほっこりした〜🥺💖 いい解決方法だね!