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彪斗Side
優羽をひっぱって購買館を歩き始めた俺だが、すぐに後悔する羽目になった。
ちょうど休み時間になっていて、他の生徒どもが出歩いていたからだ。
「あ、今日は彪斗くん来てる」
「彪斗さーん、おはよーございまーす」
なんて、女どもが甲高い声あげて俺にうざったくしてくるのはいつものことだが、今日に限ってはヤローどもも、女どもと一緒に俺に視線を集めてくる。
いや。正確には、優羽に、だけどな。
くっそ。じろじろ見るんじゃねぇよ。
って無理もねぇか。優羽のバカ、購買館の店の豊富さに驚いてるのか、きょろきょろしながら、よろよろと引っ張られていやがる。
そりゃショッピングモールさながらの造りをした購買館は珍しいだろうけど。
そんな小せぇ子みたいに感動してんじゃねぇよ。
「おい。んな田舎もんが都会にきたみたいなリアクションしてんじゃねぇよ」
「だ、だってすごいんだもの…。学校の中なのに、どうしてこんなにお店屋さんが入ってるの??」
「…ここにいる連中はほとんどが寮生活だし、仕事柄、急に衣装が必要になったり、なんだかんだで物入りになることが多いんだよ。だから、色んな店が入ってて、たいていは二十四時間営業してんだ」
ヘアサロンやフィットネススタジオまではいってんだぞ、と続けると、優羽はさらに「すごいすごい」と感激しきった。
「学校にいながらお買い物できるなんて、やっぱり芸能人さんはすごいのね。わたし、なんだかちがう世界に迷い込んだみたい」
なんて、優羽は俺を見上げてにっこりと笑った。
初めて見せた零れるようなその笑顔にぽーっと見惚れてしまって、数瞬後はっと我に返る。
ったく、しょうもない天然だな、くそ…!そんなんだから、嫌でも視線集めちまうんだよ、ばか。
それに、そのすごい芸能人になれる才能もってるくせに、いやいや駄々こねてんのは、どこのどいつだよ。
「…あんまキョロキョロすんな。頭ワルそーだから」
俺は握っていた手をグイっと引き寄せて、優羽の華奢な身体を隠すように、ぴったりと俺の横につけた。
これ以上、こいつをヤローどもや、くだらねぇ女たちの嫉妬の視線にさらしたくなかった。
けど一方で、どうだ、めちゃくちゃ可愛いだろ。おまえらなんか、こいつの比にもならねぇよ。
って、見せつけてやりたいような気にもなっちまう。
あー、なに考えてんだ、俺…。んなことしたら、ますますコイツをほっとけなくなって、独占欲丸出しにしちまうのは目に見えてんのにな。
あーあクソ、早くこいつをブスにもどさなきゃな!
※
なんてやきもきしながら、俺はやっと目的のショップにたどりついた。
「メガネ屋さん…?」
「目、なんも見えねぇんだろ。買ってやるよ」
「え、そんな、申し訳ないよ…」
「いいってんだろ。そのかわり、フレームは俺に選ばせろよ」
嫌な予感がするのか、優羽はしぶったが、しぶしぶコクリとうなづいた。
ふふん。
その嫌な予感、きっと当たってるぜ、優羽。
「おー彪斗くん、今日はまた一段と可愛いコつれてるねぇ」
「なぁケンさん。いっちばん地味でだせぇメガネない?」
顔なじみの店長のケンさんは、ええ?と苦笑いを浮かべた。
「うちにはそんなのは置いてないよー。怒られるから」
「じゃあ、流行遅れなのは?」
「そうだなぁ…」
と店奥に行って、段ボールを持ってきてくれた。
「処分しようと思ってたやつだよ」
「どれどれ。うーん、どれも今時だけど…ん?これ、いんじゃね」
と奥底から引っ張り出したのは、黒縁にビン底みたいなあつーいレンズをしたやつだった。
「あーそれね。ビッグフレーム流行った時期に、ビン底まで戻って来るかなって半分おふざけで仕入れたんだけど、やっぱウケずに残っちゃったやつだよ…って、彪斗くん、それ、その子にかけさせるの??」
ってケンさんが止める間もなく、俺はきょどきょどしてる優羽の顔の前にビン底を掲げてみた。
ほんっ、と、超ダセぇ!
優羽だとそのダサさも半分くらい緩和されるけど、まぁ、そもそもビッグフレーム自体ヤロー受け悪いし、さらにビン底という輪をかけたダサさだ。もうこれに決めるしかないだろ。
「これにするぞ、優羽」
「え」
さすがの優羽もウンと言わない。
ケンさんもしきりに焦っている。
「いいの?すんごいかわいい子なのに、いいの!?」
「だからだよ。これちょうだい」
そして優羽の意見は一言も聞かず、メガネを作ってしまった。
ついでにケンさんからレジの隅に置いてあった輪ゴムをもらって、髪をまたキチキチに編んで戻させた。
よーし!
絶世のブス子のできあがり!
大満足。
もうこれでなんの心配もない、はずだ。
「あそうそう、ケンさん。こいつのことは、くれぐれも内緒にね」
「はいはい…。なんだかなぁ、相変わらず君は王様だね…」
苦笑いを浮かべるケンさんに、俺は不敵の笑みを浮かべた。
なんとでも言ってくれ。
俺はコイツを俺だけのもんにするためなら、なんだってするんだ。
「さーてと、じゃ最後だな。こいよ」
「…行くって、どこへ行くの…?」
また手をつかんだ俺に、優羽はビン底メガネの奥から不安げな表情を見せた。
俺はそんな優羽の細いあごをくいっと上に向かせると、見た直後、優羽が必ず怯えた可愛い顔になる、口端だけを上げる笑みを浮かべた。
「きまってるだろ。おまえを入れとく鳥籠に、だよ」