テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
目を開ければ、目の前には白い天井。そして消毒液の独特な匂いでわかった。ここは病院だと。けれど何の経緯で病院に来たのかも、全くわからなかった。いや、そもそも状況すら飲み込めなかった。
それでも分かることは、俺は帰る途中に突然意識がなくなったということだけ。腕には点滴がされていて少しばかり邪魔くさいなんて思ってしまった。
「………あ、病院のシーンもいいかもなぁ。」
1人の時間、独り言としてそう言葉にした。
1人でいる時間が1番楽で、1番楽しい。そして、小説を書くときこそ特別。体がふわふわして、胸がぎゅーってなって、心が温かくて、頭がそれしか考えられなくなる。
ある意味一種の病気なのかも、なんて。
そんなふうに思っていると、ふと扉のノック音。
「…トラゾー、起きてる?お母さんだよ。」
ドア越しから聞こえたお母さんの声に、安堵した。なんていうか、”お母さんだ!もう安心だ!”っていう安堵じゃなくて、”心配してくれてる”っていう安堵。
「起きてるよ。」
そう声をかけると、相手は起きてると思ってなかったのか急いで扉を開けてこちらへ向かってきた。
なんだか少しやつれてるようで、本当に心配してくれていたようだ。
「トラゾー…!よかった…今は大丈夫?気持ち悪くない?」
「…うん、全然大丈夫。」
そう返事をすれば、母は酷く安心したような顔をした。心配してくれていたのは嬉しいが、迷惑をかけてしまったと思うと酷く心が沈んだ。
「……ごめんなさい。迷惑かけちゃって…。」
「! そんなことないよ…!でも大丈夫!!お母さん信じてるから!ね!」
「………うん。」
口ではそう返事してるのに、実の母親なのに、何も悪いところがない良い母親なのに…。
何で信じられないって思っちゃうんだろう。
………………………
「らん、らんらー♪ふん、ふんふん…♪」
俺───ぺいんとはいつも通り学校をサボって公園で遊んでいた日のこと。どこからかチャイムの音が聞こえた。
いつもはそれを合図のようにして家に帰っているが、今日は何だか家に帰る気分なんかじゃなかったし、家に帰っても何もないからチャイムが聞こえる方向へと進んでいった。
とはいっても、その学校の場所も名前も知っていて、チャイムがなる時間もちゃんとわかっている。
まぁ、それは当たり前か。
──────その学校の生徒なのだから。
(ま、どうせ僕のことは誰も覚えてないだろうな…)
口に出さない言葉を、心の中でしまっておく。
でもやっぱり学校の前を歩くのは久々で、少しばかり胸が躍る。でも学校の人とか、同学年の子とかとすれ違うと心臓がうるさくなる。特に先生に見つからないようにしなければ…。
そんな風に考えていると、ある1人の男の子の周りを避けるような光景を見た。
「っ───!!!」
その瞬間に吐き気を催して、両手で口を押さえる。それでも、その男の子を見ておきたくて片手で口を押さえながら壁にもたれかかる。
もう一度見れば、その男の子が歩く周りは数メートル距離を空けてみんな歩いていて、近づくとしても悪口を目の前で言うか暴力を振るうとかだった。
その光景に、少し呆れる。
(まだやってんだ…)
その男の子の周りから他の子は帰り道が違うのか、どんどん人が離れていく。俺はその瞬間、チャンスだと思った。いや、まぁまだ吐き気はするんだけど。でも今しかないだろ!なんて思って出ようとしたときだった。
───彼の頬には、綺麗な水が流れるのが見てとれた。
泣いてるんだ、ってすぐわかった。確かにあんなことされたら悲しいし、悔しい。何もできない自分が1番イラつく。その気持ちだけはよく分かるから。
「何泣いてんの?」
声をかけた理由は、特にない。
でも何だか、周りにいじめられて泣いてる彼の姿は、誰かに似てるような気がしたんだ。
─────俺に、似てるような。
…まぁ、とにかく。 俺は助けたかったんだ。悪夢に囚われているような、彼をね。
コメント
6件
文面が神がかりすぎてる!!✨
凄すぎて鳥肌立ちました…! 文の表現?とかが本当に大好きです!!
あいらぶゆー