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■呪画怪談:『花骸(はながら)』
ここまで読んでくださった方には、
一つ、補足があります。
第一章から第八章までに記した証言、記録、復元ログ。
あれはすべて、
私、宇津Qが創作したものや、直接取材したものではありません。
すべて──
とある、女性編集者が集めた資料です。
彼女とは、学生時代にバイト先で知り合い、ホラーやオカルトの話が好きな者同士で友人となりました。
その後、バイトを辞めてから、しばらく交流がなかったのですが、数年前からSNSで連絡を取るようになりました。
彼女は出版社に勤めていました。
ホラー専門ではありません。
むしろ、実用書やビジネス書を扱う部署にいた、怪談とは無縁の場所です。
それでも、彼女はあの絵に興味を持った。
最初は、軽い話題の一つでした。
「これ、ちょっとすごくない?」
私のアカウントDMに、スマートフォンから画像を送ってきたのが始まりです。
あのオカルト暴き人リュウ氏(仮名)の動画から切り取った、ある一枚の画像が表示されていました。
私は、その時、
特別な印象を持ちませんでした。
画面キャプチャーで画質が劣化して粗くなった、ただの奇妙な絵。
それだけです。
すぐに彼女からLINEが来ました。
「なんか、惹かれるんだよね」
「ちょっと調べたんだけど、誰が描いたのかも分からないし、
どこで見つかったのかも曖昧なんだって。
なのに、証言だけが増えていくんだって」
彼女はそれを、面白がっているようで、怖がってはいませんでした。
「つかぬ事をお聞きしますが」
改まった文章で書いてありました。
「絵に覚えられることって、あると思いますか?」
私は冗談だと思って、適当に笑いとばす文章で返しました。
「検証してみようと思います」
彼女は笑っていないようでした。
彼女が調査を始めたのは、それからです。
絵を知る人物に連絡を取り、
ネットを彷徨って記事を保存し、
専門家に取材を申し込み、
目撃者に接触しました。
それらは、ここまでに記した通りです。
私がやったことは、彼女に頼まれて、文章にまとめ、
資料や最初に送られてきた画像を参考にして、
AIイラストを作っただけです。
「○○(宇津Q本名)さ、小説とか書いてたでしょ」
彼女は言いました。
「まずは、どこかに“記録”としておきたいんだけど頼める?」
だから私は、インディーズのノベルサイト『テラーノベル』に投稿することにしました。
その提案をしたのは、彼女のほうでした。
彼女は、几帳面な人でした。
録音データはすべて書き起こし、
日付を付け、
フォルダ分けをして保存していた。
動画の再生履歴も、例外ではありません。
あの削除された動画。
彼女のUSBメモリには、再生ログが残っていました。
二百七十三回。
すべて、同じ箇所で停止していえます。
十三分ちょうど。
あの、サングラスの反射の場面です。
私は、なぜそこまで繰り返したのかと聞きました。
彼女は、少し考えてから答えました。
「増える瞬間があるの」
「ちゃんと見れば、分かる」
それが、
彼女と交わした最後のLINEでした。
数週間後、
彼女が亡くなったと連絡を受けました。
詳細は、ここには書きません。
事故かどうかも、私は知りません。
ただ、彼女の母親から、
段ボール箱を一つ、託されました。
彼女の実家は、郊外の静かな住宅街にありました。
玄関先で応対してくれた母親は、
どこにでもいる、穏やかな人でした。
「娘が、お世話になっていたそうで」
深く頭を下げられ、私は何も言えなくなりました。
リビングには、彼女の私物がいくつかまとめられていました。
ノートPC、外付けハードディスク、
クリアファイルに挟まれた取材メモ。
「これ、全部あなたに渡してほしいと」
母親はそう言って、段ボール箱を差し出しました。
箱はきちんと封がされ、
側面に彼女の字で、私の名前が書かれていました。
少し、滲んでいました。
帰り際、母親がぽつりと聞きました。
「……あの子、何か、変わった様子はありませんでしたか?」
私は、とっさに首を振りました。
母親は、少し考えてから続けました。
「亡くなる前、部屋の壁に、紙を貼っていたんです」
「何か、絵のようなものを」
「何度も、貼り直していて」
そこで言葉を切りました。
「……いえ、気のせいかもしれませんね」
それ以上は、何も言いませんでした。
箱の中には、 これまで皆さんが読んできた資料やUSBメモリが、 きちんと整理されて入っていました。
そして、もう一つ。
図画用の、細長い筒。
私はまだ、それを開けていません。