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公聖女様の肉声―――
ある意味それは、ランドルフ帝国に来てから
一番の爆弾であった。
音声を記録した魔導具の再生が終わり、一行は
しばらくその場に佇んでいたが……
その静寂を破り、魔王・マギア様が笑い始めた。
「……ハッハッハ!!
悲運の女性、そしてあくまでも理不尽な世に
抗い、理想のためにその生を捧げ戦い続けたと
想像していたが。
どこまでも余の考えの上を行くお方よ」
よく見ると、マギア様の目からは涙が
こぼれていた。
そして泣きながらも満面の笑顔で魔導具をつかみ、
「味方であれ騙した者たちを許さなかったか!
余と契り、子供を10人成すとな!?
そのような事になれば毎日が退屈しなかったで
あろうのう!
そしてこの大陸に流れ、思うがままに生きて
名を残したか!」
ひとしきり大声で笑いながら語ると、
大きく息を吐いて、
「……さすがよ、ミレーレ様。
とても余は敵わぬ。
やはり貴女は聖女にふさわしきお方だ」
魔王・マギア様はリンドゥ司教に振り返ると、
「とはいえ、これを公表するのは―――
公聖女教としてはちと問題であろう」
「そ、そうですな……
ミレーレ様の印象が覆ると申しましょうか。
神格化している者もおりますゆえ、
影響は極めて大きいかと」
まあ彼の言いたい事もわかる。
美しく慈悲深く心優しい聖女様が、実は
『やられたらやり返すけど?』的な実力行使も
辞さないキャラだと知られた日には―――
「ま、まあとにかく封印も解けた事ですし」
「いったんここを出ましょう、マギア様」
イスティールさんとオルディラさんが退室を
促し、
「そ、そうですな。
まずは私の部屋まで……」
あたふたと司教は扉へと向かい、そして私と
家族、魔族の方々もそれに続いた。
「しかし未だに信じられません。
聖女様があれほど活発なお方だったとは」
「余も初めて見る……いや、聞く一面であった」
先ほどの、聖女様の部屋の十倍はある広さの
部屋で、全員がお茶を飲んで落ち着く。
聞くとリンドゥ司教は司教でも大司教―――
つまり公聖女教の中でもトップクラスの地位の
人らしい。
「でもまあ、嘘くさいよりはいいんじゃない?
何か人間らしさを感じたよ」
「生きておれば良い友人になったであろう、
そのような御仁じゃなあ」
「ピュ~」
メルとアルテリーゼ(&ラッチ)も、彼女の
人柄について感想を述べる。
「だが―――
これでミレーレ様が、他種族支配など
望んでいない事はわかったであろう?」
「……そうですな」
複雑そうな顔でリンドゥ大司教がうなずく。
まあ今のランドルフ帝国の現状を見れば、
素直には答えにくいだろう。
さらに聖女様も、自分を信仰するのを望んで
いないような事を言ってしまっているしなあ。
しばしの沈黙の後、彼は意を決したように
顔を上げて、
「公聖女様のご意思はしかとこの耳で
確認しました。
今後、公聖女教は本来の姿へと戻っていく
事でしょう」
さすがにそこは信仰が勝ったようだ。
どこか憑き物が落ちたというか、落ち着きの
ようなものが感じられる。
すると大司教と私はそこで目が合い、
「そういえばミレーレ様のお言葉の中に―――
『神様の使いがあなたの封印を解いて、
その人と一緒にこの地までやって来る』
と……
その封印を解いた方がいらっしゃるという
事でしょうか」
『げ』と思わず心の中で声が出る。
思い返してみると、ミレーレ様の音声記録に
その言葉があったのは事実だ。
確かにマギア様の封印を解いたのは自分だし、
経緯はどうあれ―――
神によってこの世界に呼ばれたのはその通りだ。
しかし自分の正体は異世界からやって来た事も
含めてトップシークレット。
マームード陛下とティエラ王女様とは秘密を
共有したが、いきなりそれ以外の人間に
知られるわけにもいかない。
だからと言ってこれを否定すれば……
公聖女様の未来予知の信憑性が疑われる
事となる。
私は脳を誤魔化しと話をそらす事に100%
振り分け、
「そう言われてみると―――
魔王・マギア様の封印を解いたのは私ですが、
こうしてこちらの大陸へ来る事になったのも、
偶然ではないような気がします。
何かに導かれていたのかも知れません」
『神の使い』を『神に導かれた者』にすり替え、
大仰にうなずいてみせる。
そしてチラチラとリンドゥ大司教の方を
うかがうと、
「まさにその通りなのでしょう!
神はあなたにマギア様の復活を行わせ、
そしてこちらへ案内したのです!
マギア様に公聖女様最後のお声を聞かせる
ために……!
生きている間にこのような奇跡をこの目で
見る事が出来ようとは―――」
感動して目を潤ませる彼に、魔王・マギア様は
テーブルに肩肘をついて、
「なればこそ、シン殿のしてきた事……
おろそかには出来まいぞ。
シン殿こそは、各種族と人間が友好を結ぶに
あたり―――
尽力して来た中心人物であるからな」
次いで他の魔族の女性、イスティールさんと
オルディラさんも、
「はい。
ドラゴンは言うに及ばず獣人、ワイバーン、
ラミア族や魔狼たちも、彼がきっかけとなり
人間との共存の道を歩み始めました」
「わたくしたち魔族に対しても、およそ
戦闘にしか使えないであろう魔法を、
生活に役立つ方向へと示してくださったのも
シン殿にござりますれば」
話が妙な方向に飛んだと思っていると、
メルとアルテリーゼも、
「確かに、神様に導かれてきたと言っても
納得出来るね」
「ランドルフ帝国でも獣人や亜人と
関わったし、そういう使命を背負って
いるのであろうのう」
「ピュイッ!」
あ、なるほど……
『神の使い』から『神に導かれた者』へ
すり替えるのを補強・手伝ってくれて
いるのね。
「ま、まあそういうわけですので―――
これからは公聖女様が最初に目指した
理想に戻って、活動してください」
「はいっ!!」
大司教・リンドゥは目を輝かせて頭を下げ、
こうして皇帝・マームード陛下の『お願い』を
達成した私たちは、大使館へ戻る事になった。
「やっと帰れるねー」
「『ゲート』がそうそう使えないのは
残念だがのう」
「ピュ~ウ~」
―――二日後、私たちは帰りの船上にいた。
ティエラ王女様率いる超高速船に乗っての
帰り道、潮風にあたりながら家族と雑談に
興じる。
一応、もう一隻同行しているのでそれほど
速度は出していないようだが。
「今後は船の往来も多くなるだろうから、
『ゲート』を使っても怪しまれなくなると
思うけどね」
「わたくしはあまり、その恩恵には預かれそうに
ありませんが……」
そこへティエラ王女様が二人の従者―――
カバーンさんとセオレムさんと一緒に
やって来た。
「まあ、お嬢の風魔法が無いと船での
高速移動が出来ませんからね」
「交易ともなればそれこそ、お嬢の活躍する場が
増えるでしょうし」
アラフィフの赤髪の男と、ブラウンの
ボサボサ髪のアラフォーの男性がなぐさめる
ように語る。
ティエラ様はそのパープルの長髪を風に
なびかせて、
「はぁ、痛し痒しですわ。
せっかくあちらの大陸と、魅力的な商品を
取引出来るようになりましたのに」
そう彼女は言うものの……
これまでにも結構な種類の品が大陸クアートルへ
渡ったはずだ。
「確かに、まだいくつか取引していない商品は
あると思いますが―――
まだ欲しいものってあるんでしょうか」
ランドルフ帝国は、こちらの連合各国の
10倍はあろうかという人口を抱える超大国。
農作物や調味料はすぐにあちらでも生産される
だろうし、魔力通信機もすでに研究・模倣されて
先の船団で使われていた。
料理や生活用品はともかくとして、そこまで
お眼鏡に適うものがあるだろうかと思って
いると、
「アラクネの糸は最優先で手に入れるようにと
言われております。
他、養殖施設や芸術関連は我が国の数段上を
行っておりますれば、技術者やお抱えの楽団
関係者も同乗していますので」
やはりというかそこに飛び付くか。
遠隔地に直接声でやり取り出来るのは、
ゾルタン副将軍やロンバート魔戦団総司令も
見ているし。
軍事関係者ならその先進性は一目で理解出来た
はず。
防衛において、相手の接近や出現を一瞬で本部に
連絡可能という事は、敵に取ってはこの上なく
厄介な状況になるに違いない。
それに文化・芸術は国力の物差しにもなる。
『娯楽にこれだけの力を入れる事が出来る』
というのは、余裕を表すものでもあるのだ。
「それと料理人も何名か乗ってますよ」
「えらい倍率だったらしいですけどね」
カバーンさんとセオレムさんの言葉に思わず
苦笑する。
「そっちはもう、誰か教える人を派遣した方が
いいかもねー」
「あちらの厨房もそれなりの魔導具や設備を
揃えていたしのう」
「ピュウ」
家族が軽くため息交じりに答える。
実際、向こうの料理人のレベルは決して低い
わけではなく、
技量においては、食材の味を極限まで高め、
さらに火加減などの見極めはさすがプロと
驚く事もあった。
ただ食事の必要性がさほど重視されていない
この世界では、あれが一つの完成形だったの
だろう。
「そういえばウィンベル王国は、
映像記録用の魔導具を購入されたとか。
確かにあれは過去を知る上で貴重な媒体と
なり得ますが……
かなり高価な上、使い道も限られて
いるのでは」
ティエラ王女様が興味半分、心配半分の表情で
質問してくる。
楽しんだり、趣味としたり―――
または研究・観察用にと使途は無限なのだが、
彼女にしてみれば、お偉いさんの自己満足の
域を出ない道具という認識なのだろう。
「まあいろいろと思いつく事があって……ん?」
ふと上空を見ると、警戒用に飛んでいた
ワイバーン―――
エンレイン王子様を乗せたヒミコ様が、
くるくると弧を描いていて―――
あれは異常があったか、何か発見した時の
合図だ。
魔物でも接近しているのか?
と思っていると、
「お嬢、ありゃあ……!」
カバーンさんが指差す方向を見ると、
大きな帆船が何隻か動いている。
「ドラセナ連邦か……
こんなところで何をしている?」
セオレムさんが名指しで語る。どうやらアレが
どこの船か知っているようだが―――
「ドラセナ連邦とは?」
「クアートル大陸、南に位置する連邦国家です。
我が帝国と交易もしておりますが……
正直、あまり会いたくない相手でもあります」
ティエラ王女様は苦々しく説明する。
「しかし無視するわけにもいきますまい」
「さっさと挨拶して別れましょう、お嬢」
二人の従者に促され、やがて三十分後には
船を隣接させ―――
相手方がこちらへ乗り込んで来た。
「お久しぶりですなぁ、ティエラ王女様」
「ご無沙汰しております、シルヴァ提督」
船上で、互いの船の最高責任者らしき人物が
交互に挨拶を交わす。
相手は責任者というより、どちらかというと
海賊の頭のような風貌だが。
筋骨隆々の体に黒々とした口ヒゲは、
典型的なパイレーツのイメージだ。
「ランドルフ帝国への交易品を持って行く
予定だったのですが……
ちと航路から離れてしまいましたかな。
ところで王女様はどちらへ?」
「新生『アノーミア』連邦のある大陸へ、
この方々を送り届けるところでした。
この度、我が帝国と国交樹立した国々の
代表です」
彼女の紹介に―――
ライオネル様、エンレイン王子様、マギア様他
各国・各種族の代表が一礼する。
すると彼の目は代表メンバーを一巡して、
「見たところ獣人や亜人もいるようだが、
そいつらは奴隷代表かい?」
その一言でこちら側の顔色がサッと変わるが、
「彼らもまた、帝国と国交を結んだ方々です。
非礼な行いは……
我が帝国への無礼と受け取りますが?」
シルヴァ提督の言葉に、ティエラ王女様が
とっさに抗議する。
彼は舌打ちすると苦笑いをうかべ、
「そうですかい。そいつはご無礼を。
ところで―――
イキのいい獣人や亜人の奴隷はいかが
ですかい?
チビどももいるんでお安くしておきますよ?」
明らかにこちら側の、人外種族に対する
嫌味と挑発だろう。
しかし言葉が悪過ぎた。何せこちらには……
「ほう……?」
「見せて頂いてもよろしいかしら?」
やはりというか、アルテリーゼとヒミコ様が
真っ先に反応した。
その凄まじい殺気は魔力ゼロの自分にも感じる
ほどで、ビリビリと空気を振動させる。
「アルちゃん、落ち着いて」
「ヒミコ、止めなさい」
同じ黒髪の童顔の妻と、婚約者である淡い紫色の
髪の青年が、彼女たちを止める。
「なっ、な……っ」
提督やその部下と思しき人たちは困惑するが、
「人の姿をしていますが、アルテリーゼ殿は
ドラゴン、ヒミコ様はワイバーンの女王です。
うかつな言動は止めておいた方がいいと
思いますよ?」
ティエラ様の説明に、さすがに分が悪いと
踏んだのか、
「……チッ。行くぞお前ら」
そう捨て台詞を残すと、自分たちの船へと
戻っていった。
「申し訳ありません。
もともとドラセナ連邦は海賊集団が
前身と言われていて……
その時の名残りといいますか、
あのような性質の者が多いのです」
「ティエラ殿が謝る事ではない。気にするな」
彼女の謝罪にマギア様が片手を振り、
「しかし今後、あの連邦と関わる事になったら、
一苦労しそうだ」
ライさんも苦虫を噛み潰したような表情で、
灰色の短髪をガシガシとかく。
「あれはそのまま放置するのですか?
シン殿」
「アーロンを怯えさせてくれたからねぇ。
水場でラミア族にケンカ売る事の恐ろしさを
教えてやっても」
ロック・タートルのオトヒメさんとラミア族の
エイミさんが、私に不満そうな顔を向ける。
「国際問題になるので、ここは穏便に……
と言いたいところですが。
『チビども』と言っていたのが
気になりますので―――」
そこで私の能力を知る人たち……
ティエラ様、ライさん、他数名に視線を送ると、
『うむ』『よし』『やってください』と言わん
ばかりにうなずき―――
「じゃあオトヒメさん、お願いします。
メルも付き合ってくれ」
「わかりました」
「りょー」
そして私たちは行動を開始した。
「クソッ!! どういう事だ!?
なぜ魔法が使えねぇ!?」
「か、風魔法の使い手もおろか誰も、あらゆる
魔法が出来ません!
このままでは海の真ん中で、立ち往生する
事に……!」
シルヴァは部下の言葉に、手近にあった物を
投げつける。
「ひぇっ!」
「わかりきった事を言うんじゃねぇ!!
それを何とかするよう考えろ!!」
ランドルフ帝国の船と別れてから小一時間後、
彼らは混乱と困惑の中にいた。
船に戻った彼らは、偶然遭遇した帝国の船に
挨拶してからそれを見送り……
自分たちも本来の目的地へと船を動かそうと
したところ、
帆船の動力源である風魔法担当の者たちが、
なぜか魔法が使えなくなった事を報告してきて、
次いで魔法の発動が出来なくなった乗組員たちが
次々と出てきたのである。
「一体何がどうなっていやがる……
俺もそうだ。
魔力があるのはわかるが使えねぇ」
実はあの後、完全空調服を着こんだシンと
メルが、ロック・タートルの姿に戻った
オトヒメさんに乗り込み―――
密かに海中から船に向けて『無効化』で
魔法を封印してしまったのである。
まさか水中から、しかも攻撃らしい攻撃ではない
シンの能力に気付くはずもなく……
彼らはただ、自然の風に任せ海上をさ迷い続ける
事になったのだ。
風魔法に頼り切っていた彼らに、自然の風だけで
目的地を目指す技量も無く、
「このままじゃ日干しだぜ。
仕方ねぇ、食料が足りなくなってきたら
奴隷から海に捨てるしか……」
「て、提督!」
「何だぁ!?」
部屋に駆け込んできた部下にシルヴァは
怒鳴りつける。
「じょ、上空にワイバーンらしき姿が……!
あれは恐らく、先ほどのランドルフ帝国の
ワイバーンではないでしょうか!」
その報告に彼は立ち上がり、
「全員甲板に上がれ!!
大声で助けを呼ぶんだ!!」
提督の命令で、乗員たちが甲板から大声で上空の
ワイバーンに呼びかけると―――
ワイバーンが去った後、三十分もすると……
超高速で水平線の向こうから帝国の船が現れ、
彼らは抱き合って喜びの声を上げた。
「いやあ、助かりましたぜ!
あのままじゃ奴隷を捨てなけりゃいけない
ところだった」
今度はティエラ王女様以下こちらのメンバーが
ドラセナ連邦の船に乗り込み―――
感謝の言葉をかけられる。
「航路を外れたと言っておりましたから、
念のため、ヒミコ様に確認しに行って
もらったのですが……
何があったのです?」
そこでティエラ様が彼らから事情を聞く。
まあ何かしたのはこちらなので知っては
いるんだけど。
「それが、急に魔法が出なくなっちまって。
風魔法はおろかあらゆる魔法が使えなく
なったんでさぁ」
「魔力はあるようなのですが―――
魔法としてはどうしても発動せず……」
シルヴァとその部下から話を聞いていると、
ダークブラウンの長髪に、透き通るような肌を
持った長身の女性が、
「あのう、私は魔狼なのですが……
以前、私たちに悪意を向けた者が、我々の
庇護者であるフェンリル様の怒りに触れ、
一時的に魔法が使えなくなった事が
ありました。
何か心当たりはありますか?」
すると彼の部下たちの間に、動揺とざわめきが
起こる。
『そういえば、何で航路を外れたんだ?』
『もう何度も行き来したルートなのに……』
『それに、魔法が使えなくなるなんて
聞いた事もないぞ……?』
と、口々に述べ不安を加速させていく。
「一時的にって事は、今は使えるって事か?
ど、どうやって治ったんだ?」
提督はすかさずそれについて聞き返す。
すると彼女―――リリィさんの夫である赤髪の
短髪の男性、ケイドさんが、
「その時はフェンリル様に謝罪する機会があり、
それで許して頂いたそうです。
ですからあなた方も怒りを解くような事を
すれば、あるいは」
するとシルヴァは思わず足元に目をやり、
「……奴隷、か?
それで何者かの怒りを買ったっていうのか?」
「さあ、そこまでは。
ですが向こうの大陸は人外や亜人といった
各種族に非常に寛容です。
もし奴隷が原因であれば―――
彼らに引き渡せば、少なくとも今よりは
怒りが収まるかも」
ティエラ王女様の言葉に、彼は両腕を組んで
悩む。
「し、しかし奴隷の誰が誰だか……」
「ではいっその事、全員引き取ろうか?
もちろん、それなりのものは頂きたいが」
ライさんが提案すると彼はうろたえ、
「か、金取るのかよ!?」
「そりゃそうだろう。
もしかしたらこっちにまで、その怒りとやらが
及ぶのかも知れないんだぞ?
我々としてはこのまま引き上げても、
別に構わないんだがね」
それを聞いた提督は観念したようにうなり、
「わ、わかった……」
うなだれるように、その提案を了承した。
「やはりというか、獣人がメインですね」
耳や尻尾は多種多様に渡るものの、基本的には
全員が獣人で構成されているようだ。
「人間の次に多い種族じゃないでしょうか。
見た目も一番近いですし……
だから奴隷としての需要も多いのかと」
こちら側の船に奴隷たちを移した後、
ティエラ様と共に彼らに状況を説明する。
「あなたたちの所有権はこちら―――
ウィンベル王国側に移りました。
ですが奴隷として扱うつもりはありません。
もし故郷に戻りたいという方がいたら、
支援します。
ただこの船はいったん向こうの大陸まで
航行しなければならないので……
それまではガマンしてください」
大人が二十人、子供が十人くらいの割合で
構成された一団は、その説明に顔を見合わせ、
意味がわかった順に彼らは笑顔や泣き顔に
なったりして、奴隷から解放された事を
喜んだ。
「……んっ?」
そこで私はある子供を前に視線が止まる。
年齢は十才前後だろうか―――
ただ他の獣人や亜人に比べ、肌がツルっと
しており、人間のそれと変わらない。
だが肌の色は赤く、そしてその頭には
二本の角があった。
幼い姿ながら、その外見は日本でいうところの
『鬼』そのもので、
「この子は?」
私の問いに、他の奴隷たちがその子に目をやり、
「彼女は有角人だと思います。
クアートル大陸の南方に住んでいる種族で、
親とはぐれたか迷ったかしたところで、
ドラセナ連邦に捕まったとか」
私はしゃがみ込み、彼女と視線を合わせ、
「名前は何ていうのかな?」
「……パチャママ」
こうして奴隷たちを全てこちらに収容した後、
もう一度ドラセナ連邦の船へと戻る事にした。
「これで奴隷全員はあんたたちに引き渡したが、
これからどうなるんだ?」
シルヴァ提督が不安気に問い―――
そこで私はライオネル様・ティエラ様・
エンレイン王子様の後ろで、
「魔法はこの世界では当たり前だ」
と小声でつぶやき、そしてライさんと
アイコンタクトを取る。
「そこまでは知らんよ。
まあ、これで怒りが解けたと思うんなら、
何でもやってみたらどうだ?」
「む、無責任な……!!」
と、ライオネル様の言葉に彼が反発しようと
したところ、
「つ、使える! 使えるぞ!」
「風魔法が出たー!!」
「い、今のうちに出発しましょう! 提督!!」
と、次々に魔法が使えるようになったと
報告が上がる。
そこで私たちは帝国の船へと引き上げ、
予定通り、元の大陸への航海を再開した。