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「というわけで、何とか全面戦争になるのは
回避出来そうです」
「おー、ご苦労さん」
公都『ヤマト』の冒険者ギルド支部―――
そこで私はランドルフ帝国での交渉結果や
一連の出来事を報告していた。
それを聞いてアラフィフの筋肉質のギルド長、
ジャンさんが事も無げに答え、
「まあ実際のところ、逐一王都から連絡が来て、
ある程度の状況はわかっていたッスから」
「でもシンさんたちが帰って来て……
本当に終わったんだなって感じです」
褐色肌の青年とタヌキ顔の丸眼鏡の女性―――
レイド君とミリアさん、次期ギルド長夫妻が
安堵したような表情になる。
あの後、奴隷だった人たちと一緒にいったん、
ウィンベル王国へ帰還。
そしてライさんは魔力通信機で各国へ……
国交締結と大使館の設立、そして最悪の事態は
免れたと通達。
同盟連合各国はこの報告に沸き返った。
同時に、各国で『保護』されている帝国の
兵士たちの帰還も決定し―――
今はその準備にどの国も忙殺されている、
との事。
ともかくこれで……
ようやく平和が戻ってきたのである。
「そういえば、公都でもランドルフ帝国の人って
受け入れてませんでしたっけ?」
「軍の幹部連中が、王都とこっちを行ったり
来たりしているが、常駐はしてねぇな。
しかし今から頭が痛ぇよ」
ジャンさんの言葉に私が首を傾げると、
「そりゃここの居心地の良さを知ったら、
帰りたくなくなるッスよ」
「かつてチエゴ国から来たナルガ辺境伯の
ように、ゴネる姿が目に浮かびます」
セシリア様かあ。
そういえば、帰国する時にめちゃくちゃ抵抗して
いたっけ。
(■50話 はじめての ごえいtoばしゃ参照)
帝国の軍人の中にも、現地除隊したいっていう
人もいたようだけど―――
今回は一度しっかり帰国してもらおう。
「で、だ。
その子が本題か?」
ギルド長は、俺の隣りにちょこんと座っている
十才くらいの肌の赤い、二本の角のある少女へ
視線を移す。
「はい。この子の名前はパチャママと
いうのですが」
そこで私は、この子を公都に連れて来た経緯を
説明し始めた。
「オニ……だと?」
「は、はい。
シン様はあちきたち鬼人族の先祖の事を
知っていたようですので―――」
ジャンさんの問いにパチャママが恐々と答える。
それは王都・フォルロワに到着した際、
元奴隷の方々の滞在先などについて
話し合っていたのだが、
私が彼女を見て思わず、『まるで鬼っ子だなあ』
とつぶやいたところ……
『先祖についてご存じなのですか!?』
と食いついてきた。
ただ彼女の話が本当だとすると、その知識は
地球のものという事になる。
それでこのまま彼女を、他の方々と一緒に
同行させるのはマズいと判断、
向こうの上層部と話し合った結果……
機密保持のため、この子だけ別行動させる事に
したのである。
「シンさんの世界には、この子みたいな種族が
いたって事ッスか?」
「いたといいますか―――
伝説や伝承という形ですね。
ただ昔話では割と定番で出てくる種族でも
ありましたから」
レイド君に続いて今度はミリアさんが、
「どのような特徴があるんですか?」
「基本的には怪力で、人より何倍も力が強く、
一応意思疎通は可能で、酒が大好物……
そんなところでしょうか」
悪役、退治される側という説明は避け、
彼女に視線を向けると、
「だいたい、その認識で正しいかと。
乱暴者も多く、人間は先祖たちを脅威と
見ており、共存とは程遠い関係であったとも」
私が気まずそうにしていると、パチャママさんの
方から、
「先祖がシン様の世界にいた時の話ですし、
あちきたちも昔話としてしか認識して
いなかったので大丈夫です。
それにこちらの世界に来てからは、
大人しく暮らしていたようですので」
『へー』『そうなの?』と他の三人が感想を
口にするが、
「先祖の言い伝えによると、元の世界では
怪力で結構好き勝手やっていた仲間も
いたらしいんですけど―――
こちらの世界ではみんな、強い術を使ったり
身体強化を普通にやっていたりして……
それで共存する事にしたそうです」
それを聞いたギルドの三人が、
「そういや、シンの世界にゃ魔法が
無いんだったな」
「怪力と言っても、こっちには身体強化が
あるッスからねえ」
「すると、パチャママちゃんも魔法が
使えないの?」
ミリアさんの問いに、彼女は首をふるふると
左右に振って、
「いえ、使えますよ?
先祖がこっちの世界に来て長いですし、
地元の人ともう何世代も血が混ざって
いますので。
ただあちきのように、角と赤い肌は受け継ぐ
らしいですので―――
この外見で、『オニ』が先祖という事は
わかるんです」
パチャママさんはそう言って、自分の二本の角を
指差す。
あー、初代はさすがにもういないだろうし、
誰かと結婚しなければ子孫は増えないか。
「一応、魔法のような術を使う鬼がいたという、
言い伝えもありますから。
まあそもそも、実在しない存在という認識
だったのですが……」
「そうなんですか?
あちきも詳しくは知りませんけど―――」
彼女の話に、ギルド長が両腕を組んで、
「うん? それじゃあ、シンの世界の鬼とは
また違うって事か?」
「もしくは、似ている世界から来たのかも
しれません。
ちなみに、パチャママさんはどんな魔法が
使えるんですか?」
「あちきは身体強化と、火と土系の魔法が
使えます。
たまに風や雷魔法まで使える鬼人族も生まれる
ようですけど。
ただ一番使いやすく強いのは、やっぱり
身体強化ですねえ。
肉弾戦なら鬼人族はたいていの魔物を
倒せますから」
そこで私はある疑問にぶつかり、
「君はどうして捕まったの?
奴隷船で売り飛ばされそうになっていたけど」
まだ子供とはいえイメージ通りの『鬼』と
すれば、人間に捕まる事自体が不思議だ。
それに魔法も使えるとなれば余計に……
その質問に彼女は頭をかきながら、
「ドラセナ連邦の連中が、あちきたちの
土地近くで奴隷狩りに来たので、
それで仲間たちと一緒に戦っていたのですが」
そこでパチャママさんは口ごもり、
「話したくねぇのなら別にいいぞ」
気を使ってジャンさんが話を切り上げようと
するが、
「いえその……
れ、連中の拠点に残っていたお酒を飲んで
しまいまして……
それで酔いつぶれ、気付いたら捕まって
しまっていました。
そして他に捕まえた奴隷たちを盾に取られ、
お前が暴れたら彼らを殺すというので、
仕方なく。
あぁ、こんな事―――
母ちゃんに知られたら……!!」
どうも捕まった事ではなく、失態を演じた事を
母親に知られる事を恐れているようだ。
まああまり悲観的でない方がこちらとしても
助かるし、そこはひとまず置いておこう。
「それはそうとやっぱり、あちきの先祖は
シン様と同じ世界から来たとしか思えない
ですよ!
こっちでお米と豆腐のお味噌汁、納豆、
一夜干し……
故郷と同じ物が食べられるなんて思わなかった
ですもの!」
そういえば納豆も普通に食べていたなあ。
オルディラさんが見たら喜んだだろうに。
それに豆腐のお味噌汁を知っていたという事は、
庶民に広まった時代とかを考えると―――
彼女の先祖は江戸時代か、それほど古くは無い
時代にこちらへ来たという事になる。
「へー、じゃあ他にもシンさんの世界の食べ物、
知っているッスか?」
「やっぱりまだまだ美味しいものが
あるわけ!?」
レイド夫妻が興味津々でパチャママさんに
たずねる。
「そうですね。梅干しが無いのが
気になりましたし……
お刺身や寿司って無いんでしょうか」
ギルドの三人組の視線が私へと向かうが、
「梅はまだ木が見つかってないんですよ。
パチャママさんの故郷にあるのなら、
いつか分けてもらいたいですね。
あと、魚を生で食べるのは今の技術では
ちょっと」
「あー、そっか。
確かにあちきたち以外で生魚を食べる種族、
見た事ないですし」
人魚族はいるけど、出会う機会は無いだろうし。
するとギルド長が私の方を向いて、
「シンは、向こうでは生魚を食っていたのか?」
「食べてはいましたけど……
ちゃんと処理されたもの限定ですよ。
ちなみにパチャママさんのところでは、
どうやって食べてました?」
私が彼女に話を向けると、
「どうって―――
血抜きして切って、内臓を取って、
ショーユにつけて?」
うーん。どう考えても寄生虫を処理出来て
いるとは思えないなあ。
という事はその頑丈な体で寄生虫の害を
退けているのか……
さすが鬼人族。
「じゃあ、梅っていうのはどういう
ものッスか?」
「他にも何か知っていれば―――
あ、あと料理とか!」
こうしてパチャママさんは私を交え、
しばらく冒険者ギルドで質問に対応した。
「へー、シンと同郷だったんだ、あの子」
「それはまた奇妙な縁よのう」
「ピュイ」
童顔の、アジアンチックな人間の妻と、
モデルのようなプロポーションを持つドラゴンの
方の妻が、興味深そうにうなずく。
その日の夕方……
自宅の屋敷で家族と夕食をとりながら、
私はパチャママさんの事を報告していた。
「でも、元奴隷の中の1人だけ連れて
くるのって、怪しまれなかったの?」
メルが飲み物を口にしながら聞いてきて、
「鬼人族は彼女だけだったしね。
公都の方が多種多様な種族がいるから、
そちらの方がいいかも知れないという理由で
移送する事にしたんだ」
「他の奴隷たちはどうなったのだ?」
「ピュウ?」
次いでアルテリーゼの質問に、
「子供たちは王都の児童預かり所へ―――
あと大人たちも子供たちの近くにいた方が
安心するだろうって事で、児童預かり所で
手伝いをしている」
それを聞いて安心したのか、食事を再開する音が
室内に響く。
「んで、パチャママちゃんは公都の
児童預かり所?」
「そうだね。
ただ、やってもらう事はありそう」
メルへの返答に家族の食事する手が止まり、
「む? と言うと?」
「ピュ?」
そこで私も手を止め、
「私の元の世界か、あるいはそれに近い世界の
料理を知っているのなら……
この近辺で何か再現出来ないか、食材や
素材探しを彼女に頼んだんだ。
まあ主にギルドメンバーの意向も絡んで
いるけど」
「あー、なるほど」
「確かにシン一人では限界があるものな」
「ピュ~」
そしてまた食事は再開され―――
「そういえば……
やっぱり2人は宿屋『クラン』に?」
私の言葉にメルとアルテリーゼは同時に
語り始め、
「そ~だよぉ~!
帰ってきたばかりだったってのにぃ」
「ダテ巻きやらコンソメやらポタージュやら……
まあこれらはまだ簡単だったから良かった
ものの、帝国から持ち帰った苗やら種やら
実った後が怖いわい」
「あ、あはは、お疲れ」
私の労いに妻二人は苦笑し―――
こうして一家団欒の時を過ごした。
「シンさん!」
「ランドルフ帝国のお土産、ありがとう
ございます!
これでますます実験が捗ります!」
同じ白銀の長髪を持った男女が、同時に
あいさつしてくる。
翌日、午前中に私と家族はパック夫妻の
自宅兼病院兼研究所をおとずれていた。
お二人には帝国で入手した様々な実験器具を
渡したのだが、やはりこの世界ではグレードの
高い物だったらしく、喜色満面で出迎える。
「すいません、私たちは同行せず公都で
留守番していただけですのに」
「まー、2人とも医者だもん。
そこは仕方ないよ」
「ゲートを作るのも時間がかかって
しまったしのう」
「ピュ~ウ」
実際、なんだかんだで1ヶ月近く向こうに
滞在してしまったのだ。
夫妻がランドルフ帝国へ行くのは無理が
あっただろう。
「しかし、映像記録用の魔導具……
これがあればより技術普及に役立ちますよ!」
「百聞は一見に如かず、ですからね。
これさえあれば、遠い地へわたくしたちが
出向かずとも、正確に方法を伝える事が
出来ます!」
パックさんとシャンタルさんは熱く語り、
そこで彼らは一息ついて、
「それで……
シンさんたちはこれからどちらへ?」
「ラッチを児童預かり所に預けた後、
パチャママさんを連れて、羽狐たちのいた山へ
調査しに行く予定です」
「あー、話は聞いていますわ。
確か鬼人族とかいう子の」
これは、あのギルド内での話の中―――
キクラゲや舞茸の話が出た時、彼女がそれに
反応したからで、
自分では気付かないが、彼女なら知っているで
あろう素材を、探しに行ってもらう事になった
のである。
公都近辺で探すか、少しここの生活に慣れた後
からでも、と言ったのだが……
パチャママさんの方が乗り気で、
それに今は秋の終わり頃の季節。
本格的に冬になる前の方がいいという事情も
相まって―――
羽狐たちの山に向かう事になったのである。
「では、お気をつけて」
「はい、行ってきます」
応接室から玄関まで私たちを見送ると、
パック夫妻は再び病院業務に戻っていった。
「あ、シンさん!」
てってってっ、と小さな男の子が駆けてくる。
だがその衣装はというと他の子とは一線を画し、
時代劇に出てくるような昔の和風の着物だ。
「新しい獣人の子ですか?
しかしこの服は―――」
そこへ薄い赤色の髪をした、五十代の上品そうな
婦人が顔を出し、
「こんにちは、シンさん。
ラッチちゃんの預かりですか?」
「お久しぶりです、リベラさん。
ええ、またお願いしようかと。
ところでこの子は?」
真っ白なやや長めの髪に、狐目の男の子……
彼について聞いてみる。
するとそこに、ミドルショートの白い髪をした
12・3才くらいの少女も来て、
「お、氷精霊様」
「元気じゃったか?」
「ピュ!」
メルとアルテリーゼの言葉に、ふわりと宙に
浮いたかと思うと、獣人の少年に抱き着き、
「土精霊がいない間、テンちゃんで遊……
もといお世話してたんだよー」
「テンちゃん?」
私が聞き返すと少年の方から、
「うん。
テンという名前はここでつけてもらったの。
あの山から来て、それで、人の姿になったのは
ついこの前でー」
ここで私は記憶から情報を引き出す。
あの山から来て?
でも羽狐はかなり早い段階で人化したはず。
あとは山の主の息子を預かった事が―――
(■168話
はじめての ろぼっと(すいちゅう)参照)
「え? まさか」
「その子も人化したのか!」
「ピュピュ~!」
そこで全員応接室へと移動し、詳しい話を
聞く事になった。
「ええ。人化したのはほんの数日前でした。
最初は私も、魔狼か獣人の子が新しく
紛れ込んだのかと思ったのですが」
リベラ所長が飲み物を口にしつつ、
彼について説明してくれた。
確かに、魔狼は完全に人化するので耳やしっぽは
なく、獣人はその逆だが、
テン君の外見を見ると、小さな獣耳がちょこんと
頭の上に乗っていて、顔はまんま人間。
多少は体毛がある他の獣人とは異なっている。
「この事、親御さんには?」
「もちろんまだ話しておりません。
なので次の機会に」
そこで私はハッとある事を思い出し、
「そ、そういえばテン君の親―――
山の主に食事を届けるって約束していた
ような」
慌てふためく私に妻二人が、
「まー仕方がないじゃん?
ちょうどその頃は、ランドルフ帝国の船団が
来ちゃってた時期だし」
「いろいろ忙しかったからのう」
「ピュイ」
するとテン君が首を傾げて、
「あれ?
でも僕、時々は山に帰ってましたよ?」
「え?」
すると彼の隣りの氷精霊様がこちらを向いて、
「ワイバーンの小さな『乗客箱』みたいな
もので、行ってたよねー」
「シンさんがいない間、公都の方で手配したと
聞いておりますわ。
冒険者ギルドには寄ったんでしょう?
何も言われてないの?」
リベラさんの質問に私が首を左右に振ると、
「まったくあの人は……
しょっちゅうここに来るくせに、そういう事を
伝えるのを忘れちゃうんだから」
ため息をつく所長を前にメルとアルテリーゼが、
「じゃあちょうどいい機会だし、このまま
私たちと山に行く?」
「今回ここへ来たのは、ラッチを預けると
いうのもあるが―――
パチャママという子と一緒に、その山へ
向かう用事もあったのだ」
すると少女が微妙な表情となり、
「あー、あの子……」
「あ、もう会ってますよね。
何か問題でも―――」
私の問いに氷精霊様は頬を指先でなぞり、
「納豆を平気でパクパク食べていたので、
他のみんなから『スゲー!!』
『やるじゃん!!』って言われてたよ」
「お味噌汁や麺類と一緒ならともかく、
そのままなら、絶対に子供たちはあれを
食べませんから……
特に獣人族の子は」
あー、そういう意味では目立つか。
私は気を取り直して、
「じゃあ、テン君とパチャママさんを
連れて行きますので―――
ラッチをよろしくお願いします」
こうして急遽、山の主の息子であるテン君を
加え、また約束にあった料理を準備してから、
羽狐たちの山へと向かう事になった。
「ふおおぉおお……!
王都から公都に来た時もそうでしたけど、
ドラゴン様に乗ったなんて、あちき、
故郷に帰ったら一生自慢出来ますよ!」
「僕は初めてー!
こんな大きな箱で飛べるんだ……!」
アルテリーゼの『乗客箱』に乗った
パチャママさんとテン君が、窓の外を見ながら
興奮気味に話す。
ここはすでに『ヤマト』から三十分以上経過した
地点の上空―――
はしゃぐ彼女たちとは対照的に、仕事で何度も
往復している冒険者や、羽狐さんたちは慣れた
ものだ。
「へえー、あの子の故郷の料理、そんなに
シンさんの故郷の物と似ているんですか」
「米や味噌、醤油に似た感じの調味料も
あるという話ですからね。
そこまで似ているのなら、試しに材料を
見繕ってもらおうって話になりまして」
冒険者の一人と話していると、人間の姿になった
羽狐の青年が口を開き、
「鬼……ですか。
我らが一族の言い伝えにもありましたが、
まさか本当に存在していようとは」
「羽狐様は、鬼人族についてご存知だったの
ですか?」
それを聞いていた獣人の女性が、彼に聞き返す。
「伝承や伝説の類に過ぎぬと思っており申した。
祖先の一人が、かつて出会った事があると。
彼女と同じよう、頭に角を持ち―――
肌は赤く、その力無双なり、と」
羽狐も……か。
そういえば彼らやテン君の魔力による衣装は
どことなく和風だし、下手したら先祖も同じ、
異世界から来たって可能性はあるな。
一応、後で王都に報告しておくか―――
そんな事を考えながら、目的地に向かって
『乗客箱』は飛び続けた。
「ここが、キクラゲや舞茸のあった山ですか……
確かに故郷にある山に似ているかも」
『乗客箱』から降りたパチャママさんは、
きょろきょろと周囲を見渡す。
「探索の際は固まって行動してください。
以前、地穴といった地面に大きな顔を
置いたような怪物も出た事があるので。
退治したので今はもう出ないと思いますが、
念のため用心してください」
(■159話
はじめての こきょう(はぎつね)参照)
事情を知っている冒険者と羽狐たちはうなずく。
しかし、考えてみればこの山は特殊だ。
地穴もそれまでの怪物とは異なっていたし、
どちらかといえば、妖怪に近い存在のように
思える。
鬼だってこの世界に転移してきたとすれば、
妖や妖怪の類が同じように転移してきた
としても不思議ではないし……
「こらー、シン」
「また1人で何か考え事かや?」
メルとアルテリーゼに注意され、我に返る。
「わ、悪い。
まずはテン君を山の主の元へ……」
と、そこへ―――
一組の男女が姿を現した。
真っ白な短髪をした、平安時代のような衣装を
身にまとったアラサーくらいの男性と、
やや灰色に近い白色の長髪を持つ女性。
『どなたですか?』と聞く前にテン君が
その男女に向かって走り出し、
「父様! 母様!」
「テン、お前か!?」
「あなたも人の姿になったのね!」
と、二人で彼を抱きしめ、
「えっ? とすると……」
「この2人がご両親かの?」
つまり、この二人が山の主夫婦という事か。
しばらくの抱擁の後、二人はこちらに向き直り、
「お久しぶりです、シン殿。
ドラゴンの姿が見えたのでな。
テンも来ていると思ったのだ」
「それよりあなた、早くあの箱の中に
入った方が―――」
山の主の後に口を開いた奥さんは、
なぜか周囲を警戒しているようだ。
「そうだな、テンもいるし」
「何かあったの?」
「今はシンがいるから、たいていの事は
大丈夫だと思うぞ?」
妻たちが二人を安心させるように話すが、
「キャーーーッ!?」
突然叫び声が聞こえ、その方向に振り返る。
見るとパチャママさんが、十メートルはあろう
かという―――
巨大な布のような物に巻きつかれていた。
「く……っ!!
布のゴーレムがこんなところにも!!」
「布のゴーレム!?」
思わず驚いて山の主に聞き返す。
「ここ数日、山の上空で奇妙なものが
飛んでいるのを見かけたのですが―――」
「どうも山の生き物たちを襲っている
ようでして。
それで私どもが山を巡回していたのです」
夫婦の話によると、最近出現した魔物?
であり、それも狂暴なようだ。
そうこうしている間に、白い布のような物に
巻き付かれたパチャママさんは空へと浮かび……
「マズい!!
アルテリーゼ、私とメルを乗せて
上がってくれ!」
「わかったぞ!」
ドラゴンの姿になった彼女は私ともう一人の妻を
その背に乗せると、布ゴーレムの後を追った。
「ゴーレムかぁ~。
確か、石に限らず条件次第では何でも
自然発生するんだよねぇ」
メルが私の背中にしがみつきながら話す。
パックさんの説明でも―――
何らかの条件で魔力が一ヶ所に溜まり、
木や石などに宿って自我を持って動き出す、
それがゴーレムだという事は聞いていた。
(■40話 はじめての せきざいさがし参照)
だから今、パチャママさんを捕らえているあの
布が、ゴーレムの一種だと言われれば……
納得するしかないのだけど。
「でも、どう見ても一反木綿だなあ、アレ」
「いったんもめん?」
「何かの、それは?」
妻たちの聞き返しに、
「私の世界の―――
これも物語や伝承の中にしかいない存在だよ。
巨大な布のお化けで空を飛び、人に巻き付いて
きて窒息させてきたりするんだ」
「あのように人をさらったりするの?」
メルの質問に俺は首をコクリと動かし、
「そういう言い伝えもあったようだけど……
今はとにかく、彼女を助けないと。
私が無効化するから、もしパチャママさんが
落ちたら頼む」
「りょー」
「わかったぞ」
そしてそのまま布ゴーレムとの距離を詰めると、
「布のような形状で自由に空を飛び―――
そして人を襲ったりさらったりする
生き物など、
・・・・・
あり得ない」
そこで布ゴーレムは一瞬硬直したような
動きを見せ、
やがて重力に逆らえずに落下していったが、
「やばい!
パチャママさんに巻き付いたままだ!」
「アルちゃん、お願い!!」
ドラゴンの姿でアルテリーゼが何とか布の
先端に爪をひっかけ、捕獲に成功。
しかしパチャママさんは布に包まれたままで、
「ど、どうする? シン」
「ほどけて落っこちる可能性もあるし……
ゆっくりと地上へ降りてくれ。
落ちた時はメル、頼む」
「あいあいさ」
こうして慎重に高度を下げていき―――
何とか彼女を救出する事に成功した。