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トヴェッテ王国の王都の商業区にて、俺とテオは剣専門の武器屋に入った。
だがオススメの剣を見せてもらおうとしたところ『手作りの片手剣』が暴走。
思わず、店から一目散に逃げ出してしまったのだった。
全速力で逃げてきた俺達。
商業区を抜けた辺りの裏路地に駆け込んで立ち止まり、上がった息を何とか整えた。
「あー……もう俺達、あの武器屋行けないなー」
冗談っぽく笑うテオ。
俺も「そうだな……」と苦笑いしてから言葉を続ける。
「それにしても何だったんだ、今の」
「さぁ……? ってか、タクトが神様からもらった剣だろ。タクトですら何が起きたか分かんないなら、俺が分かるワケないじゃん?」
「……それもそうだな……」
手によくなじむ握り部分(グリップ)にまかれているのは、茶色い革っぽい帯。
やや幅広の薄い刀身は、黄色味を帯びた金属製。
刀身と同じ素材で出来た鍔(つば)には、唯一の装飾である丸いオレンジ色の宝石が埋め込まれている。
ぱっと見、あまり目立たない量産品のように思えるのだが……実は俺のためだけに、こっそり神様が作った1点物の特別な剣なのだ。
どんな素材を使って、どのような工程で作ったかなどは一切不明。
ゲーム上でも、同じアイテムをプレイヤーの手で生産できたという例は聞いたことが無い。
冒険開始当初から俺が装備しているこの剣が、初めて自力で動き出したのは、小鬼の洞穴のボスとの1回目の対戦後だった。
色々検証してみたところ。
テオが剣を触ろうとすると、まるで彼の手から逃げ出そうとするかのように、軽やかにヒョイヒョイ動くことは分かった。
俺が触った場合は、特に大きな動きを見せない。宝石部分だけをチョコッと突っつくようにした時だけ、小さく『ビックリするような表情』をする程度だろうか。
【アイテムボックス】スキルで収納しようとしたところ、なぜかスキルが反応せず。
他の武器ではそんなことは起こらないはずなので、おそらく何かしらの力が働いているんだろうと俺は思う。
そしてボスから逃げたあの時のように、俺が剣を鞘から抜いて地面に置き、ダッシュしてその場から離れてみると。
剣は慌てて飛び上がり、ピョコピョコ跳ねて俺の後を追いかけてきた。
同じように置いては逃げを何回か試しているうち、剣の宝石部分が大粒の涙――どのように生成されたか不明――を流し始める。
さすがにイジメ過ぎたかと反省した俺は「まぁ俺が使う分には支障なさそうだし、新しい剣を調達するまでは使い続けよう」と割り切ることに決めたのだった。
だが先程、剣は俺に体当たりをかましてきた。
体当たりのダメージ自体は大したことはなかったのだが、もしかしたら今後、勝手に俺達へ斬りかかってくる、なんてことも起こりうるかもしれない。
できることなら、早く別の剣に持ち替えたい。
だけど剣を新調しようとしても、またさっきのように剣が暴走し始めるかも……。
このままじゃ他の武器屋にも入れないし……。
「……なぁテオ、ちょっと時間もらっていいか?」
「いいけど何すんの?」
「うん……もう1回、この剣を検証したいんだ。ちゃんと解明しておかなきゃ、先に進めない気がするんだよな」
「さんせーいっ! 俺も色んな武器とか魔導具とか見てきたけどさ、そんな動きするアイテムなんて初めて見たし、実はけっこう興味あったんだよねー♪」
憂鬱な自分と正反対に、目を輝かせて楽しそうにしているテオを見て、コイツすげぇな……と、ある意味で感心してしまった。
暗くなるには早い時間ではあったが、俺達は早めに宿屋に戻ることに。
2人ともこの宿の泊まり心地が気に入っていたため、戻ったついでにカウンターにて、ネレディ達との出発予定日まで宿泊を延長する手続きをしておいた。
あてがわれた客室に帰ってきたところで早速、謎だらけの『手作りの片手剣』を検証し始める。
剣を鞘(さや)ごと腰のベルトから外してテーブルの上に置き、俺とテオは剣を挟んで向かい合うように椅子に座った。
腕を組んで剣を眺める俺。
手を口元に当てるようにして考えこむテオ。
エイバスからトヴェッテまでの約3週間の旅路の間、毎日がテント暮らしだった。
街灯も無く暗い夜道を歩くのも危険だろうと、街中に居る時よりも早めに休むようにしていたため、俺達には時間があった。
俺はその余った時間を、ほぼ魔術訓練や調べ物にあてていた。
その際、手作りの片手剣に関する情報も攻略サイトで探してみたのだが、めぼしい情報は見当たらず。
無理も無いだろう。
ゲームにおいてこの剣は、売却&譲渡不可能なただの弱い初期装備。
そんな剣に絞って色々試すプレイヤーなんて、いたとしても奇特すぎる。
プレイ開始後かなり早い段階で武器を買い替え、手作りの片手剣はアイテム欄(インベントリ)に放り込んで放置……というのが俺含め大半のプレイヤーの選ぶ道なんだから、攻略サイトに手がかりが無くて当然だ。
また時々はテオと一緒に、手作りの片手剣について思いつく限りのことを試してみたのだが、特に大きな発見は無かった。
しばらく思考を続けた結果、俺は解決策に気が付いた。
そもそもこの剣は神様が作ったものなのだ。
だったら製作者に聞くのが最も早い。
何でこの方法に気付かなかったかなと苦笑しつつ、俺は黙って剣を鑑定する。
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名前 手作りの片手剣
種別 片手剣
売却目安価格 非売品(売却&譲渡不可能)
■説明■
物理攻撃力+10
製作者の愛がたっぷりこもっている
とても丈夫で軽く、初心者に最適な剣
■神の一言メモ■
ふぉっふぉっふぉっ、何か困っとるようじゃのう。
しょうがない、ワシがヒントをやろう。特別じゃぞ。
実はこの剣にはの……すんごぉーーーーい秘密が隠されておるんじゃあッ!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「!?」
思わず立ち上がって大声を上げる。
ビクッとするテオ。
「あ、ごめん」
「いや……それより何か分かったのか?」
「おう! この剣にはな、すっっっごい秘密が隠されてるらしいぞっ!」
「へ?」
テンション高めな俺の力説に、テオは困ったように言う。
「理由も無しに、いきなりそんなこと言われても……」
「あぁ、そうだよなぁ……」
「なんで分かったんだよ?」
「えっと……」
スキル【鑑定】使用時などに、俺だけに見える『神の一言メモ』。
神様情報なので間違いなく正しいはずなのだが、このメモの存在を知らないテオが、急に「すごい秘密が隠されてる!」とだけ言われても信じられるはずがない。
けれども、神の一言を見ようと思えば常時見れると、テオに教えてしまってよいものだろうか……
俺は、なるべく嘘にならない程度にごまかすことにした。
「実は今な、神様からのお告げみたいなものがあったんだ」
今度はテオが立ち上がって驚く。
「うん。その内容が『剣にすごい秘密がある』って事だったんだよ」
「すげー! で、どんな秘密?」
「……そういえば、具体的に内容聞いてないな」
俺の言葉に反応するように、ウィンドウが更新される。
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■神の一言メモ■
ワシがぜんぶ教えてしもうては、お主が成長せんじゃろ。
ヒントは以上じゃ。
お主のためにも、自分自身の力でしっかり精進するんじゃぞっ!
まぁどうしてもというなら……剣に直接聞くがよかろうww
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「け、剣に直接聞くってどういうこと――」
俺が質問しかけた瞬間、強制的にウィンドウが閉じた。
すかさず大声でツッコむ俺だったが……。
「タクト?」
とテオから怪訝な顔で声をかけられ、傍(はた)から見れば自分が1人で喋ってるようにしか見えないのに気付いてしまった。
「……わりぃ。たった今、神様から追加のお告げみたいなのがあってさ」
歓声を上げたテオが、ワクワク顔で勢いよくたずねてくる。
「で! 神様は何だって?」
「それが…………全部教えたら俺のためにならないから自分で考えろ。ヒントは以上。どうしてもっていうなら剣に直接聞け、だって」
テオは、がっくりとテーブルに両手をついた。
俺は頭を抱えつつ、心の中で1人「結局、謎が増えただけかよぉぉぉォッ!!」と叫ぶしかなかったのだった。