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【ハジメニ】はお読みいただけましたか?
なら、お進みください。
広々とした会議室。
始めに提示された議題からはとっくにそれ、アメリカとロシアによる喧嘩の応酬は絶えず、そんな二人を宥めるように中国とカナダが奮闘している。
長机の端の方では、とっくに会議を諦めてしまった日本とドイツが目の下に濃い隈をつけて、真剣にトロッコ問題について語っている。
その反対では、アメリカとカナダの保護者とも言えようイギリスとフランスが喧嘩をしだしている。
そんな喧嘩なんぞ知らんとでも言いたげな顔で、湾華は姉である中華に愛を伝え、「暑苦しいから」と引き剥がされている。
そんな二人の隣では独華が王華と、自身の恋人であり、王華の妹である伊華の事について熱弁し合っている。
そんな二人の真正面で、鈴華は熱心に自作の漫画、所謂ピンクの薄いムフフ本を描いている。
その隣で炎端はドン引きしており、普段の笑顔が異常なまでに引きつっている。
本来の用途とは全く違う使い方をされている会議室には、罵詈雑言や笑い声が響いている。
キンコンカンコン
そんな場違いをさらに極めたような音が会議室に響いた。
誰もが戸惑った表情をし、その音源を探す。
その直後、会議室の木造のドアには鍵がかかり、南側にあった大きな窓はシャッターに覆われた。
あっと言う間に会議室は密室となった。
「おい、鍵を閉めたの誰だよ!笑えないジョークはよせよ」
そんなアメリカの声に耳を貸さず、ロシアはドアに向かって数歩進み、ドアノブに手をかける。
その時、バチッ!と大きな音を立てて、ロシアの手に電気が流れた。
「っ!ダメだ、これじゃあ出られない」
そんなロシアの一言に、皆頭を抱え、絶望に沈む者もいた。
ガンッ
鈍い音が会議室に響く。
「うちの力でも壊れないって、嘘でしょ?」
鈴華が側にあったシャッターを力一杯殴ったのだ。
流石は、最年長者の妹なだけあって、力も強い。この場にいるメンバーの中では一番と言っても良いだろう。
誰もが絶望と混乱の渦ににいる中、一人だけが会議室の一番奥にあるホワイトボードの前に泰然自若と立っていた。
鈴華と日本が振り向いた時、その一人の女。一人の女のドールを見て目を丸くした。
「愛?」
「姉さん?」
二人は口々にその女のドールを呼ぶ。
このドールの名は愛華。鈴華の姉であり、全てのドールのリーダーで、最年長者だ。
だと言うのに、彼女は主である日本も、妹である鈴華の方にも視線を向けず、一点の空虚のみを見つめていた。さらには、普段の優しく、厳かな笑みすら消え失せている。
「皆様、お初にお目にかかります。」
その一言と同時に、愛華は右足を軽く引き、左手を後ろに回して、右手を前に出す。そうして、恭しく辞儀をしてみせた。
「“お初に”って、どう言う事なんね?愛」
王華は、そんな愛華に向かってた怒りの感情を滲ませた声を漏らした。
コツコツとスカートに隠れたヒールの音を鳴らしながら、王華は愛華に近づいてゆく。
「愛、説明するんね」
圧のこもった王華の声を聞いてもなお、愛華は依然としてそこに立っている。
コンコン
そんな音が愛華の足元から響いた。
普段の下駄では無く、革靴の音だったのだ。
確かに、愛華は普段の和服では無く、白黒の無機質なスーツを着ている。
王華が驚きつつも、愛華の方へ歩みを進めようとする。しかし、愛華の下へは辿り着けなかった。
王華の前に。否、愛華の周囲を囲むかのように見えない壁があるのだ。
「皆様、“汝は人狼なりや?”と言う物を知っていますか?。」
そんな王華にさえ視線を向けず、愛華は淡々と言葉を並べた。
「あれだろ?あれ、あの〜、あれ」
何か言葉が出てきそうで出てこない様子の独華が、必死に思い出そうとしている。
言葉が出てこなくなってくる年齢なのだろうか。
「所謂、人狼ゲーム。と言うやつだな」
普段の社畜生活によって培われた、異常なまでの適応スピードのドイツが独華に変わってそう言った。そんな自身の主に向かって独華は、「そう、それ!」とスッキリした様子だった。
「はい。その通りです、独逸様。」
感情の通らぬ平坦な声。
愛華の国名が漢字になる事がある癖のようなものは、変わりないようだ。
だがしかし、愛華は自身の主とその家族以外には敬語は使わない。だと言うのに、今の愛華は常に敬語を使い、“様”をつけている。
そんな愛華の様子に、鈴華は眉間にシワを寄せ、両手を強く握りしめた。
その表情は、普段の明るく元気に振る舞っている様子からは想像もできない程に、怒りと動揺に満ちていた。
「皆様のご使用の端末にて、既に役職は配信されております。」
愛華の宣言と同時に、長机の上に整列されてある、14台のタブレットが青白い、不気味な光を放つ。
「本ゲームは、『朝』、『昼』、『夜』を繰り返して遂行されます。『夜』には、人狼が市民陣営を襲撃します。また、市民陣営の役職持ちは其々の仕事を遂行いたします。」
淡々と用意された台本を読むように、愛華は冷静に声を出す。
「『朝』には、夜の犠牲者の発表がされます。そして、『昼』には、皆様が議論と推理をし、投票によって最も人狼だと思わしき人物を、。」
愛華は、そこで一度言葉を切った。
皆、それに息を呑む事さえ忘れ、神妙な目つきをしている。
「“処刑”いたします。」
何事も無いように、愛華はそんな言葉を。音を発した。
愛華は確かに言ったのだ。“処刑”と。
誰よりも人の死を嫌い、仲間の、友の、家族の生存を願った愛華が、だ。
「Haha.ブラックジョークはよせよ」
いつものおちゃらけた雰囲気を殴り捨てたアメリカが、乾いた笑い声と共にそう吐き捨てた。
「ご安心下さい。ここでは、ドールも、カントリーヒューマンズも、平等に死ねます。また、主が死んでも、ドールは生き続ける事が可能です。」
アメリカの話を聞いていないのか、聞こえていないのか。愛華は淡々と音を出すのみ。
少しの間、今や人狼ゲームの会場と化した会議室は静寂にのまれた。
「嘘……」
そう始めに静寂を打ち破ったのは、炎端だった。
普段の貼り付けた完璧と言っても良い程の笑顔を消し去り、動揺と混乱に表情(顔)を歪ませた。
彼が永世中立国のドールとして生き続ける覚悟を決めてから本心を顕にしたのは、初めてかもしれない。
「愛、嘘アルよネ?」
中華は絶望と恐怖にのまれて、手を震わせていた。
「姉さん、お願いだから、いつもの姉さんに戻ってよ」
床に力なく座り込んだ鈴華は涙を浮かべ、必死に懇願している。
「おいおい、嘘だろ……」
そんな鈴華の後ろで、普段の切り替えの速さも、芯の通ったしっかりしているところも、何もかも忘れてしまったかのように、独華はただ立ち尽くした。
愛華はそんな声すら聞こえないのか、見えない壁の奥で、また、淡々と文字を綴る。
「皆様、席にお座り下さい。そして、誰にも見られぬように、自身の役職をご確認下さい。」
皆息を呑み、ただ静かに、席に座り端末に視線を移す。
安堵のため息を付く者は誰一人としていなかった。
それもそのはず。人狼であれば誰かを襲撃せねばならない。占い師などの役職持ちであれば、敵、味方を知ってしまう。仮に市民であっても、襲撃される可能性があるのだ。
全員が役職を確認したのを見届けると、また事務的に言葉を並べる。
「では皆様、そろそろ陽が傾き、夜が訪れます。ご武運を。」
そんな言葉と共に、愛華は右手を高らかに上げた。
そして、
パチンッ
そんな音を指で鳴らす。
途端に、14人は倒れるかのように眠りに就いてしまった。
「人狼様、起きてください。」
暗闇の中、愛華の声だけが響く。
闇に紛れた、3つの影が、ユラリと揺れる。
「初めの犠牲者を、ご相談の上、お決め下さい。尚、皆様深い眠りの中ですので、声を出されても安全でございます。」
機械的な声が、会議室に響き、人狼の耳に入る。
[一番の危険因子を排除せねばならん]
人狼の内の一人がそう声を出した。
[猫又にも気おつけねば]
人狼の役職を与えられた者は、思考回路までもが人狼のそれと同じになっていた。
「“そちらの方”ですね?ではご起床願いましょうか。」
パチンッ
また、愛華が指を鳴らした。
「は……?」
強制的に目を覚ました【犠牲者】は、思わず声を漏らした。
「嘘、嘘ッ。Ahah.抵抗すら、許されない、か…」
闇の中、ただ自虐的な笑い声を上げた、その人物は、無惨にも、人狼によって首を噛み千切られた。
辺りには、【犠牲者】の赤い命の液が池を作り出していた。
「では、人狼様、席にお着き下さい。」
愛華の無感情なその声を合図に、人狼は静かにその場から離れ、席に着く。
「では、おやすみなさいませ。」
パチンッ
そんな音の合図と共に、全員が静かに寝静まる夜が訪れた。
ーー続クーー
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