テラーノベル
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花火大会の翌日から、湊は姿を見せなかった。窓辺は静まり返り、夜の空気がやけに冷たく感じられる。
遥は落ち着かず、何度も外を見たが、白い影は現れなかった。
八月十五日の夜、気づけば川沿いに立っていた。
そこに、湊がいた。
「ごめん。君に会うと、ここに縛られる時間が延びそうで…」
「それでもいいよ」
遥は即座に答えた。
「私、湊に会えてよかった。だから、もう消えるなんて言わないで」
湊は何かを飲み込むように目を閉じ、静かに微笑んだ。
東の空が白み始める。
朝焼けが彼の輪郭を淡く透かし、形を奪っていく。
「ありがとう。生きてくれて」
それが最後の言葉だった。
遥の伸ばした手は空を掴み、彼は完全に消えた。
川のせせらぎだけが、夜明けの街に残っていた。
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