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◆ 11話 無線給電のある日常
朝の大学前。
薄灰パーカーに緑Tシャツの 三森りく(24) が、
水色寄りフレームのMINAMO“ミナ坊”を指で軽く整えながら歩いていた。
そのたびに、視界の端に淡く文字が現れる。
『りく、MINAMO充電状態 92%。
AirWayは 94%。
すべて“いたわり充電”で維持しています。』
りくは小さく頷く。
「寝てる間に勝手に満たされてるの、ほんと助かるな。」
家に置いてある“個人バッテリー”の10m圏内。
そこで彼の
・MINAMO
・AirWay
・スマートリング
・タブレット
全部が音も光もなく満たされる。
ケーブルを差した覚えなど、もう何年もない。
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キャンパスに入った瞬間、
ミナ坊がそっと淡い文字を浮かべる。
『りく、大学のバッテリーサービス圏に入りました。
電力提供を受けますか?』
「お願い。」
視線で“YES”の丸いアイコンに触れると、
MINAMO・AirWay・リングが静かに給電を開始する。
もちろん、見た目には何も変化はない。
後ろから聞き慣れた声がした。
灰スカートに黄緑トップスの 杉野いまり(20) が
淡緑のMINAMOを髪に馴染ませながら近づいてくる。
「りくくん、またバッテリーサービス使ってたでしょ?」
「まあね。ここ入るだけで充電されるの便利すぎる。」
いまりは笑いながら指を鳴らす。
「スマホの頃は“充電席どこ?”って探してたのにね。
今は席に座る前に充電終わってる。」
通りすがりの学生たちも
「リングもいつのまにか満たされてる」
「充電するって言葉もう死語だよな」
と自然に会話していた。
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食堂で並んでいると、
ふとりくのリングにトントンと軽い振動。
ミナ坊の通知だ。
『りく、AirWayが93%になりました。
大学ゾーンからの給電が安定しています。』
いまりが覗き込み、ニヤッと笑う。
「はいはい、ミナ坊優秀だね。
わたしの“ミナリン”はさっきリングの充電忘れてたよ。」
りくは肩をすくめた。
「お互い、AIの性格が出るな。」
ふたりのリングはもちろんナトリウムイオン電池で、
Qi圏に入るだけで自然に満たされる。
それでも、リングがふたりの“本人確認”を黙々と担当しているため、
ほぼ全員が毎日つけている。
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午後の講義後、
大学のメインホールに入った瞬間──
『りく、広域給電ゾーンに入りました。
個人登録デバイス4台すべて給電します。』
淡い文字が視界に静かに重なる。
ホール全体が“見えない充電フィールド”になっており、
数百人が一斉にデバイスを満たしていた。
いまりが両手を腰に当てて言う。
「こういう場所、ほんと未来っぽいよね。
ケーブルもいらないし、座るだけで満たされるし。」
りくは笑う。
「もう“充電器忘れた!”って慌てる人いないよな。」
「スマホの頃は大変だったんだよね〜。
充電しながら配信して、バッテリー膨らませる人とかさ。」
ふたりは苦笑しながら並木道を歩き出す。
空気の中を、
MINAMO・AirWay・リングが
何事もなく満たされていく。
“充電”という行為はすでに過去形。
電池切れは、伝説上の現象になりつつあった。
ミナ坊が控えめに光る。
『りく、今日の充電状態はすべて最適です。
明日も同じようにサポートします。』
りくは頬を掻きながらつぶやく。
「……ほんと、何もしないで生きていけるな。」
淡緑のフレームを押さえながら、
いまりが柔らかく笑った。
「それが、MINAMO時代の当たり前だよ。」
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