テラーノベル
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手稲駅行きの快速電車に乗り込むと1人用のBOX席に腰掛けて、スマホを取り出すとすぐさまTwitterを開く。
「やばい、今日の先生かっこよぎた……」
私はそう呟くと、続けて
「先生に頭撫でられて嬉しすぎて死にかけた」
とだけ打って投稿ボタンをタップした。すると瞬く間にいいね!の通知が画面を埋め尽くしていく。
それは同じく学校の先生に恋をしているフォロワーからのいいねだった。
また家に着いてから確認しようとホーム画面に戻り、有線付きの黒いイヤホンスクールバッグの底から取り出すと、スマホに繋げてイヤホンを耳に差し込んでLINEMusicを開いた私は液晶画面に表示された歌詞を目で追う。
《 私の先生 私の先生 周りの男ガチどーでもいー!! 年齢の壁なんて関係ないでしょ? これも恋でしょ 否定すんな
ハジメテは貴方に捧げたい 年上イケおじ最強じゃん?! 分かってるよ結ばれないの!!それでも好きなのやめらんないよキミ以外と付き合う信じらんないよー!!(泣)
独占欲依存心なんてないわけがない毎日がJealousy心の底では血祭りです^^ 》
ハイテンポかつハイテンションな曲調
YouTubeで〝先生 恋〟と検索したら「先生に恋しているJKの曲」というタイトルに惹かれてタップして聞いてみたら、歌詞や歌声がとても胸に刺さり、大好きになった曲のひとつだ。
そんな曲を流しながら頭に浮かぶのは齋藤先生ただ1人だった。
恋心に酔いしれていた私だったがふと横の窓に目をやると、外は既に真っ暗になっていて、車窓から見える景色には家やマンションの明かりが点々と光っていた。
それはまるで宝石みたいにキラキラと輝いていて、綺麗だと思うのと同時に、やはり放課後のことが脳裏にチラついて仕方なかった。
家に帰ってからも、あの瞬間が忘れられずにいた私はお風呂に入った後髪を乾かしスキンケアをして歯磨きも済ませると、ベッドの上でゴロゴロしながら放課後の余韻に浸っていた。
(……はあ、やっぱ先生かっこいいなあ……)
先生に頭を撫でてもらえただけで十分すぎるほど幸せだったけどやっぱりもっと触れ合いたいと思ってしまう自分がいた。
そしてふと我に帰ると時計は既に1時を過ぎていて、慌てて寝支度をして電気を消すと布団に入った。
薄暗い部屋、外から聞こえる車やバイクの音、両親ももう寝ているのだろう……
静寂の中私だけが目を覚ましてしまっているようで少し寂しくなりながらも瞼を閉じると
先生の手の感触や笑顔を思い出しながら眠りについた。
それからというもの、私と齋藤先生の距離は一気に縮まっていった。
毎日のようにお昼ご飯を一緒に食べたり放課後も掃除が終わったあとに先生と雑談をしたりするようになったのだ。
それから数日後の昼休みのこと、私はいつも通り弁当を食べていたのだが今日はまた1人だった。
というのも、ほかのクラスの授業がら戻ってきたのか弁当を持って教室に入ってきた先生を見て
お昼ご飯に誘おうとするも、ひと足早く他の女生徒二人が斉藤先生の腕に絡みつき、自分の席へと引っ張って連れていき隣に座るように促す。
「ほらせんせぇ座って!一緒に食べよ!」
先生も困った顔一つしない。
その光景を見て水が濁るかのように白い心が真っ黒に変色していくような思いになり、嫉妬心で胸が締め付けられた。
確かに今日、私と一緒に食べる約束なんかしていない。
それでも先生ならわたしと食べてくれるんじゃないか、と勝手に期待していた。
(な、なんか馴れ馴れしくない…?ていうか近いよ、私の斉藤先生なのに……)
だけど私にはそんなこと言う資格も勇気もない。
(モヤモヤしちゃう、先生と何話すんだろう、私といるときより笑ってない…?ああもうやだ、目の前で横取りされた気分…っ)
瞬間、我に返ると私はなんてことを考えているのだろうと自己嫌悪に陥った。
私は気分が澱んだ気持ちのまま、自分の席に着席し直し、弁当を食べ始めた。
女生徒と高い声が教室に響く。
「先生が先生じゃなかったら絶対アタックしてたなー」
ピクっとその言葉に反応してしまい、私は3人の会話に聞き耳を立てていた。
「いやあんたみたいなガサツな女じゃ無理!気遣いもできて仕草も可愛い私の方が選ばれるに決まってるしー!」
そんな2人の言い争いを止めるように先生はははっと笑みを溢して言った。
「こらこら、女の子は誰だって可愛いだろ?」
先生がそういうと女生徒二人は頬を赤らめながらはしゃいでいる。
(先生はいつも誰に対しても優しいのに)
私は少し苛立ちを覚えながらも、心にはまたどす黒い感情が渦巻いていた。
(先生を、取られたくない…)
そんなことを考えているうちに時間は過ぎていく。
予鈴が鳴ると、女生徒二人はまた食べよーね!と言いながら斉藤先生に手を振っていた。
そして放課後になり、廊下で斉藤先生と会った。
先生は私を見るなり、いつも通り声をかけてくれた。
いつものように優しく微笑んでくれる先生を見て安堵すると共に、またモヤモヤした感情が胸を覆い尽くす。
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