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颯真は香帆のマンションに戻った。
香帆は、ダイニングテーブルでコンビニ弁当を食べていた。
「また、そんなん食うて」
「一人だと、これで十分よ」
颯真は、いつものソファーに少し浮いて座った。
「あんな、もう一人、恨む相手がおったんや」
「え? 誰?」
「それがなぁ……」
颯真は言い難くそうだ。
香帆はピンときた。『女の勘』というやつだ。
「不倫相手でしょ」
「なんで解かるんや」
颯真の不倫相手。
名前も顔も判らなかったが、香帆がもっとも憎んだ相手だ。
桜志郎に『相談』したのも、その女がいたからだ。
「梨那っていうんやけど、梨那とアイツはグルやってん」
「は?」
「そやから、梨那は桜志郎に頼まれて、俺に近付いたんや」
「どうやって?」
「俺の集配地区に引越して、俺が荷物を届けるのを待ってたんや」
そんな バカな話 があるはずない。
「ウソよ! マッチングアプリで浮気相手を募集したんでしょ」
「そんなこと、せえへん。浮気したかったわけちゃうし」
「ありえないじゃない。なぜ知ってるのよ?」
「え?」
香帆と颯真は、勤務する営業所が違う。
もちろん『集配担当地区』も違う。
「ねぇ、おかしいよ。変だよ」
「そういうたら、そうやな」
知られていることが多すぎる。
香帆と颯真が夫婦であること。
二人の勤務地。勤務内容。
三千万円の生命保険金を掛けていたこと。
颯真に浮気を仕掛けて、香帆に保険金殺人を唆す。
これができるのは、よほど二人の情報《こと》を知っている者だ。
その者が『桜志郎に情報を教えた』に違いない。
「アレちゃうか? 香帆にパワハラして飛ばされたヤツ」
「あ~、あの人ね」
昭和頭の上司が、キレて暴言を吐いたことがある。
数人の同僚が証人になって、上司は左遷された。
「かなり恨んでたみたいだし。ありえるかも」
「俺は、心当たりが無いなぁ」
颯真は社内の人気者だ。
悪く言う人はいないし、トラブルも無い。
「本当に、よく知ってる人だと思う」
通信販売会社は、様々な運送会社を選んで使っている。
梨那が商品を買った会社は、二人が勤務する宅配便会社と契約していた。
『颯真が届ける』と判っていたからだ。
「やっぱり、左遷された上司かなぁ?」
「俺が探ってみるな」
だが、その前にやることがある。
梨那に復讐しないと、颯真は成仏できない。
颯真には気になることがあった。
桜志郎の一言だ。
「海外に渡ってくれ」って、もしかして……。