「まぁでも、高校生を組に入れて働かせる訳にはいかねぇから当然却下した。その代わり二人が一緒に暮らせるようにアパートを借りてやって、翔には心を入れ替えて組の為に働くよう教えた。元が真面目な翔は心を入れ替えて働くようになって半年くらい経つと見違えるように成長した。朔は高校を卒業すると鬼龍組に入って俺や翔の元で働いていきたいと言って今に至るんだ」
「朔太郎くんの存在が、翔太郎くんに再びやる気を起こさせて、荒んだ心を癒していったって事ですね」
「ああ。もしあそこで朔が訪ねて来なかったら翔は荒みきったままで手に負えずにこの鬼龍組にすら置いておけなかったかもしれねぇ。兄貴ってのは弟に良いところを見せていたいものなんだって二人を見て感じたさ。俺はあの時、翔に出逢って良かったと思ってる。二人は今、この鬼龍組に無くてはならねぇ存在だからな」
話を聞いた真彩は翔太郎と朔太郎が理仁を慕い、彼の為に働く理由を知って納得した。
「理仁さんにとって翔太郎くんと朔太郎くんは大切な弟みたいな感じなんじゃないですか?」
「……そうだな、俺には兄弟がいねぇから分からねぇが、考えてみりゃ年齢的にも弟みてぇな存在なのかもしれねぇな」
真彩に問われ、朔太郎と翔太郎は組員と言うより弟のような存在だと理仁は改めて思い直した。
「ママー! たのしかった!」
ジェットコースターを乗り終えて戻って来ると、満面の笑みを浮かべながら真彩に抱きつく悠真。
「楽しかったんだ? 良かったねぇ」
「うん! またのりたい! こんどはママものる?」
「うーん、やっぱりママは乗らないかな?」
「じゃありひとのる?」
どうしてもママと乗りたがる悠真だが、苦手意識が強い真彩がやんわり断ると、今度は理仁に乗るかと尋ねた悠真。
「そうだな、乗るか」
「うん! いこう!」
「じゃあ今度は俺が姉さんと待ってるっス!」
「ああ、頼むぞ、朔」
悠真に急かされながら理仁はジェットコースターへ向かって行き、今度は朔太郎が真彩と待つ事になった。
「悠真、ジェットコースター初めてだったんスよね?」
「うん」
「俺なんて悠真くらいの頃は弱虫だったからめっちゃビビってたけど、悠真は強かったっスよ~」
「本当に?」
「はい。怖がるどころか終始ニコニコして楽しそうでした」
「そっか。でも、思えば最近我がままは少し増えたけど、私と離れる時に泣かなくなって来たなぁ」
「ああ、うちに来た日も部屋離れるってだけでグズってましたもんね」
「うん。一時期保育園に預けてた時も、朝別れる度に大泣きしてたのよ」
「最近は俺のとこや他の人のとこに居ても問題無く過ごせてますしね」
「本当、朔太郎くんをはじめ皆のおかげだよ」
「いやいや、俺たちは別に何も。それだけ悠真が成長してるって事じゃないんスかね」
「そうだね」
「悠真はきっと強い男になりますよ。もしかしたら俺よりもね」
「えー、そうかな?」
「そうっスよ。特に父親がいない分余計かも。俺や兄貴もそうだったけど、子供の頃は早く大きくなって母さんを守れる男になるって思ってたから、悠真もそういう思いがあるかもしれない」
「そっかぁ……でも本当、男の子だし、強く逞しい子に成長してくれる事が一番ね」
「そうっスね」
朔太郎と話をしていた真彩はふと、ある事を思った。
(朔太郎くんや翔太郎くんがどんな子供だったのかは分かったけど、理仁さんはどんな子供だったんだろう? やっぱり昔から強い子供だったのかな)
それは、理仁の過去についてだ。
「ねぇ朔太郎くん」
「なんスか?」
「理仁さんって、朔太郎くんが出逢った頃から鬼龍組の組長だったの?」
「いや、俺が初めて出逢った時はまだ。先代が生きてましたから」
「先代の組長さんは、亡くなったのね」
「ええ、ちょっとした抗争で……」
「そう。それじゃあ出逢った頃は次期組長候補だったって事?」
「そうっス。若頭でした。まぁ先代の息子なんで当然と言っちゃ当然なんスけどね。先代同様、皆から慕われてましたよ」
組の仕組みについては詳しく分からないけれど、信頼があったという理仁には元から組長になる素質もあったのだろうと思っていた。
「あ、姉さん、悠真が手振ってますよ」
「本当だ」
「上がっていく途中なのにあの余裕そうな表情。あれは将来大物になるかもっスね。鬼龍組の次期組長候補に選ばれてもおかしくないッスね」
「まさか。それはきっと翔太郎くんか朔太郎くんがなるんじゃないかな?」
「俺はないっスよ。まぁ理仁さんは結婚する気ないみたいだから、若頭に選ばれるとしたら兄貴かなぁ」
「え? 結婚する気、ないの?」
「ええ、まぁ理仁さんって本当女に興味ないんスよ。だから姉さんを連れて来た時はビックリしたっス」
「そう、だったんだ」
朔太郎から聞いた『理仁は結婚する気がない』という事実。それは何故なのか知りたい気持ちはあったものの、こういう事は他人から聞く事ではないと思い、結局何も聞けずじまいだった。