テラーノベル
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⚠️死描写あり⚠️
夏特有の、湿り気を帯びた生ぬるい風が吹いていた。
隣を歩く勇斗の横顔を盗み見る。
勇斗はさっきから、コンビニで買ったソーダアイスを器用に齧りながら、「あー、暑い。マジで溶ける」と文句を垂れ流していた。
「なあ、仁人。今日の夜、久しぶりに舜太たちも呼んでゲームしねー?」
『いいけど、勇斗明日早いんでしょ? ほどほどにしろよ』
「分かってるって。俺がいつ遅刻したことある?」
『…誰のおかげでしょうね。』
「んー…誰だろう…」
『は?』
「うそうそ笑嘘だって笑仁人のおかげです。ありがとうございます。」
そんな、なんてことない会話。
幼馴染で、腐れ縁で。
これからもずっと、こんな風にくだらないことで言い合いながら、歳を取っていくんだと信じて疑わなかった。
横断歩道の信号が点滅し始める。
「あ、ヤベ。仁人急ぐぞ!」
勇斗がひょいと足早に駆け出した。
『おい、危ないって____』
その瞬間だった。
視界の端から、猛スピードで突っ込んでくる黒い影が見えた。
ブレーキの音。
それさえ聞こえないほどの衝撃音が鼓膜を叩く。
スローモーションだった。
勇斗の体が、重力に逆らうように宙を舞い、数メートル先のコンクリートに叩きつけられた。
鈍い、嫌な音がした。
『……勇斗?』
アイスの棒が、俺の足元に転がってくる。
さっきまで笑っていたはずの顔が、アスファルトに横たわっている。
数秒前まで白かったあいつのTシャツが、心臓の鼓動に合わせて、見る見るうちにドス黒い赤に侵食されていく。
『勇斗! 勇斗!!』
駆け寄って、その体を抱き起こそうとして、止まった。
首が、ありえない方向に曲がっている。
見開かれた瞳は、もう何も映していない。
さっきまで「暑い」と言っていた体温が、嘘みたいに急速に奪われていくのが分かった。
「誰か、救急車……っ、誰か!」
通行人の悲鳴。
誰かが電話をかける声。
俺の視界は、勇斗の血の色で真っ赤に染まっていた。
なんで。
どうして。
俺が、あの時引き止めていれば。
俺が、もっと早く歩いていれば。
俺が、俺が…
絶望という言葉は、こういう時に使うものじゃない。
もっと、こう…心臓の真ん中に、冷たいドリルで大きな穴を空けられたような感覚だ。
風が吹き抜けるたびに、その穴がヒリヒリと痛む。
思考が止まる。
涙さえ出ない。
ただ、ただ、目の前の肉塊になってしまった「親友だったもの」を見つめることしかできなかった。
警察に事情を聞かれ、病院に運ばれた勇斗の家族に泣きつかれ、俺がどうやって家に帰ったのかは覚えていない。
ただ、部屋の明かりもつけずにベッドに倒れ込んだ。
部屋には、勇斗が脱ぎ捨てたままのパーカーが落ちている。
まだあいつの匂いがする。
嘘だ。
こんなの嘘だ。
『戻りたい…』
声が震えた。
『前に戻れたら…。勇斗が死ぬ前に。あのアイスを買う前に。もし、戻れるなら、何だってするのに…』
暗闇の中で、自分でも何を言っているのか分からないまま、俺は祈るように目を閉じた。
心にぽっかり空いた穴から、黒い泥のような感情が溢れ出して、俺の意識を飲み込んでいく。
このまま目覚めなければいい。
勇斗のいない世界なんて、生きていても意味がない。
そう願いながら、俺は深い、深い眠りに落ちていった。
to be continued…
コメント
2件
うわぁぁぁぁ… 心臓が…破裂しそうだ… 是非ともこれはハピエンで終わって欲しいですね…(ただの願望)