テラーノベル
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カーテンの隙間から差し込む光が、眩しくて顔をしかめた。
頭が重い。
ひどい悪夢を見ていた気がする。
「…じんとぉー? 仁ちゃーん?おーい、生きてるかー?」
心臓が跳ね上がった。
聞き間違えるはずがない。
少し鼻にかかった、あいつの声。
勢いよく体を起こすと、そこにはソファにふんぞり返ってスマホをいじっている勇斗がいた。
『…勇斗…?』
「なんだよ、幽霊でも見たみたいな顔して笑早く準備しろよ、太智たちもうすぐ来るって」
俺は震える手で、自分の頬を強くつねった。
痛い、
次に、テーブルの上にあるカレンダーを見る。
あの日__勇斗が事故に遭った日の、三日前だ。
『戻った…?』
「は? 何が?」
勇斗の腕を掴む。
温かい。
脈拍が聞こえる。
生きている。
俺は思わず、あいつを力いっぱい抱きしめていた。
「ちょっ、おまっ、なんだよ急に!笑」
『…よかった。生きてる、、生きてる…,,』
「なに勝手に殺してんの笑仁人くん寝ぼけてんでちゅかー?」
『やっぱ生きてなくていい』
「えぇ…!?」
『嘘だよ笑ごめん、準備するわ』
「よかったー笑いつも仁人の方が早く起きてんのに、なかなか起きないから。うなされてたし。」
『まぁ、ちょっと…嫌な夢見てただけ』
夢じゃない。
これが現実。
神様がくれたチャンスなんだ。
あんな悲劇、二度と繰り返させない。
それからの俺は、必死だった。
あの日、勇斗が死んだ「交差点」には絶対に行かせない。
それだけじゃない。
事故に遭いそうな要因をすべて排除しなきゃいけない。
『勇斗、今日は外に出るな』
「はい? 買い物行くって約束したじゃん」
『ダメ。今日は俺が全部やるから、お前はここでテレビでも見てろ』
「お前、今日マジでおかしいぞ?笑どんだけ俺のこと好きなの?」
『…。…まあそういうことにしといて』
「ほんとに大丈夫かよ笑頭ぶつけた?」
不審がる勇斗を無視して、俺はこいつの周囲を徹底的にガードした。
包丁を使おうとすれば取り上げ、風呂に入ればドアの前で見張り、階段を降りる時は後ろから支えた。
太智や柔太朗、舜太が集まった時も、俺の過保護ぶりは異常だった。
「仁ちゃん、いくらなんでも過保護すぎ。勇ちゃん、幼稚園児じゃないんだから」
柔太朗が苦笑いしながら言う。
「なんかさ、今日の仁ちゃん、目が血走ってて怖いんやけど」
舜太が引き気味に俺を見る。
そんなこと、どうでもいい。
嫌われてもいい、キモがられてもいい。
とにかく、あの日、あの時間さえやり過ごせば。
運命の三日目。
俺は勇斗を部屋に閉じ込める勢いで一緒に過ごした。
外はあの時と同じ、生ぬるい風が吹いている。
『勇斗、喉乾いてる? ジュース持ってくるよ』
「いいよ、自分で行k____」
『座ってて!!』
俺の怒声に、勇斗がびくりと肩を揺らした。
「…仁人、お前、本当にどうしたんだよ。さっきからずっと変」
『…何でもない。ただ、…嫌な予感がするだけ、』
窓の外、あの事故が起きた時間が過ぎていく。
一分、二分、五分……。
よし、 あの交差点にはいない。
勇斗は今、俺の目の前で安全に座っている。
勝った。
俺は運命に勝ったんだ。
緊張の糸が切れて、俺は深く溜息をついた。
『…ね、勇斗ー。晩飯、何食べたい?』
返事がない。
『勇斗?』
俯いたまま動かない勇斗に声をかける。
その時、あいつがガタガタと激しく震え始めた。
「……あ、……つ、い……」
『え…?』
見ると、勇斗の顔がどす黒く変色している。
勇斗は自分の喉を掻きむしり、泡を吹いて床に転げ落ちた。
『勇斗!? おい、どうした!』
さっき俺が渡したお茶か?
いや、そんなはずはない。
後で分かったことだが、それは極めて稀な、急性のアナフィラキシーショックだった。
さっき食べたスナック菓子に含まれていた、ほんのわずかな成分。
今まで何ともなかったはずのものが、この瞬間に限って、あいつの命を奪いに来た。
『嘘だろ…外に出さなかったのに、なんで…』
もがき苦しむ勇斗の瞳から、光が失われていく。
救急車を呼ぶ手さえ、恐怖で震えて動かない。
勇斗の指先が、俺の手の甲にかすかに触れた。
それが、あいつの最期の動きだった。
『嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ!』
二度目の死。
一度目とは違う、もっと陰惨で、避けようのない死。
俺は勇斗の冷たくなっていく体を抱きしめ、嗚咽を漏らした。
まただ。また、俺の心に大きな穴が空く。
『もう一回……。もう一回、戻してくれ……っ!』
俺は狂ったように、あいつの体を揺さぶりながら、またあの深い闇が訪れるのを待った。
to be continued…
コメント
2件
泣きそうです…仁人くん頑張れ……!!