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路地裏に、チミーの塵が舞った。
時間が止まったかのような沈黙が、あたりを支配する。
「……チミー……?」
ナイトメアの声は、かすれていた。
信じられないものを見るように、彼の全身が震えていた。
目の前には、血に染まった赤いローブ。
それを纏い、金の瞳を細めて立っている──僕の兄弟。
……だった“もの”。
「ナイトメア! 来てくれたんだね!」
まるで何事もなかったかのように、ドリームは無邪気に笑った。
「驚いた? これで君をいじめるような奴らは、もういないよ!
これで安心して過ごせるよね!」
その声は明るく、優しげで──だからこそ、恐ろしかった。
「どうして……どうしてチミーを……」
「だって、あの子はボクの“正義”を否定したんだよ。
それってつまり、君をいじめてた“あいつら”と同じじゃない?」
ナイトメアの目が、見開かれる。
「ボクはただ、君のためにやったんだよ。
全部、君を傷つけた人たちを排除して……優しい世界を作るために……!」
「そんなの……そんなの、優しさじゃない!!」
ナイトメアは叫んだ。喉が裂けそうなほどに。
「チミーは、僕を信じてくれた。
信じるって……誰かを守ろうとすることだったんだ。
それを奪って、殺して、何が優しさだよ!!」
ドリームの笑みが──悲しそうな表情に変わった。
「……そう。やっぱり、君はまだ“光”が足りないんだね」
彼は静かに両手を広げる。空気が震えた。
再び、槍のような光がその背に現れる。
──殺される。
本能が、ナイトメアにそう叫んだ。
(逃げなきゃ──!)
彼は踵を返し、闇の中を走り出す。
「ナイトメア! 待ってよ!!」
ドリームの声が背中を追ってくる。
「ボクは君を“救いたい”だけなんだよ!!」
──だがその声は、もはや救いではなかった。
ナイトメアは、ただ走った。走って、走って──
張り裂けそうな心で、祈った。
(お願い……どこでもいい……どこか、“ここじゃない場所”へ……)
……遠くで、翡翠色の光が笑った気がした。
その瞬間、彼の体が淡く光に包まれる。
視界がぐにゃりと歪み、世界が弾け飛ぶ。
次に目を開けたとき──
彼は、見知らぬ風景の中にいた。
空の色も、空気の重さも違う。
──ここは、“別の世界”。
ナイトメアは膝をつき、肩で息をしながら、ただ空を見上げた。
「……チミー、ごめん……」
その夜、彼はすべてを失った。
深い後悔を残して……
もうすぐ、異変を察した世界の守護者が現れるだろう。
これで、この物語は幕を下ろす。
──ここから先は、もう“別の物語”。
もしまたどこかで会うことがあったなら、
よりよい結末を、一緒に探しに行こう
歪みは巡る。
巡り、形を変え、因果となり、決して離れない。
──運命は変えられない。
優しさがある世界なら──
優しさがない世界なら────────