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ピ…ピ…ピ…ピ…と無造作に、それでいて一定間隔で鳴る機械音が俺の鼓膜を振動して伝わる。それは徐々に大きくなっていき、最終的には耳元には何もかもの音がはっきりと聞こえるほどにまでになっていた。それを皮切りにするように瞼を開ける。窓から差す太陽光がひどく眩しく、顔を歪めてしまうがその光はあいつの顔で覆われた。
「───トラゾー!生きてるやん!!」
「…ぺいんと?」
満面の笑みについつられそうになりながらも、相手の瞳をじっと見つめ返す。そんな俺のひょうたんな顔が面白かったのか、ぺいんとと隣に座るしにがみさんは大笑いをした。大笑いをしながら、涙を流して。
「トラゾー、良かった…。」
ふと、先ほどまではなかった声が聞こえた。顔を向ければ、そこには猫のフードを被り、白髪の顔の整った男───クロノアさんがいた。どうやら、この場にみんな揃っているみたいだ。
そう安堵したと思ったのも束の間、みんなの視線が徐々に痛くなっていくこと気づいてしまった。でも、なんで?なんでそんな目で見ているの?疑問が浮かび、みんなの顔を再度確認すれば、痛い視線は徐々に怒り、不安、心配の籠った視線に変わり──────あ。
「…ぁ、あ。ご、ごめん…ごめん、なさ…びょ、病気の…う、嘘ついてて…でもわざとじゃ───!」
息が荒れる。呼吸は乱れ、背筋には嫌な汗が伝い、手足が震える。
───焦りだ。やってしまったと、気づいた。嘘はつかないという約束でみんなと過ごしてきた。それでも、俺は悪い子。嘘をついてしまったのだ。それでいて、君達にも。
───病気を持ってること、ストレスによって症状がひどくなること、みんなに病気が治ったと嘘をついてしまったこと、アンチコメントを気にしないと言ったのに毎日見てること…。いくつもいくつも嘘を積み重ねてしまっていたそれは、みんなの冷たい視線でわかってしまった。
やらかしすぎたのだ。何もかもにおいて。許されることじゃない。許されたいとも思わない。───でも。
「っ、あ…ごめん、な…さい。ごめん。ごめん、ごめんなさい…」
そんな目で、見てほしくなかった。
……………
疲れ果てた俺は、眠った。数時間ほど前に泣き疲れ、みんなからの視線に疲れ、身体的にも、精神的にも相当な疲れが溜まっていたのかすぐに眠った。泣き喚いた喉は痛くなり、目もヒリヒリと熱さが残っていた。鼻もかみすぎて痛くなり、徐々に視界はブラックアウトした。
そんな中、眠っている間にも夢として出てきたのは、みんなの冷え切った会話だった。
『…トラゾーのこと、どうしますか?』
今までに聞いたことのないようなぺいんとの静かな声。酷く心が痛い。
『どうするも何も…どうにもできませんよね?治らなきゃ、撮影も…。』
『まぁ、そうだね。』
しにがみさんと、クロノアさんが痛いほどの声で喋っている。ここだけ、空気が違う。酷く重く、空気が薄い。ちくちくと肌を刺激する。
「っ!!」
気持ち悪さに飛び起きた。額には汗が流れており、枕も髪の毛も湿気ており、冷たくなっている。ふと、口を押さえる。何かが込み上げてくる感覚に、顔を歪ませてトイレへ駆け込んだ。暖色系の色で光るライトをつけてからトイレの便座を上げ、顔をうずくませた。大きく開いた口からは嗚咽と、胃液のみしかでなかった。顔は熱かった。
「…っ、おぇ。」
胃の奥底では、何かがぐるぐると渦巻く感覚があるが、先ほどよりも吐き気はマシになり、十分楽になっていた。口をゆすいでからトイレを出る。
真夜中の3時。酷く暗いその時刻に窓の外にはぽつぽつと灯りが灯っていた。白い光に、オレンジ色。信号機の三原色に、飛行機か何かが飛んでいるのか赤色の光…。数はそれこそ少ないけれど、それでも今の時間帯でも頑張っている人はいて、悲しんでいる人もいて、怒っている人もいて、無になっている人もいて、我慢している人もいて、楽しくなっている人もいる。
たったの十数個。その光が、俺を少し勇気づける光になっていた。
「───えらいや。」
俺なんかよりも、よっぽど偉い。
仕事で失敗して愚痴をするのも誰にでもあることで。仕事で失敗して復習するのも誰にでもあることで。歯医者で痛いことされるのも誰にでもあることで。手術をするのもいつしか誰にでもあることで。
そんな、たくさんの嫌なことしかこの世にはないけれど。それを───1日を乗り越えた人たちは、どれだけ偉いことか。入試も、面接も、発表も、日直も…。学生の人たちだって、すごく頑張ってる。
だからこそ、それをネガティブに捉えちゃう人もいるんだよね。なんで自分は頑張れないんだろう、なんで自分はこの人みたいになれないんだろう、なんで自分だけできないんだろう…。多分それは、できている人も一回は思ったことがある。
だから安心して。これは俺が言えることなんかじゃないけど…俺は、少なくとも息してるだけ、寝転んでるだけ、指を1ミリでも動かしただけ、瞬きを一回しただけ、勉強するために椅子に座るだけ、仕事のためにパソコンを開いただけでも…すごく、偉い。
(俺なんて、なんもできないのになぁ)
だから、褒めてね。自己肯定感が低くて苦手でも、褒めて。泣いてる自分も偉いって。泣くことも、仕事だからね。
「…言葉に出さなきゃ伝わんないの、いやだな。難しくて。」