テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
鳥のさえずりが聞こえる。鳥の声を聞くと、酷く心が穏やかになる。平和な日常を象徴するように聞こえた鳥の声に俺は起き上がり、朝食を食べる。見た目は美味しそうでも、病院食は格段と美味しいわけではない。健康に配慮している結果、味はくそ薄い。…それでも、これは自分のため。退院したら絶対に美味いもんくってやる、と心の中で意気込みながらご飯を喉に通す。
スカスカと音を立てながら床を擦るスリッパは、まだ少し慣れない。変な汗をかいて蒸れるし、時々脱げそうにもなるけれど、冒険感のある経験に、少し笑みを浮かべてしまっていた。
病室に戻って体を寝ころばせる。その後はすぐに、スマホを───・・・
「…どうしよう。」
眉を顰めながら、自分はスマホと睨めっこをした。どうしよう。その一言が頭の中を駆け巡る。実際困ったことにはなっていて、悩んでいるのは、”アンチコメントを見るか見ないか”というしょうもないことだ。
見れば、今後のみんなのためになる。でも、ストレスになれば退院は先に延びる可能性もある。でも、見なければリスナーさんたちが嫌な思いをする。でも、退院が予定通りとか、早めになったりする可能性もある。
どちらの可能性も、ある。
「…でも───」
「───いや、見ない一択だろ。」
肩がビクッと震える。声の聞こえた方向を見れば、そこにいたのはぺいんとだ。けれど、いつもの明るい顔はなかった。少し悲しそうな笑みを浮かべた、いつものぺいんととは程遠い顔。クマもできて、少し疲れ果てているように見えた。
そんな彼の顔を見て、口を結えてしまう。どうしても、言いようがなかった。彼の疲れ切った顔、格好、体にこれ以上無理をさせてはいけないと危険信号を出した。そうして俺はスマホの電源を落とし、枕の横に画面を伏せる形で置いた。
「……お前、まじ懲りねぇな。」
怒りの混ざった声色に、久々に怖さを感じた。全身がぞくっと震え上がり、寒くもないのに鳥肌が立っていた。彼の明かりに照らされる顔は、酷く寂しい。ギリギリと歯軋りを立て、怒りそうな、泣きそうな、寂しそうな…。
───これを俺は、受け止めることはできない。こんな顔をさせてしまっているのは、俺なのだ。
「うざっ……」
怒り気味の声。顔を伏せて彼はそう言った。
「うざい……!」
声は震えており、肩も微かに震えていた。拳を握りしめて。
「───うざいってばぁ!!」
大きな声で、顔を上げて彼は震えた声でそう叫んだ。酷く大粒の涙が長く、大きく流れ出ていた。止まることのない滝のように、蛇口を捻ったように、バケツから水が溢れるように…。この手で拭いたいそれは、俺の手には届かない。近寄ることもまた、できなかった。
できることは、たった一つ。相手の気持ちを聞き入れることだ。
「なんで体調悪いこと話してくれないの!なんでそんな自分のこと卑下するの!なんで…頼ってくれないの…。」
だんだんと姿勢は丸くなり、溢れる涙を拭う彼の姿を俺は見ることしかできなかった。
目を背けてしまった自分に、ぺいんとはベッドのそばに近寄り、膝をついて怒りをぶつけた。
「なんで!!頼ってってば!!!ちょっとでも頼ればさぁ!…っ、なんでよぉ!!!!」
ただ、叫び声が響いていた。彼の言葉を、俺が心の中で反芻しながら。サイドレールをガタガタと感情に任せて、 壊すんじゃないかと思うほどに揺らし、痛くもない拳を俺の体にポカポカと殴り続けていた。喉が痛むような大きな声を出して。
そんな大声を出していれば、何人もの看護師が集まるのは不思議ではなかった。けれど、看護師さんは静かに扉を閉めて立ち去った。
何とも有難いことだろう。それと同時に、気を遣わせてしまっていることの罪悪感に飲まれる。幸い、個室なこととあまり入院患者がいなかったため、マシな方だった。
彼の叫び声も、だんだんと小さくなった頃に、俺はやっと口を開いた。
「………ごめん、なさい。」
微かにしか出なかった。久々に喋ったせいで声は掠れ、ガラガラな声。喉は痛くないけれど、変に声は裏返っていた。でも、俺にはこれしかできなかった。必死に謝ることしか、今の俺にはできなかったのだ。
「………他に言うことは。」
疲れのせいか少し落ち着いたぺいんとは、叫び続けたせいか声はガラガラになっていた。けれど、その言葉で俺は話さなければ一生許されないんだろうと思った。…いや、話しても許されることなんかではない。きっとこの先、こいつは俺のことを許さない。断言できるほどに。
「───嫌だったんだ。」
でも、話さないといけない。じゃないと、許されないどころでは済まないような気がしたから。
「…嫌だったんだ。俺に向かってのコメントで、日常組っていうグループが落ちることが。」
本音を話すことが、1番嫌だけど。でも、もう痛いことはしたくないから。させたくないから。