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林間学校が終わり、再び夏休みになる。
あの日以降、俺は今までみたいに仁人を遊びに誘うことが出来なくなっていた。
宿題も手付かずだった俺は、わざと宿題に追われるふりをして、林間学校での出来事を思い出さないようにしていた。
そして、仁人と一度も会うことなく夏休みが明けた。
あの夏を胸に抱えたまま、二学期に入る。
始業式から数日が経過し、もう見慣れた学校生活に戻っていた。
お昼時、俺と仁人、塩﨑くんで学食のテーブルを囲む。
あの林間学校以降、何故か三人で過ごすことが多くなっていた。
いや、仁人と塩﨑くんは仲のいいクラスメイトで一緒に行動するのは何も不思議ではない。
傍から見ると、違うクラスの俺が二人にくっ付いてるように思われているのかもしれない。
現に、俺には分からないクラスの話もたまに飛び交うことがあった。
二人が特別俺を仲間外れにしている訳では勿論無いが、やはりクラスが違うと言うだけで少し距離を感じてしまう。
仁人と二人きりの時間も最近はほぼ皆無だった。
最後に仁人をからかったのは、いつだろうか。
そんなことを考えていると、不意に仁人から名前を呼ばれた。
「勇斗くん。話聞いてる?」
「えっ、あ、ごめん何?」
向かい側の席に座っている俺に対して身を乗り出し、上目遣いで俺の顔を覗き込んできた。
上の空で全く話を聞いていなかった俺に対して少し不服なようで、ほんのりむくれ顔だった。
久しぶりに見たその表情に思わず胸が高鳴る。
だから、その顔反則級に可愛いんだって……。
「文化祭さ、俺二日目はクラス当番なくて閉会式まで暇なんだよね。良かったら、勇斗くんと太ちゃんの三人で回れたらなぁと思うんだけど、勇斗くんはどう?」
「あー、俺も当番は一日目だけだから、一緒に回れると思う。」
「ほんとに?太ちゃんは?」
「んぇーー、文化祭実行委員って結構忙しくてさぁ。多分回ってる暇無い。二人で行ってきて!ごめん!」
塩﨑くんのその言葉につい心の中でガッツポーズをしてしまう。
別に塩﨑くんのことが嫌いとかそんな事は全くない。
それでも、久しぶりに仁人と二人きりで過ごせると分かり、浮き足立ってしまう自分がいた。
「そっか、大変だね。じゃあ勇斗くん、二人で回ろっか。」
「う、うん…。」
上がりそうな口角を必死で抑える。
何とか平然を保てているだろうか。
「そうだ仁ちゃん。閉会式の歌の件で確認したい事があるんだけど。」
「いいよ、何?」
すると二人は、同じ資料を肩を寄せ合い確認し始めた。
ほんの少し近くなっているその距離に、また俺の心は嫉妬を覚える。
真剣に話し合っている二人を邪魔する訳にもいかないし、俺が混ざれる話でもない。
置いてかれてしまった俺は、もう中身がほとんど残っていないジュースを飲む干すことしか出来なかった。
行き場のない気持ちをぶつけるみたいにストローを噛んでいると、昼休み終了のチャイムが鳴り響いた。
三人で一緒に廊下を歩いて教室の前まで向かう。
二人は同じ教室に、俺だけ隣の教室へと帰って行った。
文化祭準備期間の学校は時間の流れがあっという間で、毎日が飛ぶように過ぎていく。
気が付けば、文化祭当日を迎えていた。
学校内が派手な装飾で彩られ、生徒たちはみんな落ち着かない。
廊下には、制服の上からエプロンを付けた人、何かのコスプレのようなものをした人で溢れ、軽いハロウィンのような雰囲気だった。
俺も自分のクラスで行う出し物の為に、用意された衣装に着替える。
黒を基調にした細身のジャケットに、真っ白なシャツ。
首元には黒いボウタイ、手 には白い手袋をはめる。
着ているだけで自然と背筋が伸びる。
俺が今身にまとっているのは、執事服だった。
俺のクラスでは、簡易的な執事喫茶を出店する。
着慣れない服で、ちょっぴり恥ずかしい。
着替えが完了し、 教室の隅にカーテンで作られた、即席の更衣室から執事服の姿で出る。
すると、クラスメイトの女子達から写真をせがまれた。
何故そんなに俺と写真を撮りたいのか分からず、ぎこちない笑顔で女子達の要望に答えていると、文化祭開始の校内放送が流れ始めた。
それと同時に、何人もお客さんが教室内に入ってくる。
俺は慌てて、持ち場につき作業を始めた。
執事喫茶はかなりの反響のようだ。
ひっきりなしに人が出入りし、あまりの忙しさで時間を気にする余裕もなかった。
慌ただしいまま、休憩時間になる。
俺は持ち場を交代の生徒に任せ、執事服のまま教室を後にした。
慣れない接客で、思ったよりも体力を削られた。
廊下に出て、一息ついたその時、隣のクラスから「ありがとうございました」という聞き慣れた声が耳に届いた。
声のした方へ視線を向けると、そこには仁人がいた。
可愛らしい、動物の着ぐるみ衣装を着て。
「……じ、じんと?」
「わっ!…勇斗くん……なんで…?////」
「今ちょうど休憩中で…ってその格好……。」
仁人が着ているのは、全身モコモコのルームウェアのような素材で、両腕も両脚も全て覆う所謂ロンパース型のようなもの。
被っているフードには、小さなクマ耳がついていて、ご丁寧にお尻ら辺には、しっぽのような物もちょこんと揺れていた。
全身モコモコで覆われているのに、足元だけは学校指定の運動靴のままで。
そのミスマッチ感が余計に可愛く思えた。
「ち、ちがうの!好きで着てる訳じゃないの!!くじ引いたら着る羽目になっちゃって……///」
仁人のクラスの看板には、「どうぶつさんカフェ」とゆるい字体で書かれていた。
紹介されているメニューは、クマさんカップケーキや、ウサギのマカロン等、完全に女子主体で考えられた物ばかりだ。
中にいる生徒は、殆どが普通のエプロン姿で、仁人のような着ぐるみ姿の人は数える程しかいなかった。
もう一度、仁人に視線を戻す。
絶対におふざけとして用意されたであろう衣装。
それなのに、仁人は異様に似合っていて。
このまま抱き締めてしまいたいくらいだった。
「ほんっと、さいあく……勇斗くんには見られたくなかった……////」
「ぅえ!?何で?」
「だって、絶対似合ってないし……キモイって思われるだろうなって……」
仁人のその言葉に体が少し固まる。
キモイだなんてそんな訳ないだろう。
こっちの頭がおかしくなるくらい可愛いのに。
自分の可愛さを自覚していない仁人に、内心少しイラッとしてしまう。
そんな胸のざわつきが抑えられず、咄嗟に
「そんなことない!仁人は、可愛いよ!」
と口に出してしまっていた。
「…………っへ?////」
「えっ、わ、あっ、ごめん!つい!///」
思わず出てしまったその一言で我に返り、頬が赤くなる。
いきなり「可愛い」なんて言って、気味悪がられたりしないだろうか心配だったが、訂正はしなかった。
だって、今目の前にいるクマさんは、世界中の誰よりも何よりも愛らしかったから。
「……ぁ、ありが…とう……////」
俺の突然の発言に耳まで真っ赤にした仁人は、フードを引き寄せて顔を隠してしまった。
少しの沈黙の後、仁人がフードの中から目だけ覗かせて、俺の格好をじっと見てきた。
「はやとくんは……執事服、かっこいいね…。」
「そうかな?こんなカッチリした服着たことないから、似合ってるかどうか微妙だと思うけど。」
「そんなことないよ。すごく似合ってる…………執事というより王子様みたい…。」
「えー!王子様は言い過ぎじゃない?笑」
「言い過ぎじゃないよ…勇斗くんみたいな王子様が迎えに来てくれる子は、幸せだね。」
そう言いながら、仁人は少し寂しそうに笑った。
その表情に胸が締め付けられた。
なんで、そんな顔するんだよ。
というか、俺は仁人以外の王子様になる気は無い。
唇をきゅっと結び、仁人の距離を一歩詰める。
「俺、別に誰かの王子様になるつもりないよ。」
「……え?」
「俺は、仁人の」
「おーーーい!勇斗、ちょっと手伝って!!」
背後からクラスメイトの呼び声がして、俺たちの会話はまた途切れてしまった。
「あー!もー!なんで、毎回邪魔が入るんだよ!!」
何度も仁人との甘い雰囲気を壊されている俺は、ついに我慢できず、頭を掻きむしってしまった。
そんな俺の様子を見て、仁人は驚いた顔のまま、「邪魔?」と首を傾げた。
長く息を吐いて、自分のクラスへと足を向けた。
教室に戻る前に、振り向いて一言だけ仁人に伝える。
「あ、そうだ。仁人、明日文化祭一緒に回れるの楽しみにしてるからね。」
「……うん!俺も!」
仁人との時間を中断され、モヤモヤが残ったまま任された仕事をこなす。
その悔しさを振り払うかのように、残りの時間は自分の担当作業に没頭した。
そのまま怒涛のように時間が過ぎていき、文化祭一日目は幕を閉じた。
クマさん仁人、可愛かったなぁ。
コメント
1件
くまさんじんと私も見たいよ(泣)