テラーノベル
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目まぐるしい文化祭一日目が終わり、 夜をひとつ越えて、二日目の朝がやってきた。
昨日、勇斗くんに着ぐるみ姿を見られた恥ずかしさを、また思い出してしまう。
ただ、それよりも執事服に身を包んでいた勇斗くんの姿のかっこよさの方が、ずっと鮮明に残っていた。
言葉にできないむず痒さみたいなものを抱えたまま、朝の準備を済ませて学校へ向かう。
荷物を教室のロッカーに仕舞い、勇斗くんを迎えに行こうと隣のクラスへ向かった途その瞬間。
扉が開き、不意に勇斗くんとばったり出くわした。
思いがけず目が合い、胸が小さく跳ねる。
「ぁ…はやと、くん…… 」
「仁人、おはよう。」
昨日のやり取りを思い出して、上手く顔が見られない。
無意識に、視線を逃がしてしまった。
「お、はよ…。」
「早速行こっか。どっから回る?」
「俺は、どこでも大丈夫……勇斗くんに任せてもいい?」
少しだけ間を置いてからそう言うと、勇斗くんは大きく頷いた。
「もちろん。じゃあ、まずは中庭の屋台行こ。」
そう言いながら、勇斗くんは歩き出した。
慌てて隣に並び、同じ歩幅で足を進める。
バレないように視線だけで、勇斗くんの横顔を見る。
普通の学生服のはずなのに、何だか昨日よりかっこよく見えた。
思わず、また視線を前にしてしまった。
前を向いて歩いているのに、隣の存在ばかり気になってしまう。
そんな風に落ち着かないまま進んでいると、美味しそうな匂いが鼻をくすぐった。
気付けば、周りは様々な種類の屋台で溢れていた。
「仁人、どれから食べたい?」
「えーっと……。」
沢山の美味しそうなものばかりで、目移りしてしまう。
どれにしようか迷っていると、ふと一つの看板に目が止まった。
「勇斗くん。俺、あれがいい。」
「おー、タコ焼きか!いいじゃん、買いに行こ。」
屋台の前に行き、メニューを選ぶ。
色んな味があって、ここでもまた俺は考え込んでしまった。
「んー、どうしようかな…。」
メニューを見つめて頭を悩ませている俺に対して、勇斗くんが口を開く。
「じゃあさ、それぞれ別の味頼まない?それで半分こしようよ。」
「あ、うん!そうしたい!」
俺の言葉を聞き、勇斗くんは二人分のたこ焼きを手早く注文した。
そのまま何気ない顔で、そのうちの一つを俺に渡してくる。
「え、お金……いいの?」
「いいの。これくらい奢らせて。ほら、冷めないうちに食べよ。」
「ぁ、ありがとう…。」
俺にタコ焼き渡すと、勇斗くんは自分の分を一つ串に指し、ふーっと軽く息を吹きかけた。
俺も食べようとすると、目の前に串に刺されたタコ焼きが差し出される。
「ほら、仁人。」
「……ふぇっ…?////」
「早く。冷めちゃうよ。」
突然の出来事で体が固まる。
膠着状態の俺を見つめて、勇斗くんは串に指したタコ焼きを、さらに俺の口に近づけてきた。
逃げ場をなくした俺は、恐る恐る口を開けて、一口貰おうとしたその瞬間。
目の前のタコ焼きが消え、俺の口は空振りみたいに空気を噛んだ。
咄嗟に勇斗くんを見ると、勇斗くんはまるでイタズラが成功した子供のような笑顔で、俺が食べるはずのタコ焼きを食べていた。
「ちょっ…………!///」
「ん~?なに?」
「何じゃない!ほんっと最低!!////」
まんまと勇斗くんの意地悪に引っかかってしまい、悔しさと恥ずかしさで顔が熱くなる。
そんな顔を隠すように、そっぽ向いてしまった。
「ふっ、ごめんごめん。そんなに拗ねないの。ほら、今度こそ。」
得意げに笑いながら、もう一つ新しいのを差し出してくる。
「も、もういい!!////」
俺が首を振って拒否すると、勇斗くんは残念そうに眉尻を下げた。
「え、食べないの?」
「だってまた、からかうでしょ……。」
「もう、からかわないってば。」
それでも頑なに食べようとしない俺を見て、勇斗くんは渋々と差し出していたタコ焼きを戻した。
やっと諦めてくれたかと安堵するが、それもつかの間だった。
「じゃあ、仁人の一口ちょうだい。」
「っ、はぁ!?////」
驚いて勇斗くんを見ると、あーんと口を開けて待機していた。
期待するように目をキラキラさせる。
言葉は無いがその視線だけで、「ほら、早く。」と催促しているのが伝わってくる。
その顔を見て、俺の中にとある考えが浮かんだ。
そうだ、仕返ししてやろう。
自分の手元にあるタコ焼きを一つ串に指し、勇斗くんに向ける。
勇斗くんは嬉しそうな顔をして、そのまま近づいてきた。
勇斗くんがタコ焼きを口に含むその瞬間。
先程俺がやられたみたいに、手を返して自分が食べてやろう。
そう思った俺の手は、勇斗くんの手に掴まれて動きを阻止されてしまう。
気付いた頃には、もう俺のタコ焼きは勇斗くんの口の中だった。
「なっ……/////」
「ん、美味しい。」
勇斗くんは、口についたソースを舌で舐め取りながら、満足気に笑った。
「ど、どうして俺が仕返しするって分かったの……?」
「だって、仁人分かりやすすぎだもん 笑」
「…………っ、////」
少し収まっていた恥ずかしさがまた込み上げてくる。
既に限界だった俺は、キャパオーバーになってしまい、目の奥がじんと滲んだ。
「だーかーらー、そんな怖い顔ばっかしないの。」
「勇斗くんのせいじゃん……///」
「悪かったって。ほら、もう食べちゃお。」
照れを押し隠すように、大きな口を開けてタコ焼きを頬張った。
齧った瞬間、中の熱が弾けてとろりとした生地が口内に流れ込んでくる。
「っ……あっつ……」
吐き出すこともできず、目を細めながら何とか飲み込む。
遅れて舌先がじんと痺れて、思わず舌を出して冷ましてしまった。
「ぅえ……した、やけどした……」
「そんな一気に食べるからでしょ。」
「ぅ、うるさい!勇斗くんがちょっかいかけるから!!///」
「ふふっ、はいはい。」
また勇斗くんに笑われたのが悔しくて、むっと視線を逸らして再びタコ焼きを串に刺す。
今度はゆっくりと冷ましながら口に運んだ。
「……おいひ、…。」
目を閉じながらじっくり味わっていると、隣の勇斗くんがぽつりと呟いた。
「…………やっぱ、かわいい。」
「ん、なんて?」
あまりにも小さな声で言われたその言葉は、俺の耳には上手く届かず、聞き返してしまった。
「なんでもなーい。」
「え?何、教えてよ。」
「いいの。仁人は知らなくて。」
そう言い終わると、勇斗くんは自分のタコ焼きを食べ始めた。
さっきの言葉が気になって勇斗くんを見つめるが、勇斗くんはそれ以上何も言わなかった。
仕方なく、俺も残っているタコ焼きを口に入れる。
二人とも黙々と食べ進め、お互い何も言葉を発しなかった。
騒がしい文化祭の中で、やけに俺たち二人の間だけ静かだった。
そういえば、せっかく別々の味頼んだのに、勇斗くんの貰い忘れたな……。
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