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#最後はハッピーエンド予定
#衝撃のラスト
山根利広
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「それから一応私は助けてもらった恩があるから、できることだけはしてる。あんたと似たような状況ね」
神野さんの顔がふっと緩んだ。
だがその話を聞いた後では、それがかえって痛々しく見える。
彼女の過去は、想像を絶する悲惨なものだった。
男に人質にされただけでもトラウマものだろうに、目の前でその人間が殺されてしまったのだ。
――殺人。
僕の頭にその二文字が浮かんでいた。
今まで僕が見ていたのは、幽霊の捕食の瞬間だけだった。
だがこの話は、相手が生きた人間なのだ。
「その時、警察には行ってないんですよね」
「……そうよ」
死体も証拠も、何も残らない。
通報したところで、ただの悪戯と判断されるだろう。
白紙さんが悪いわけではない。
それはわかっている。
それでも僕の心の内から湧き出した恐怖心は、どんどん増幅していく。
「白紙は――あいつは、自分以外を人間だと思ってないわ」
神野さんの言葉が、ストンと腑に落ちた。
それは今まで僕が見ないようにしてきたことだったのかもしれない。
僕を助けてくれたことはあっても、それは僕自身の引き寄せ体質が必要だからなのではないか。
僕自身のことは見ていないのではないか。
「人は全部ただの有象無象。だから私のことも未だにガキだし、あんたのことも同行者くんなんてラベルで人を呼んでいるのよ。……興味がないから、人の名前を覚えられないの」
神野さんの瞳は、濡れていた。
「だから早く白紙の元を離れた方がいいわ。あんたをあいつがどう使うか、考えたら恐ろしいもの」
全部、神野さんの言うとおりだ。
これに反論する材料を集められていない事実に、僕は俯いて口を閉ざした。
しばらくの沈黙が続いた。一体僕は、どうするべきなのだろう。
「そういえば私に聞きたいことあるって言ってなかった?」
神野さんがこの重い沈黙を打ち破ってくれた。
僕は彼女に会ってすぐ、あの写真に収めたマークのことを聞こうとしていたのだ。
「あ、これ見て欲しくて……」
僕はポケットからスマホを取り出し、あの画像を見せた。
すぐに神野さんの表情が曇る。
「これ……」
彼女がそう言いかけた時、僕の体全体が粟だった。
この感じを、僕は知っている。
でも、おかしい。
だってここは――……。
「どういうこと? ここは神社なのよ」
神野さんが立ち上がって、矢のように外に飛び出した。
僕も彼女の後に続く。
そして、視界に広がる光景に驚愕した。
「ひっ……」
鳥居の前に、真っ黒い人影が立っていた。
夕闇に照らされているのに、姿は見えない。
影そのものが、揺らめきながらそこにいる。
彼らは幸いにも鳥居の中には入れないようだった。
「神野さん、これ大丈夫ですよね?」
僕の言葉に、神野さんは答えない。
彼女の表情は固く強張り、冷や汗が流れていた。
ゆらゆらと揺れる黒い人影は、二人、三人と増えていった。
気付けば七人になっていて、ひしめき合っている。
その時、音楽が鳴った。町内で流れる五時を知らせるものだ。
「逢魔時……」
ポツリと神野さんが呟いた。
それが合図だったかのように、黒い影は鳥居の中に一歩踏み込んでくる。
僕が後退ると、僕の右手を取って神野さんが走った。
靴のままなのも気にせずに、本殿へと飛び込む。
いつもの部屋とは違う。
ここは、本殿の中でも核の場所だろう。
部屋の奥には、御神体とそれを祀る台座が鎮座している。
神野さんは、正面と左右の襖を閉めていく。
それが終わると、すぐに御神体の前で手を合わせた。
僕もそれに倣って手を合わせる。
どうか助けてください。
神様。
「私の勘だけど、あれは七人岬だと思う」
神野さんが声を顰めて、話し出した。
この状況でも余裕を感じるのは、やはり神様の近くにいるからだろうか。
「すみません、それって何ですか?」
「七人岬は、簡単に言うと七人の怨霊よ。
誰か身代わりを見つけると、この七人の呪縛から解き放たれる。
そして身代わりは、またその七人の一員になる。そういった怪異なの」
「どうしてそんな奴が……」
「十中八九あんたでしょうね。でもあれは本来、四国の方の怪異なのよ。こんな北の果てにわざわざ来るなんて……」
ぺた。ぺた。
裸足で歩くような足音がして、僕たちは口をつぐんだ。
あの影たちが、この本殿の中に入り込んできた。
僕は突然不安になった。
ここは御神体意外には何もない広い部屋だ。
もし開けられたら、ひとたまりもない。
「あんた、お守りとか持ってるの?」
僕はそれで、思い出した。
ヨシトからもらったお守りがある。
あれはキーケースにつけて、いつも持ち歩けるようにしてあるのだ。
「そういえば、友達からもらったお守りがあります」
僕はポケットから取り出して、それを見せた。
瞬間、神野さんの表情が凍りつく。
僕も、思わずあ、と声が出た。
ガタガタ。
襖が大きく揺れた。
誰も押さえていないのに、開かないようだ。
その内それは、襖を叩く音に変わった。
「貸しなさい!」
呆然とする僕の手から、神野さんはキーケースごとお守りを奪った。
そして中を無理矢理開ける。
転がり出てきたのは、ボタン電池のサイズの白い機械と黒い機械。
そして、一枚の紙切れだった。
「これ……」
それを見て血の気が引いていく。
いや、そんなわけがない。
ヨシトが、そんな――。
「このお守りに刺繍されたマーク……」
神野さんが苦々しげに呟いた。
間違いなく、写真の石と同じマークだった。
お守りの袋に、金の糸で刺繍されている。
そして、神野さんは床に転がる二つの機械を手に取った。
「一つは確実にスマートタグね。私も持ってる。そしてもう一つは……何かしら。心当たりは?」
「……盗聴器だと思います。これをくれた友達と、その話をしたことがあります」
大学で、ヨシトとこんな小さい盗聴器があるという雑談をしたことがあるのを思い出した。
当時はただの話題の一つだと思っていたが、あれは僕に持たせるために調べていたのか。
そこで僕は、希望を見つけ出した。
もしかしたら、あまりにも白紙さんのことが好きすぎて、やりすぎてしまったのかもしれない。
きっとそうだ。
本当は、そうではないことはわかっていた。
でも、今の僕には受け止めきれない。
神野さんが紙切れを開いた。
そこにはお札のような文字が書かれている。
「これ、魔除けのお札ね。でも、全部逆だわ……」
神野さんがお札に触れた時だった。
スーッと襖が何の抵抗もなく開く。
そして、黒い人影が中に入ってきた。
ひゅうと喉が鳴った。
もう悲鳴を上げるだけの余裕もない。
心拍数が上がるたび、呼吸も乱れていく。
一歩一歩近付く人影は迷わず、神野さんの方へと向かっていた。
僕は震える足腰で、彼女前に立ち塞がる。
「あんた、何してんの!」
「か、神野さん! 僕が囮になるので逃げてください!」
声が震えてしまったが、言いたいことは伝わったはずだ。
「そんなことできるわけないでしょ!」
「神野さん、お父さんを呼んできてください!」
神野さんが息を呑むのが聞こえた。
神野さんのお父さんは、今自宅にいる。
少し走れば、すぐにたどり着ける距離だ。
彼であれば、この状況をどうにかしてくれるかもしれない。
「僕は、なんとか逃げてみます。だから……」
「……わかったわ。絶対に捕まっちゃだめよ。身代わりにされるからね」
神野さんは、念を押した。
僕は頷くと、二メートルほどまで近付いた人影を見据えた。
この速度で移動してくるのであれば、何とか逃げ切れるだろう。
神野さんは、三カ所のうち正面の襖を開けた。
あの影たちが本殿に入り込んでいるなら、最短距離で向かった方が良い。
「え」
その声に僕が目を向けたのと、神野さんが五人の人影に襲われるのはほぼ同時だった。
この影達は、じっと僕たちが出てくるのを待っていたのだ。
「神野さん!」
彼女の体は黒いもやに包まれている。
僕が手を伸ばすと、そのもやは空気に溶けて消えた。
僕たちは、幽霊を侮っていた。
今まで出会ってきた幽霊は、何も考えていないただの欲求だけで動くものだと思い込んでいた。
膝から崩れ落ちる神野さんを間一髪で支える。
「大丈夫ですか⁉︎」
神野さんの体は小刻みに震えていた。
視線も焦点が合わずに、あちこちを向いている。
僕は顔を上げて辺りを見る。
僕と対峙していた人影も、神野さんを襲った人影も、どちらも消え去っていた。
「あのお守りはね……」
ぐったりとした神野さんは、話し始めた。
唇が白くなっている。
「とある新興宗教のものよ」
「無理して話さないでください!」
神野さんの体が心配だという気持ちもあったが、この話の続きを聞きたくない気持ちの方が大きい。
「あんた、これをくれた友達に注意しなさい」
ぜえぜえと呼吸が荒くなって、神野さんはついに上半身も起こせなくなった。
僕は、優しく横たわらせる。
青白い顔に脂汗が滲んでいるが、その瞳だけは力を失っていなかった。
「その友達は」
やめてくれ。
「あんたを」
聞きたくない。
「殺すつもりよ」
神野さんはそれを言うと、意識を手放した。
コメント
1件
ヨシトがお守りに盗聴器とGPS仕込んでたのか…!それに逆さのお札って、完全に「♡♡♡気」じゃん。怖すぎる。白紙さんが人をラベルでしか見てないって話もめちゃくちゃ刺さった。七人岬の影の待ち伏せも、神野さんが倒れるラストも心臓に悪い…!神野さん、無事でいてくれ!