テラーノベル
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「神野さんは、大丈夫なんですか?」
僕の質問に、お父さんはただ何も言わずに神野さんを見つめていた。
神野さんは二階の彼女の自室に寝かされていた。
女性らしいかわいい部屋だった。
カラフルなキャラが好きらしく、ポスターやぬいぐるみがたくさん置かれている。
それとは対照的に、神野さんの顔は真っ白だった。
カラフルな部屋に不気味に浮かび上がっている。
呼吸はしているが、いつそれが止まってもおかしくないように見えた。
体は布団で包まれているのに、驚くほど冷たい。
「どうして」
お父さんは、ぽつりと呟いた。
その後に続く言葉は、何なのだろうか。
どうして自分の娘が。
それとも、どうしてお前じゃないんだ、だろうか。
僕だって、同じ疑問を持っている。
ピンポーン。
神野家のインターホンが鳴る。
お父さんはそんなことも気付いていないようで、娘の手を握って呆けている。
僕は一階に行って玄関を開ける。
「来たぞ」
開口一番、白紙さんがそう言った。
僕の心臓が、どきりと大きく跳ねる。
先ほど聞いた神野さんの話を思い出した。
――人殺し。
そんな言葉が頭に浮かんで、大きく頭を振る。
「祈ちゃんのお父さんは上にいるんだね」
白紙さんの後ろから、足立さんも顔を出した。
てっきり白紙さんだけが来るのかと思っていたが、今はその方がいい。
僕は頷くと、お父さんに無断で家に招き入れた。
既に白紙さんには、状況を細かく電話で伝えてある。
僕は神野さんの部屋の扉を開けて、二人を中に入れた。
お父さんは最初、何が起こったかわからないようだった。
しかし白紙さんを見ると、ギロリと鋭い眼光で睨みつける。
「二度と来るなと言ったはずだが」
「あの、すみません。白紙さんを呼んだのは僕なんです」
お父さんの視線が、僕の方に向いた。
今すぐに逃げ出したい衝動を何とか抑えつける。
「……どういうつもりだ」
「白紙さんに憑いてる神様なら、神野さんを何とか助けられないかと思ったんです」
お父さんは目を見開いて、もう一度白紙さんを見ていた。
その目には、わずかに希望が見て取れる。
白紙さんが神野さんに近付いても、お父さんは止めなかった。
白紙さんの細い骸骨のような腕が、神野さんの顔あたりに伸ばされる。
しかし――……。
「無理だな」
白紙さんが、希望を打ち砕いた。
「どうして」
お父さんがもう一度、そう呟いた。
「この邪神は、俺の危機にしか現れない。近付いても襲われないなら、俺にはどうすることもできない」
あの神社にいたのが、僕じゃなくて白紙さんだったらこうはなっていなかっただろう。
今頃神野さんは、笑っていられたはずだ。
また俯いてしまったお父さんに、僕はなんと声をかけたらいいのだろう。
「これが、お前の友達がくれたお守りか」
白紙さんが、ローテーブルに置かれたお守りの中身をじっくりと見始めた。
スマートタグと盗聴器、そしてあの小さな紙切れが並べられている。
「これはひどいな。五芒星は、上下逆になっている。これは、悪魔信仰や破壊を意味する」
白紙さんが小さな紙を手に取った。
カードくらいのサイズの紙は、確かに五芒星のマークが、反対に描かれていた。
「それにここに書いてある祓詞……いや、祓詞じゃないな」
反対の五芒星の下に、毛筆で書かれた文章が書かれている。
「なんて書いてあるんですか?」
本来のお守りであれば、僕でも聞いたことのある祓え給えなんて言葉が書かれているのだろう。
「集め給え、穢し給え。神、世に要らず。禍、世に満ち給え」
白紙さんは、一息に紙の内容を読み切った。
説明されなくても、これが呪詛だということはわかる。
「簡単に言うと、穢れを集めろ。神はこの世にいらない。禍がこの世に満ちろってところか」
ざわざわとした感覚が、体中を覆う。
途方もない悪意だ。
ヨシトは、一体僕にどんな恨みがあって、こんなことをしたのだろう。
また僕が悪いのだろうか。
「これが今まで、お前が悪霊を引き寄せていた原因だったんだろう。ガキがこれに触れた時に、七人岬が部屋に侵入してきたんだったな」
「はい。それまでは何をしても開けられないみたいでした」
今は自分のことよりも、神野さんのことを考えていた方がいい。
例えいつか向き合わなければいけないとしても、それはもっと先でいい。
「ガキには本来神の護りがある。しかし直接元凶に触れたことで、呪いは発動した。家主が招き入れるなら、結界は意味をなさない」
「結界?」
あの影達に襲われた時、神野さんは特に何かを唱えたりすることはなかった。
「御神体を安置する場所には、大体ある。本来はそう簡単に結界は壊れない。
今回の相手は、それだけの存在ということだ」
今回の相手とは、あの影たちのことを言っているのか。
神野さんが、お守りのマークは新興宗教のものだと言っていた。
だから白紙さんは、関わるなと僕に言った。
「白紙さんは、何か知ってますよね」
「どういうことだ」
お父さんが立ち上がって、白紙さんの肩を掴んだ。
白紙さんの方が背は高いが、お父さんにされるがまま揺さぶられている。
「お父さん、落ち着いてください」
黙って見ていた足立さんが、お父さんを止める。
白紙さんは解放されると、手で頭を抑えていた。
目が回ったのかもしれない。
「仮にその宗教のことを聞いたところで、どうするつもりだ。そもそもこうなった原因は、七人岬だ。そっちを何とかするべきだろう」
お父さんは、ふっと笑った。
以前の優しい笑顔ではない。
その姿は、見ていられないほど痛ましかった。
「できたらやっているさ。だが残念ながら、どれだけ祓おうとしても、神様を感じられない。つまり、うちの神様じゃだめなんだよ」
お父さんの目から、静かに涙が溢れ出した。
次から次へと頬を流れて落ちていく。
床に崩れ落ちたお父さんの肩を足立さんが支えていた。
いつも足立さんは口を挟まず話を聞いているが、よく周りを見ている。
「神野さんは、この後どうなるんですか」
白紙さんは、腕を組んで少し考えた。
「たしか七人岬は、七日後にこいつを迎えに来る。それまでに、何とかするしかないだろうな」
迎えが来たら、神野さんは死んでしまう。
そしてまたあの影の一員となって、悪意を持ってこの世を彷徨うのだ。
「そんな……。お父さん、有名な霊能者とか、神社とかに伝手はないんですか?」
「無駄だろうな。それはそいつが、一番わかっているはずだ」
僕の質問に答えたのは、白紙さんだった。
ムッとして、言い返す。
「どうしてそんなことがわかるんですか。やってみなきゃわかんないじゃないですか」
「……ただの七人岬じゃないからだ」
「どういうことなんですか」
白紙さんは大きくため息をつくと、意を決したように言葉を発した。
「このマークは、同行者くんの言うとおり、新興宗教のものだ。そして、俺を生贄にした連中のものでもある」
その場が凍り付いた。白紙さんを苦しめることになった元凶だ。
「あの七人岬は、俺に憑いた邪神と同じ力を持っていても不思議じゃない」
どんどん状況が、最悪な方向に転がっていく。
あの存在を信仰している宗教に、勝ち目などあるわけがない。
「俺は今までずっと、ありとあらゆる神社や寺に断られ続けてきた。これをどうにかできる所なんて、あるわけがない」
今までの白紙さんの境遇が少し見えたような気がした。
色んな人に、助けを求めたはずだ。
それでも、その手を取ってくれた人は誰もいなかった。
神野さんは、白紙さんのことを人に興味がないと言っていたが、僕はそうではないと思う。
「……因果応報だな」
お父さんが、小さく呟いた。
「君を断った私が、同じものに苦しめられる。……私は、何か間違っていたのだろうか」
「さあな」
白紙さんは、興味なさそうに答えた。
イキリ火の玉
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#現代
コメント
1件
ああもうめっちゃ重い回やった…😭💔 神野さんの部屋のカラフルさと対照的な白い顔、お父さんの「因果応報だな」が刺さりすぎた… 白紙さんの過去が少しずつ見えてきて、彼の「興味なさそうなふり」が痛々しいよ…神野さん助かってほしい😢🙏