テラーノベル
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林間学校の夜、俺は仁人と宿泊施設を抜け出し、二人だけの時間の時間過ごしていた。
仁人の愛らしさに自分を抑えれらなくなった俺は、今まさにこの想いを打ち明けようとしてした。
しかしその言葉は、一人の人間によって遮られてしまう。
その声の主は一人の男子生徒。
透明感のある目と、柔らかい雰囲気で何となく親しみを感じる顔立ちだった。
どこかで見たような、見た事ないような。
同じ学年の生徒なんて、そのくらいの距離感だろう。
少なくとも、俺はその子の名前を知らなかった。
「あ、えっと…塩﨑くん?」
「え、仁人知り合いなの?」
「うん。あんまり喋ったことないけど、一応同じクラスだから……。」
「えー!名前知っててくれたん?嬉しいなぁ。」
その塩﨑という生徒は、そう言いながら俺と仁人の間にひょこっと顔を出す。
俺たちの間に物理的な障害物のような物が出来てしまい、少し苛立ちを覚えてしまった。
「二人だけで、こんな所にいて何してたん?」
「あー…いや、ちょっと…」
塩﨑くんからの問いかけに、仁人は言葉を詰まらせてしまう。
「んー、まあいいや!ところで、さっきの歌めっちゃ上手かった!吉田くんやろ?」
「うん、そうだけど…。」
「同じクラスなのに、吉田くんがそんなに歌上手いなんて知らんかったわ~。もっとみんなの前で歌ったらいいのに。」
悪気は感じられないし、決して嫌味のある言葉では無い。
ただ彼にとっては素朴な疑問なのだろう。
それでも俺は、その仁人への問いかけが心に引っかかった。
仁人は、恥ずかしがり屋だから大人数の前で歌うなんてしないんだよ。
「いや、流石にちょっと恥ずかしくて…。」
「えー!勿体ないなぁ。」
仁人からの回答に塩﨑くんが、不満そうな声を出す。
せっかく二人きりで過ごしていたのだ。
彼には悪いけど、早くどこかへ行ってもらいたい。
なんて、子供じみた考えを頭の中で巡らせていると、急に塩﨑くんが「あ!!」と大きな声を出した。
「ど、どうしたの?」
「いいこと思いついた!吉田くん、来月の文化祭でさ、全校生徒の前で1曲歌ってみない?」
「はぁ??」
予想もしていなかった発言に、仁人よりも先に俺が驚きの声を漏らす。
仁人自身は、塩﨑くんの発言に頭の理解が追いついていないようで、きょとんと目を丸くして、口を半開きにした状態で固まっていた。
そんな戸惑った状態の俺たちには一切構わず、塩﨑くんはそのまま話を進める。
「いやー。俺実はさ、クジで文化祭の実行委員になっちゃって。しかも、閉会セレモニー担当なの。
なんか出し物決めないといけないんだけど、全く思いつかなくてさぁ…。
ね、俺を助けると思って!お願い!!」
彼はそう言いながら、両手を合わせて頭を下げた。
文化祭実行委員。俺も去年クラスメイトからの推薦で経験した。確かに地味に大変な仕事だ。
塩﨑くん自身には頑張って貰いたいし、学校を盛り上げようとしてくれてるのは有難い。
だが、その願いは諦めてもらおう。
何故なら、仁人は絶対に断ると俺は踏んでいたからだ。
「うん……いい、よ?」
「「えっ!?」」
仁人の返答に、俺と塩﨑くんは同じ反応を示してしまった。
違うところと言えば表情で、塩﨑くんは嬉しそうな顔をしていたが、俺自身は渋い顔をしてしまった。
「え、仁人本当にいいの?全校生徒の前で歌うんだよ?」
「うん…。勇斗くんに沢山褒めてもらったし、塩﨑くんも上手いって言ってくれたから。少しくらい挑戦してみようかなって。」
「ほんまに!?めっちゃ助かる!ありがとう!」
「やめときなよ」そう言いかけそうになり、慌てて言葉を飲み込んだ。
だって、誰も何も悪い事などしていない。
俺には止める権利も、理由も存在しないはずだ。
仁人が嫌がってる訳でもない、本人が望むのなら引き止める必要性もない。
そんなことは、頭でハッキリと理解していた。
それでも、今まで俺の隣でしか歌わなかった仁人が、大勢の前でその歌声を披露する。
その姿を想像しただけで、妙に心がモヤモヤした。
「ほんまに助かるわ!あ、詳細とかやり取りしたいから、連絡先交換せん?」
「あ、うん。いいよ。」
焦りの表情を見せている俺には目もくれず、いつの間にか二人は、連絡先を交わすところまで進んでいた。
今まで家族と俺しかいなかった仁人のスマホの中に、新しい人物が追加される。
たったそれだけの事なのに、俺の胸のざらつきはさらに広がっていった。
「よしっ、完了っと。…吉田くん、下の名前仁人って言うんだ。」
「うん、そうだよ。」
「へー、じゃあ仁ちゃんやね!!」
「じん、ちゃん…?」
思わぬ呼び方をされて、仁人は小さく首を傾げた。
仁人の名前を呼ぶまで時間をかけて、俺にとっては勇気を出した一歩だったのに。
目の前で彼は、それを意図も簡単に超えてみせた。
しかも「仁ちゃん」なんて可愛らしいニックネームで。
ズルい。俺も呼びたい。
「せっかく同じクラスなんだしさ、苗字呼びとか堅苦しいやん?だから仁ちゃんで! あ、俺のことは太ちゃんって呼んで。」
「だい…ちゃん?……ふふっ、分かった。太ちゃん。」
無理矢理にでも割って入ろうかと考えたが、仁人が楽しそうに、無邪気な笑顔を見せるもんだから、ぐっと堪えてしまった。
「よーし!これから宜しくね仁ちゃん。」
「よろしく、文化祭頑張ろうね?」
「もちろん。…あっ、俺友達待たせてたんだ!やっば!じゃ、またねー!!」
大きく手を振りながら、塩﨑くんは去っていった。
何だか小さな嵐が通り過ぎて行ったようで、俺は長く息を吐いて、強ばっていた肩を落とした。
ものすごく疲れた気がする…。
「……あれ。そういえば勇斗くん、太ちゃんが来る前に何か言いかけてなかった?」
「あー、……えっとね、あのー…」
仁人からの問いかけに、頭が真っ白になる。
さっきまであったはずの言葉が、綺麗に消えてしまった。
まだ、心の中にある小さな棘は残ったままだ。
そんなモヤモヤを抱えた状態で言えるほど、俺のこの想いは容易ではなかった。
「ごめん…何でもない。気にしないで。」
「え?……分かった…。」
「そろそろ消灯時間だから、帰ろっか。」
俺は軽く俯いたまま、立ち上がり宿泊施設へと足を向けた。
仁人を部屋まで送り届け、自分も自室へと戻る。
ベッドに倒れ込み、頭まで布団を引き上げてすっぽりと被った。
言えなかった言葉も、みっともない嫉妬も全て覆い隠すように。
枕に頭を押し付けて、声にならない後悔を飲み込む。
自分はこんなにも弱くて、心が狭い人間なのかと自己嫌悪になる。
もう少し、大人の対応が出来るものだと思っていた。
でも、それが出来なかった。
何故なら、こんなにもみっともなくなる程、仁人のことが好きだからだ。
もう一度深いため息を落とすと、それは静かな夜に溶けていった。
そのまま夜が明け、二日目も何となく仁人とはぎこちなくなってしまった。
こうして、俺の心のモヤモヤは晴れることなく林間学校は終わりを告げた。
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今日見つけて一気読みしちゃいましたー☺️