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他人のふりして傍観…と決めこんでたんだけど…ああ元気に手を振られてはもう無理。
「うるさいのがきたぁー」
と小さな眉間に露骨にしわを寄せる明姫奈をよそに、岳緒くんが蒼の肩に腕を回しながらニコニコ笑顔で近づいてきた。
「蓮さん、見ててくれた? 俺と蒼のナイスコンビプレー!」
「う、うん見てたよ…。今日もナイスプレーだったね、さすがバスケ部自慢のエースコンビ…」
「あたっす! 俺と蒼はこの通り試合以外でもナイスコンビでーす!って、あ、あれ?」
「肩くむな、重ぇ。…おい蓮。俺を岳緒とひとくくりにするな。こいつひとりで毎日バカ騒ぎしてるだけなんだからな。岳緒はバスケ部の恥」
「あーつれねーこと言うなよなー、同じチームメイトじゃないかぁ!」
「騒ぐな、るせぇ」
「とか言いつつ助けてくれたくせにぃ」
「おまえがあんましバカだから見兼ねただけだ」
「ひどい!」
なんて。
さっきから元気Maxでにぎやかな岳緒くんと、真逆にひんやり冷めている蒼は、私や明姫奈と同じ高校二年生で、バスケ部のチームメイト。
こんなやりとりをしてるけど、事実ふたりはけっこうな仲良しで、絶妙のコンビプレーでバスケ部でも欠かせないエースとして認められている。
「それにしても、岳緒くんのお昼ってそれだけ? 少ないね??」
明姫奈の問いかけに、岳緒くんはニカリと笑ってかぶりを振った。
「や、これ、デザート。弁当はさっき食い終わった」
「へ、へぇ…さすが食べ盛りだね…」
と、180センチは超える壁みたいな二人を見上げて、引きつった微笑を浮かべる明姫奈。
「そ、蒼くんは? コンビニ行って来たみたいだけど…まさか、それぜんぶお昼ってわけ…」
「いや、夕方用も入ってる。今日も部活あるから」
と、おもむろに蒼が広げてみせた袋には、弁当が二個。
加えて、惣菜パン、おにぎりもわんさか…。
「え!これ今日全部食べちゃうの!?」
そのあまりに多さに、思わず声を上げたのは私だ。
「今日はおばさんお弁当作ってくれなかったのー?? いつもお重みたいなお弁当持たせてくれてたじゃない?」
「はぁ?」
蒼は器用に片眉を寄せた。
「おまえ忘れてたのかよ。あの万年新婚夫婦、昨日から海外旅行いってんだろーが」
「あ!」
そうだった…。
実は私と蒼は、家が隣同士の幼なじみ。
蒼のお母さんとも親戚のように仲良くしていて、旅行に行く何日か前にも、
「蒼ってば家事なんにもできないから、よろしくね!」
って言われてたんだった。
…なんか、すっかり忘れてた。
「ま、金は多めに置いていってくれたし、数日くらいどうってことねぇよ」
「んーでも身体に悪いよー育ちざかりなのにー。…誰か作ってくれる人がいたらいいのにねーぇ」
チラっ
と明姫奈がお得意の小悪魔Eyeを私に向けた。
明姫奈ちゃん、なぁにその目…。
私に蒼の家政婦さんやれってかーぁ?
「ずりーぞ蒼!蓮さんに料理作ってもらったら俺にも食わせろよ」
意気込む岳緒くんに、蒼は「別に期待してねぇよ」って態でふっと鼻笑った。
「ばっか、蓮は作らねーって。ケチだから。それよりほら、飯食う時間なくなるから戻るぞ、岳緒」
あっさり過ぎる反応だけ残して、蒼はスタスタと階段を上って行ってしまった。
ちょ…誰がケチよ…!
と、突っ込む暇もない。
…なによ。
せっかく、『たまには作ってやってもいいかなー』って思ってたのに!
蒼ってば、かわいくないっ!
「ふふふ。今日も相変わらずクールだよねぇ、蒼くん」
「はぁ?」
ムッとなる私を、明姫奈のくりくりの目が上目使いに見てきた。
「さっきだって、パシってパンをゲットした時、『きゃークールぅ』って女の子たちが悲鳴あげてたじゃない。気づいてたでしょ?」
「いやいや…たかが焼きそばパンゲットに、きゃーもクールもないし…」
「もう、冷めてるなぁ、蓮は。知ってるー?蒼くんって、女の子たちから『クールビューティー』なんて呼ばれてるんだよ? ふふ、けっこう合ってるよね! 他の男の子とちがって、落ち着いててよゆーある感じだし、しかもあの顔だもんね!」
「へぇ」
気のない返事をしてみたけど。
そういう蒼の評判は、よく知っていた。
だって、意識しないでも入ってくるし。
『ガチャガチャしてない硬派なところがいい』とか『あの色っぽい目で見られたら一瞬で恋に落ちちゃうー』とか
笑っちゃうような評判が。
明姫奈と二階に戻ると、先に戻った蒼と岳緒くんが、バスケ部友達と集まって窓際でお昼を食べていた。
岳緒くんを始め、バスケ部はイケてる男の子が多いって評判だけど…確かに蒼は、その中でも目立ってきれいな顔をしていた。
ニキビひとつない肌やちょっと鋭いくらいの切れ長の目に、長めの黒髪がよく似合っている。
高い背と広い肩幅はいかにもバスケマンってカンジだけど、不思議とイカつさを感じさせないのは、そんな顔立ちのせいなのか…。
「一年生の時からもモテてたけど、二年生になってレギュラーになってからはさらに人気急上昇らしくって、三年生のおねーさま方からも、年下に見えないって高評価なんだって。もう校内人気ナンバーワンって言ってもいいくらいなんじゃないかな?」
「…ふぅん」
まぁ、言われてみれば…岳緒くんや友達がワイワイ騒いでいるのを、窓際によしかかって一歩引いて見ている様子は、同い年に見えないような落ち着きがある。
年上からそういう風に見られるのも、解からなくも、ない…。
けど…なんか、複雑。