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「どうして……こんな、ことに……」
恐怖と悲しみで、頭がおかしくなりそうだった。
いや、最初からおかしかったのだ。
この館に行こうとした時からずっとだ。
でも、彼女と出会ったことで。
僕は少しずつ、気持ちを落ち着かせていたのだ。
だが、そんな優しい彼女は動かなくなった。
じゃあどうする?
彼女は最後に、僕に何を言っていた。
僕は何を聞いた?
思い出せ。
反芻しろ。
──走ってください。
言葉だけなら簡単だ。
でも、やろうとすると大変だ。
けど彼女は、僕を信頼してそう言ってくれた。
きっと逃げられると。
なら決まっている。
「ありがとう。クエリィ……」
僕は階段に向かって、全力疾走した。
彼女を、置いて。
階段を駆け上がり、振り向かずに玄関へ向かった。
「ギュオォォオオン!!」
何かを壊す音が聞こえる。
大きな足音が近づく音も聞こえた。
怖かった。
それでも、僕は玄関に向かって走った。
しばらく、周りの目が怖くて走ることができなかったこの足で。
図書室の扉を乱暴に開け、玄関に向かう。
1秒でも早く、扉へたどり着きたい。
後、100メートル。
こんなにも生きたいという気持ちがあるとは、自分でも驚きだ。
早く、外の空気を吸いたい。
後、50メートル。
もう少し彼女と話がしたかったのか、涙がまた溢れた。
本当に情けない。
後、25メートル。
本当に、彼女にはどれだけ感謝しても足りなかった。
後、10メートル。
もうすぐ。
……のはずだった。
「あがっ!!?」
右足を掴まれた。
白い化け物に。
右足が取れてしまうほどに、強い力がそこに加わる。
「いっ!!? だっ!?」
死ぬ。
僕は、ここで死ぬ。
手を伸ばせば届きそうなのに。
届かない。
彼女の気持ちを、ここで踏みにじることになってしまう。
メキメキと、骨が折れる音が聞こえた。
「ぐっ!!?」
これだけ誰かのことを思えたのも、久しぶりだ。
精神的な痛みと物理的な痛みで、意識が遠のいてしまいそうだった。
足の感覚が、もうない。
いや、僕は死んでしまったのかもしれない。
僕は必死になって身体を動かそうとした。
左足だけは動いた。
右足の感覚だけが、もうなかった。
それよりも──。
「あいつの、手がない?」
身体を何とかひっくり返し、白鬼のいる方向を確認した。
いた。
化け物が。
昨日のように倒れている化け物が。
そいつを視界に捉えたと同時に、燃えるような音が耳に入った。
「アガァァァアア!!?」
「!?」
化け物の真っ白な身体が、真っ黒に染め上げられようとしている。
「一体、何が……」
奴を痛めつけている者は、化け物の後方にいた。
あの子だ。
仮面を付けた、少女だ。
「クエリィ……?」
「グガアァァ!!?」
恐ろしい光景のはずなのに、僕は感動していた。
恐らく、彼女の行動によって化け物が燃やされているというのに。
それ以上に、彼女と会えたのを嬉しく感じていた。
やがて、化け物の叫び声は聞こえなくなった。
そして奴の残骸は、灰になって砂のようになった。
それから消えた。
まるで、最初から居なかったかのように。
クエリィは、スタスタとこちらに歩いてきた。
血で染まったコートと、謎の仮面。
不気味な存在が、僕を安心させた。
クエリィが、空っぽの瓶を見せつけた。
どうやら、あの実験室にあった薬品を利用してあの化け物を燃やしたようだ。
抜け目がないし、本当に冷静な子だ。
「立てますか?」
「……何とか」
壁を利用して、僕はその場に立った。
ポケットに入れておいた鍵を、扉にガチャリと入れた。
外の空気を吸った。
夕陽の空を見上げた。
当たり前のことなのに、それが嬉しかった。
右足を引きずりながら、なんとか歩こうとする。