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中に入るとそこは、とても豪華な造りの部屋だった。ベッドには天蓋があり、壁紙も家具類も全てが高級品に見える。
「ほ、ほんとにここに住むの?私が?」
「はい」
「何で、こんな扱い……えっと、いい意味なんだけど! 聖女ってこんな手厚くもてなされるというか、屋敷まで貰えるんですか!」
「聖女様ですから」
私は、メイド達に質問するが、何故か聖女だからと返される。
そして、聖女の待遇に困惑している私をよそにメイド達はニコニコと微笑みながら私に綺麗ですとか、美しすぎますとか口々に言ってくる。
その言葉が本心なのか社交辞令で言っているのか分からないが、褒められているのだけは分かる。
だが、正直恥ずかしい。
「あの……私、服着替えたくて。ドレスって動きにくいじゃない」
私はどうにか話題を変えたくて、メイド達に今着ている服を脱いでいいかと聞くと彼女たちは目を丸くした。
「今すぐご用意します」
そういって、メイド達が慌ただしく動き出した。
(ああ、なんか凄いなぁ……)
これが貴族の暮らしというものなんだろうか。
貴族は外出用と、室内用でドレスをわけると聞いたけどこういうことなんだ。
(まずい……矢っ張り、貴族の文化分からない! マナー作法の先生付けて貰おうかな! こんな貴族みたいな生活が続くのであれば!)
現世平民どころか、貴族なんて階級存在しない時代に生れたためゲームや小説の世界でしか貴族の生活を知らない私は、これからここで生きて行くにはそれらを知る、身につける必要があると確信した。食事のマナーなどは少しばかりシステムが働いてくれるけど、それがなくなったら食べ方は汚いし言葉遣いとか諸々全て直さないと駄目だろう。
此の世界にはソシャゲも動画サイトもない! なら、それらに使っていた時間を全てマナー作法に当てよう。
私がそう決意したとき、メイド達が戻ってきた。彼女らの手には可愛らしい色鮮やかなドレスが。
「え、えっと……」
「どれも、聖女様に似合うものをご用意したのですが」
「全て、リース皇太子殿下が聖女様のために買ったものですが」
「待って、待って……え!?」
軽く十着……いいや、外出用もあります。と付け足したメイドはドレスが保管してある部屋に行って選びますか? とも言ってきた。
一体何着あるのだと驚きつつ、さらに驚いたのは全てリースが買ったということ。
いつの間に……
「……あの、もう少し動きやすいのって。修道女みたいな」
私がそう言うと、メイド達はポカンと口を開けて固まってしまった。
もし貸し、修道女じゃなくてシスターといった方が良かったのだろうか……いいや、そこは問題ではない。
何故、固まっているのかと私がメイド達に尋ねようとすると戻ってきたリュシオルが私をみて一言言った。
「そうね、聖女様はこれからこの帝国を救って下さるのですから、動きやすい服をご用意しなきゃね」
「リュシオル」
彼女は入ってくるなり、メイド達に修道女の服をドレス風にアレンジ、オーダーメイドで作らせるように指示を出した。オーダーメイドとなると、時間はかかるみたいで一週間はかかると言う。
その間は、この動きにくいドレスで我慢するしかないようだ。まあ、リースが選んで買ってくれたものだし着ないのも勿体ない。と、私はメイド達が持ってきたドレスの中から比較的地味な物を選び着ることにした。リュシオルはあの黄金のリボンのバレッタを持ってきてくれて、髪を揺ってくれた。
銀色の美しい髪をハーフアップにし、サイドに編み込みを入れてくれた。
そして、リュシオルは私を姿見の前に立たせると笑顔で言うのだ。
聖女に相応しい装いですね。と。
鏡を見るとそこにうつったのは、この世のものとは思えないほど美人なエトワールの姿だった。やはり、何度鏡見ても自分の姿を疑ってしまう。
(エトワール……美人過ぎなのよ………!)
ヒロインストーリーで見た時も、美人で可愛いというよりかは綺麗な印象を受けたエトワールだが、いざ自分が彼女に転生してみると鏡を見るのが楽しくなるぐらいの美貌の持ち主であった。しかし、それでもエトワールはヒロインストーリーでは悪女……悪役だったのだ。しかもラスボス。
ほんと、不遇である。
私は鏡の自分とにらめっこした後、リュシオルに頼み神殿の神官に挨拶に行くことにした。屋敷から神殿が見えるようになっており、眺めているふとあのおじいちゃん神官に会いたくなったからだ。それと……
「お久しぶりです。神官さん」
「聖女様。数日ぶりですね」
「はい、あの時はほんとごめんなさい……水晶玉」
神殿の入口にいた神官に声をかけると、彼は私を見て顔を輝かせた。
私は挨拶ついでに、魔力測定器であった水晶玉のことを謝った。おじいちゃん神官はというと、そのことなどすっかり忘れていたようで思い出したかのように大丈夫ですよ。と怪我はなくてよかったと言ってくれた。
「聖女様、今日はどうされましたか?」
「いえ、特に用はないんですけど……引っ越し、じゃなくてあの屋敷ですむことになったので挨拶をと」
そう言って、私はあの豪華な屋敷を思い浮かべて苦笑いをした。
神官はそんな私の様子に首を傾げていたが、では毎日のように会えるのですね。と喜びに満ちた笑顔を私に向けた。
確かに、聖女の魔力をぶっ放して練習するにはあの壊しても再生される庭を使わせて貰えるとありがたい。これからも、お世話になると私は改めて頭を下げ挨拶をした。
それから、世間話もそこそこに神官とは別れ訓練場に向かって足を進めた。
今日も今日とて、騎士達は鍛錬に励んでいる。遠目で見た限りだと、訓練場にはグランツはいなかった。と、すると……
「また、一人林の中で木剣でも振っているのかな……」
私は、グランツと初めて出会った場所へと歩いた。石が敷き詰められた地面をヒールで歩くのはかなりきつく、同じ景色ばかり続くので道を覚えていなかったら絶対迷子になる自信がある。
しばらく歩き続けると、ようやく開けた場所にたどり着いた。
相変わらず、ここは人気がない。訓練場からも離れているし……そう思い、林の方を向くと林の奥から何かが一直線に飛んできた。
「うわッデジャブッ!」
その何かを私は間一髪の所でかわし、その場で尻餅をついた。
飛んできた何か……木剣は近くの木に刺さりそれを投げたであろう人物が私の前に現れた。
「……エトワール様」
無雑作に伸びた亜麻色の髪は、水面に反射する光のような輝き方をし、長い襟足は風にそよそよと吹かれ靡いていた。
空虚な翡翠の瞳が私を見下ろす。
「危ない……! また死ぬかと思った!」
私は立ち上がりながら、彼に文句を言うと彼は少しだけ眉間にシワを寄せた後、すぐに元の表情に戻り私の手を引っ張り立ち上がらせてくれた。
前よりかは、その翡翠の瞳に温かさを感じるが……やはり、私に関しての興味が薄いのか私をじっと見つめてくることはなかった。
しかし、私が立ち上がっても手は離してくれないグランツ。
その無表情を向けられると、どう反応すればいいのか困る……
私が戸惑ってると、グランツは口を開いた。
「剣術を教えて欲しいと言ったのは貴方です」
「……まず、謝ろうとしないの?」
「……一向に、俺の前に現われないので約束を忘れているのかと」
「また、私怪我しかけたんだけど」
グランツは私の問いかけには答えず、そのまま続けた。
無礼にもほどがある。
しかし、グランツはこういう性格だと私は耐えた。
「すみません。エトワール様が倒れていたとは知らず……それに、俺なんかがそう簡単に会える相手ではないことも、承知しています」
そういって、グランツは私に頭を下げた。
確かに、私も無理なお願いをした気がする。あの場の勢いに任せて……
グランツはかなり難しい立場にいる。そして私は帝国を救う聖女と重宝され、簡単に会える存在ではない。
だが、約束したと彼は私をずっとここで待っていてくれたのだ。
(まあ、次の日から稽古付けて貰う……とは言ってないし。そもそも約束したけど日時は決めていないし)
そう思い、グランツをちらりと見ると、彼の翡翠の瞳と目が合った。その瞳はしっかりと私をうつしており、心なしか輝いているように見えた。
そうして、ふと私はグランツの好感度を見る。
(15……?)
その数字に私は、驚愕した。この間は確か一桁だったはず……それから数日空いて、会ってもいないのに彼の好感度は上がっていたのだ。あれから10も上がったことになる。
いや、上がっていると言うよりこれは…… 私はグランツを見上げた。
すると、グランツは私に視線を合わすように膝を折った。その動作すら、絵になる。
そう、まるで騎士のようではないか。騎士なのだが。
「ですから、またこうして貴方に会えてとても……」
そう言って、私の手の甲にキスをしてきた。
それは、本当に一瞬の出来事で。
私は驚いて固まってしまった。そんな私を他所に、グランツは私を見つめる。彼の表情がほんの少し穏やかで、爽やかでとても……
「……はへぇ」
「とても、嬉しく思います」
そういって、微笑むグランツ。
だが、私の思考回路は完全に停止していた。
そして、そんな私を置いてピコンと機械音と共にグランツの好感度は18に上がるのであった。