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「私、従順ワンコ系男子に目覚めたかも知れない」
「ごめん……朝から何言ってるの?エトワール様」
朝食を運んできたリュシオルに対し私は、真顔でそう言った。
リュシオルは私の発言を受けて、怪しげに私を見た。
その目をやめろ。
と、言いたかったが今の私は無敵だった。というよりかは、今誰にどんな視線を冷たい目を向けられても痛くもかゆくもないのだ。
私は、昨日のグランツの一件以来……私の頭の中は彼のことで埋め尽くされている。単純と言われれば、反論も何も出来ないのだが兎に角グランツのことで頭がいっぱいだった。
単純と言われれば、反論も何も出来ないのだが兎に角グランツのことで頭がいっぱいだった。
ゲームをプレイしていたときは、グランツなど眼中になかったのだが、いざ現実で出逢ってしまうとこうなるものなのか……と、しみじみ思う。
そう、彼は攻略対象キャラ。しっかりとした攻略キャラだったのだ。
手の甲にキスなどイケメンがすることではないか!
イケメンにあんなことをされて、ときめかない乙女がいるだろうか?否、いないだろう!
「貴方ってほんと単純ね……それで、グランツに落ちたと」
「おちてはない! けど、けど……ッ! あれは反則だよぉ!」
私は頭を掻きむしりながら、悶えた。その様子にリュシオルはため息をつく。
そう、私はグランツに落ちたわけではない。
あくまで、いいな! 格好いいな! と思っただけである。このゲームの最推しはリースなのだから!
「リース様には、劣るけどそれでも! 実際にやられてみなよ! あれは、ダメだわ……反則よ、反則!」
私がそう言うと、リュシオルは私を憐れんだような目つきで見てきた。
だから、どうしてそんな目で見るのよ……!
グランツの好感度あれからまた上がって22になっていた。何故上がったのか皆目見当もつかないが、上がったことに変わりない。
リュシオルの言ったとおり、グランツは上がりやすいんだなあ程度にしか今のところ捉えていないのだが、今後攻略を絞っていく中で彼は良いかもしれない。稽古を付けて貰うことにもなっているし、話す機会も増えるだろうし。
そう考えると、また頬が緩んでしまい私はにやけてしまった。そんな私に憐れみの目を向けるリュシオル。
「まあ、貴方が誰を攻略しようと関係無いって言ったけど、気をつけなさいよね」
「何で?」
気をつける要素あったっけ? と思いつつ、首を傾げるとリュシオルは呆れたようにため息をついた。
「下がるのは一瞬だからよ。一応、今の貴方はエトワール。頑張って好感度あげても一瞬で落ちるのよ」
「別に高感度とか気にせずとも、お近づきになれたことが嬉しくて!」
「一人の攻略対象の好感度を上げるって事は、他の攻略キャラの好感度を下げることにも繋がっちゃうのよ。嫉妬とかでね……」
リュシオルの言葉に私は、固まった。
確かに、その通りである。
現に、リースはブライトと話している所を見て好感度が下がったわけだし。やはり、攻略キャラの好感度をまんべんなく上げるのではなく一人に絞るのがいいのだろうか。
だからといって、まだグランツに決めたわけでもない。他の攻略キャラをこの際もっと知りたいとも思っているし……そう思いつつも、私はグランツのことが頭から離れなくて。
「はいはい。気をつけます……ぐへへ」
「はあ……私は貴方のことがほんと心配よ……後ろから刺されないでね」
「大丈夫だって~!」
私の言葉にリュシオルは再び深いため息を吐いた。
―――――――
――――――――――――――――
「神官さん! おはようございます」
「おはようございます。聖女様。今日はやけに機嫌がいいようですね」
「あ! 分かります!?」
私の顔を見ただけで分かるとは、流石神官だ。
朝食を終え、散歩がてら神殿に向かうとばったりと神官と出会った。グランツとの約束まではまだあるので、神殿の中のあの庭で魔法の練習でもしようかと思ってきたのだ。
神官が微笑ましいものを見る目でこちらを見てくるのが何だかくすぐったくて、私は誤魔化すように笑った。
「それで、あの……魔法の特訓がしたくて」
「魔法の特訓ですか?」
「はい。この間初めて魔法を使ってみて、自分の未熟さを痛感して。これじゃあ、災厄が訪れたとき力になれないかもと思って」
完全に口から出任せである。だが、それを聞いた神官は目を輝かせて私を見ていた。
「それは、大変素晴らしい心がけです。さすがは、聖女様」
「アハハ……」
私の言葉に感動している様子の神官に乾いた笑いを返すと、私は早速あの庭へと案内された。
「……いつ見ても大きい」
到着した大きな扉の前で私は、その大きさのあまり圧倒されていた。来るのは二度目なのだが、何度も来たような感覚になるのは気のせいだろうか。
そして、神官はその扉を開け中に入ると私を招き入れた。
庭に入ると、サッと爽やかな風が吹き付け、咲いていた草花の花弁が一斉に舞い上がった。先ほどまでは、曇っていた空も晴れ、目も眩むほど大きな太陽がさんさんと照りつけた。まるで、ここだけ世界が違うような錯覚を覚える。
「前もここに来たとき、思ったんですけど、この庭本当に空気が美味しいですよね。何か、落ち込んだ気持ちも浄化される気がします」
「ここは女神様が作った、聖域なので、女神様の加護があるのです。傷ついた魂の浄化や、心身の疲労を回復してくれる効果があります」
そう言って、神官は私に微笑みかけた。
そういえば、気になっていたのだが此の世界の女神とは一体どういった存在なのだろうか。聖女は女神の化身と言うが……
「あの、女神って……様ってどんな存在なのですか?」
私の問いに、神官は驚いた表情をした。
まあ、予想できた反応だった。何せ、私がその女神の化身と呼ばれる聖女なのだから。知っていて当然なのだろうが……
しかし、神官はすぐに笑顔に戻り、説明を始めた。
なんでも、女神はこの世界の創造主であり、我々人類を生み出した母なる存在であるという。
女神というのは、天界にすんでおり私達人類滅亡の危機が訪れると聖女という人間の姿を取り地上へと降りてくる。
だから、女神に対する聖女に対する期待というか眼差しは他とは比べものにならないのだと私は悟った。
そして、その危機というのが災厄なのらしいが……
「その、女神と対となる存在っているんですか? 魔王とか、悪魔とか……?」
私は気になり、神官に聞いてみた。すると、神官は少し困った顔をし、首を横に振った後口を開いた。
「女神の対となる存在は……」
「混沌、人ならざる……負の感情です」
そう神官の言葉に被せてきた人物はザッザッと草を踏みしめ私の方へと向かってくる。
その声に、聞き覚えがあり私はまさか……と振返る。
「盗み聞きするつもりはなかったのですが」
「ブライト……!」
風が吹きつけ、花弁が舞うと共に現われたのは黒髪ハーフアップの美青年ブライト・ブリリアントだった。