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僕は少し緊張しながらも、次の目的地を提案した。
岬くんは、僕の言葉に目を輝かせ
「え、マジで?行ってみよ!場所わかる?」
と、嬉しそうに笑ってくれた。
「うん大丈夫!ちゃんと調べてきたから」
僕は自信満々に言って歩き出すも、内心はドキドキしながら、スマートフォンの地図アプリを頼りに目的地を目指したのだった。
カフェに到着すると、店内は落ち着いた雰囲気で、ジャズが静かに流れていた。
席数も多くないため、ゆっくりと過ごせそうな空間になっている。
店員さんに案内されて、窓際のソファー席に腰掛け、僕はメニュー表を開いた。
メニュー表には、世界各地の様々な種類のコーヒー豆を使ったものが並び
それぞれの豆の特徴や、合うフードペアリングなどが丁寧に書かれていて
読んでいるだけでも楽しかった。
僕は、岬くんが喜んでくれるだろうと確信し、内心でガッツポーズをしていた。
「みさきくんもう決めた?」
僕は、得意げに岬くんに尋ねた。
「うん、ブレンドにしようかな…ところで、朝陽くんさ」
岬くんは、メニュー表から顔を上げ、僕の顔をじっと見つめた。
「ん?」
唐突に名前を呼ばれて、僕はびっくりする。
「ここ、コーヒーとミルクしかないけどいいの?」
岬くんの言葉に、僕は一瞬、時が止まったような感覚に陥った。
「え?ま、待って…」
焦りながら慌ててメニュー表を再確認するが、どこを見てもコーヒーの種類しかなく
一番最後に申し訳程度にお子様用の「・ミルク#450円」という文字が目に入るだけだった。
(コーヒーとミルク……?ここ紅茶とかないの?!)
頭の中が真っ白になる。
どうしようと、僕は頭の中で必死に考えを巡らせた。
パニック障害持ちな手前、カフェインは体に毒と言っても過言ではない。
母や病院の先生にも口酸っぱく止められていた。
だからこそ、僕はあの時
「美味しいハーブティーが楽しめる♪」というキャッチコピーを見てこのカフェに決めたというのに
そんな気配はひとつもなく、完全にコーヒー専門店だった。
(…も、もしかして…見間違えた…??)
冷や汗が背中を伝う。
「朝陽くん、大丈夫…?」
慌ててメニュー表から顔を上げれば、岬くんが心配そうにこちらを覗き込んでくるのが目に入った。
「え……あっ……その…み、ミルクにする」
僕は、しどろもどろになりながら、かろうじて言葉を絞り出した。
「そっか。朝陽くんさ、もしかしなくても俺が行きたがってたって理由だけで決めたでしょ?」
岬くんの鋭い指摘に、僕は思わず目を逸らした。
「……ぅっ…み、みさきくんのことで頭いっぱいで忘れてたんだもん…っ」
核心を突かれ、僕は本音しか言えなくなった。
すると、岬くんはフッと小さく笑った後、続けるようにして口を開いた。
「…朝陽くんらしいね」
「わ、笑わないでよぉ……」
僕がそう言うと、岬くんは笑いを堪えながら、僕の代わりに店員さんに注文してくれた。
僕もそれに続いて、ミルクを注文した。
暫くして運ばれてきたコーヒーの香りに、僕はうっとりとしてしまう程だった。
湯気と共に立ち上る芳醇な香りに、思わず見惚れていると
岬くんも同じように、幸せそうに微笑んでいた。
「朝陽くん、ここ出たら何かジュース飲んだ方がいいかもね」
「そ、そうだね」
岬くんは、僕の身体のことを理解してくれている分、優しく気遣ってくれる。
その言葉に、僕は本当に感謝しかなかった。
◆◇◆◇
暫くして店を後にすると、僕たちは次の目的地であるゲームセンターへと向かった。
カフェでのハプニングはあったものの、岬くんの優しさに触れて、僕の心は再び温かくなっていた。
ゲームセンターは駅近くのビルの中にあり
その入り口から既に、賑やかなゲームの音が漏れ聞こえていた。
休日とはいえたくさんの学生たちで賑わっていて、店内はかなりの混雑具合だ。
カラフルな光が瞬き、様々な効果音が混じり合い、独特の活気に満ちている。
二人で奥へ進んでいくと
手のひらサイズのネコのキーホルダーが山盛りになっているUFOキャッチャーを見つけた。
そのキーホルダーは色とりどりで、愛嬌のある大きな目をしている。
「わぁ……かわいいなぁ」
思わず声を漏らしてしまうと、岬くんも僕と同じ方向を見ていることに気づいた。
「可愛いね、朝陽くんこれ欲しいの?」
「う、うん、ちょっとやってみてもいい?」
僕は、その可愛らしい猫のキーホルダーに心を奪われていた。
「もちろん」
岬くんは、僕の背中をポンと押してくれた。
僕は小銭を取り出して投入口に入れると、早速チャレンジすることにした。
狙いは、一番手前にあった白い猫。
クレーンを操作し、慎重にアームを動かす。
掴む部分は意外と大きくて、持ち上がってくれそうに見えるのだが、なかなか思うようにいかない。
「ああっ……また落ちちゃった……」
何度か挑戦するが、キーホルダーはするりとクレーンから逃げていく。
「でも結構あと何回かで行けそうじゃない?」
岬くんが、僕の隣で励ますように言った。
「うん、もうちょっと頑張ってみる…」