テラーノベル
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そして──実技試験が始まった。
ギルドの訓練場は、石造りの広い空間だった。
壁には無数の傷跡が刻まれている。
ギルドマスターのモブグリムが、構えを取りながら笑った。
「さぁ!順番に来な!」
まずは辰美の試験だ。
「行きますよ!」
辰美が拳を構える。
そして──
ドンッ!!
軽く繰り出したパンチ一発で、
ギルドマスターが吹っ飛んだ。
「ぐふっ!?」
壁に激突するギルドマスター。
「……ご、合格!」
ギルドマスターが震える声で言った。
*
次は辰夫の試験だ。
「失礼する」
辰夫が軽く拳を振るう。
ドガァッ!!
またギルドマスターが吹っ飛んだ。
「ごはっ!?……ご、合格!」
この2人、本体はドラゴンだから当然だ。
*
そして、エスト様の試験。
「さぁさぁ!お嬢ちゃん!かかってこい!」
ギルドマスターが優しく声をかける。
子供と遊ぶ気分のようだ。
「あーい」
エスト様が元気よく返事をした。
「いっきまーす!ダークアロー!」
その瞬間──
シュンッ……!
音よりも速く、影の矢が放たれた。
「──無詠唱!?」
ギルドマスターが目を見開く間もなく、
その手のミスリル剣が無残に砕け散った。
ボキンッ……!
「え……魔力制御が……完璧すぎる……」
ギルドマスターが呆然と呟く。
「子供の手から出たとは思えねぇ……ッ」
ギルドマスターは折れた剣を見て立ち尽くす。
「……ご、ご!合格ッ!」
エスト様は小さく「えへへ」と笑っていた。
その笑顔は、かつて泣き虫だったあの子の面影を、
ほんの少しだけ拭っていた。
「ねぇ?辰夫、辰美?」
私が二人に聞く。
「たまーーーーーーに凄いんだけどさ?
やっぱあの子……天才なのかな?」
「む?そうですな」
辰夫が頷く。
「先日のバリアの精度・強度はかなりのものでしたし、
しかも、本人いわく”夢で思いついた”そうですよ」
辰美が補足した。
「……夢か」
私は呟いた。
「……うん、似合ってるわ」
「あの子は……きっと、夢そのものなんだと思う」
(……私の……ね?)
私は、自然と笑っていた。
Fは夢だったけど、あの子の力は現実だった。
それだけで──今日はもう勝ちみたいな気がしてた。
*
最後に、美しい私の試験だ。
「ふふ……おじさま……?」
私がギルドマスターを見る。
「……壊せるものならどうぞ」
私は不敵に笑った。
「……ヤドカリモード!」
私は背中の殻を見た。
「あ、でも……おじさま……ちょっと待ってね?」
私は殻に入ろうとした。
「……よいしょっと……」
ゴソゴソ……
「……」
ギルドマスターが無言で見ている。
ゴソゴソ……ゴソゴソ……
「あれ……き、き、巨乳が引っかかって……」
私が殻の中で呟く。
「肩幅だろ……」
ギルドマスターがボソッと。
「肩!?え、エシックス問題!?
女子に肩幅とか言うのやめて!?」
ヤドカリの殻に入ろうとするが、上手く入れない。
さっきまでヒョコヒョコ出入りしてたのに。
「殻の中に入る姿がマヌケで笑える」
エスト様が笑う。
「サクラ殿らしいですな」
辰夫が笑いをこらえている。
「こういう締まらないところが良いのです」
辰美が嬉しそうに言った。
ゴソゴソ……ゴソゴソ……
「さぁどうぞ!巨乳でごめんなさいね!」
私がやっと殻の中から声を出す。
「あ、はい。肩幅だけど」
ギルドマスターが攻撃を始めた。
ガンッ!ガンッ!ガンッ!
剣で何度も殻を叩くが、
一向に壊れる気配が無かった。
「……はぁはぁ……か、硬すぎる……」
ギルドマスターが息を切らす。
「ご、合格!」
「ふふふ……戦わずして勝つ……私は美しい……」
私はニョキっとヤドカリから顔だけ出すと、ドヤ顔で言った。
「「「ねぇ?実はそのスキル凄くない!?」」」
エスト様と辰夫と辰美が驚いた。
「ふふふ!こんな事も出来るのよ!」
調子に乗った私は、ヤドカリから飛び出した。
「……見てなさいッ!」
私は密かに練習していた、憧れのあのヒーローへの変身を披露する!
「サクランマン!!」
シュワァァァァ!!
瞬間!貝殻の鎧が私の全身を覆う!
キラーン☆
「「「……おおお!?カッコいい……」」」
三人が感嘆の声を上げた。
胸には特に力を入れてある。(=盛ってる)
スカスカの空洞がある気がするが、気のせいだ。
「「「いや胸ーッ!嘘つくな!」」」
すぐにツッコミが入る。
「……キュイーン……ガチャン!」
私が効果音を口で言いながら動く。
「……キュイーン……ガチャン!」
「Hi!! 調子はどう?ジャーヴィス」
私が話しかけると、私が裏声で答える。
「コンニチハ サクラサマ キョウモ ウツクシイ デスネ」
ちなみに効果音含め、全て私の声だ。
何を隠そう私もそういう時期なのだ。
もっと言うと拗らせてさえいる。
「「「…おおお!?し、喋った!?」」」
三人がさらに驚く。
魔王軍はバカしかいない。
「いや、口動いてたぞ……」
ギルマスがツッコむ。
ざわ……ざわ……
周囲のギルド員たちもざわついた。
「え?今……俺の脳に直接……?」
「幻聴か……いや、みんな聞こえてる……!」
「おい、あの鬼女、頭の中にAI積んでるぞ!?」
魔王軍だけじゃなかった。
訂正。この世界にはバカしかいない。
「ふふふ……手のひらと足の裏からビームを出せれば完璧」
私が説明する。
「それを応用すれば空も飛べるのよッ!」
「「「…す!すごい!!!」」」
三人が目を輝かせる。
「さらにもう一つ、仮面サクラーというのもあってね?」
私は超絶ドヤ顔。
「ベルトに風を当てるとね?」
「「「ベルトに風!?」」」
魔王軍のバカどもの目がキラキラ。
「風圧をエネルギーに変換して変身──」
私がさらに説明を続けようとした時──
「お前ら早く帰れよ!」
ギルドマスターが叫んだ。
「まだ遊んでるんだもん!!!」
私が抗議する。
「遊んでんじゃねーよ」
ギルドマスターが怒った顔で言った。
「全員失格でいいか?」
「「「「はい。帰ります」」」」
私たちは素直に帰ることにした。アヒル口で。
*
── こうして、私たちは無事に冒険者となった。
『天の声:なれたのかよ』
(つづく)
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