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こんにちは!カエデです!
エドノに向けて旅を続ける私たち。
石畳の街道は思っていたよりも整備されていて、
歩きやすくて助かります。
午後の陽だまりが心地よい中、
いつものように私はローザさんと他愛もない話をしていました。
「ローザさん、エドノってどんな街なんですか?」
私が聞くと、ローザさんが優しく答えてくれた。
「そうですねぇ、商業都市として栄えていて、
色々な国の商人さんが集まる場所だと聞いています。
きっと珍しい品物もたくさんあるでしょうねぇ」
「わあ、楽しみ!美味しい食べ物とかもありそう♪」
そんな会話を楽しんでいると、
突然ツバキが足を止めました。
「……異形の気配が、途絶えている……」
(……おかしい。モンスターが、一匹も出てこない……)
ツバキが呟いた。
その瞬間、ツバキの表情が一変した。
いつもの厳しい顔つきが、さらに険しくなる。
「い、いったい何がおかしいの?」
心配になった私は、慌ててツバキに聞いてみた。
こんなに緊張した空気になったのは初めてで、
何だか胸がドキドキしてくる。
「闇の帳が降りしこの三日、
邪なる者の影すら踏んでいない……不吉な……」
ツバキの声には深刻な不安が滲んでいた。
(街を出てから三日経つけど、
モンスターがゼロよ。こんな事、ありえない……)
目は警戒心でギラついてる。
まるで見えない敵に囲まれているかのように、
肩に力が入っている。
……うん?
いや、私けっこう見たけどな?
何言ってんだろツバキ?
「えっ?モンスターならさっきも来てたよ?」
私の言葉に、ツバキが振り返った。
「はあ!?カエデ、何言って……オホン!」
ツバキが咳払いをする。
「…平穏なる幻想に飲みゃれたか……?」
(はあ!?カエデ、何言って……オホン!
…平和そのものじゃん!)
すると、隣でローザさんが「それだ!」って顔をした。
いつの間にかポケットから小さな手帳を取り出し、
勢いよく書き始める。
【聖女の御言葉】
「平穏なる幻想に飲みゃれたか……?」
【注釈】
⇒ 外的脅威がないことに疑念を持つ鋭き問い。
真の平和とは、表面には見えぬ罠であると示唆。
「ローザ!?ちょっと待て、それも教典に載せんの!?
ていうか今の、ちょっと噛んだし……!」
ツバキのツッコミが刺さる中、
ローザさんはうっとりとページを撫でていた。
「ツバキ?でも、本当にいたよ?
さっきも、その前も……」
どうしよう……信じてもらえない…
ツバキに嫌われたくない…
そんな不安で胸がいっぱいになりかけた時、
遠くの森の向こうに小さな影を発見した。
「あ!見て!あそこにいるよ!」
私が指差した方向を、ツバキが目を凝らして見つめる。
「……遠き虚空の果てに蠢く影……!」
(え?……あー、確かに……)
「って、遠ッ!!あれもう背景じゃん!!」
その瞬間、またしてもローザさんがキラリと目を光らせた。
「いただきました!」
例の小さな手帳をすかさず取り出し、
さらさらと書き始める。
【聖女の御言葉】
「……遠き虚空の果てに蠢く影……!」
【注釈】
⇒ 視認困難なモンスターを即座に視認した際の詠唱。
聖女様の千里眼が冴え渡る瞬間であった。
「ローザ?話をややこしくしないで?」
慌ててツバキが否定してたけど、
ローザさんはもう聖女モード全開。
たぶんそのページ、後で装丁される。
*
うーん?まぁいいか。
ツバキに見せた方が早いよね。
「ツバキよく見ててね?
じゃあ──いくよ、ウィルソン1153世!!」
私は愛用の投石「ウィルソン」を取り出した。
「ひゃっほー!カエデ!俺を使うんだな?やってやれ!」
ウィルソンが叫ぶ。
「うん。宜しくね」
手のひらにすっぽり収まる、絶妙な重さと形の石だ。
表面には長年の使用で付いた小さな傷があり、
それがまた愛おしい。
「ウィルソン……?1153…?
カエデ!待て!誰と話してる?」
困惑した表情でツバキが石を見つめる。
「ウィルソン1153世とだよ?
あ、だいたい投げると砕けるからこれが1153発目!」
「えっと……今、情報量が多過ぎて渋滞してる……」
「ツバキー?いくよー!見ててねー!?」
気合いを込めて、私は石を思い切り投げた。
ギュン!!
石は空気を切り裂くような音を立てて飛んでいく。
ズギューーーーーーン!!!!!
……パカーーーンッ!!
「カエデ……ヴァルハラで……待ってるぜ……!」
ウィルソンの魂が叫んだ(気がした)。
遙か彼方で、小さな爆発音のような音が響いた。
「よしッ!!ありがとうウィルソン!さようなら!」
私は足元に落ちていた手頃な石を拾った。
「こんにちは!ウィルソン1154世!」
「切り替え早ッ!?」
ツバキがツッコむ。
「ビギィィィィ!?!??!!」
モンスターの悲鳴が風に乗って聞こえた。
──天の声補足──
これは倒した音ではない。
カエデの石投げで【移動不能】になっただけである。
よって、経験値は入らず、レベルも上がらない。
ついでに、本人は戦っていると思っていない。
天の声としてもどう処理すればいいのか悩んでいる。助けて。
「よしッ!!」
私は勢いよくガッツポーズを決めた。
胸が弾むような達成感に包まれる。巨乳だし。
「こんな感じで、かれこれ三百回くらい撃退してるよ?」
「そうですよね」
ローザさんが頷く。
「あと、今朝は百体くらいの大群も来たよ」
「……百」
「うん。ちょっと近くまで寄らせちゃって。てへへ☆」
「うんうん、あの時は私も死ぬかと思いましたぁ〜」
笑顔のローザさん。フォローありがとう。
「ち!ちょっと待って!?そ、そんな修羅場あったの!?」
ツバキが叫ぶ。
「ツバキは先頭歩いてたから気付かなかっただけじゃん?」
「なるほど!!……ってんなわけあるかー!!
いや、その前にさ……え?今、石投げたよね?何したの?」
ツバキの声が震えている。
今日のノリツッコミは冴えてないなぁ。
信じられないものを見たような表情で、私を見つめている。
「うん?ウィルソンを投げたんだよ?」
ドヤ顔で石を掲げながら私は言った。
太陽の光を受けて、ウィルソンがキラリと光る。
──沈黙が流れた。
鳥のさえずりと風の音だけが、静寂を破っている。
「パクパク……。」
ツバキは完全に言葉を失っていた。
口をパクパクと開閉させているが、音が出ない。
「つ、ツバキ様?」
ローザさんが心配そうに声をかける。
メモの準備をしながら。
「……あの距離から……一撃で……しかも本人レベル1」
震え声で呟く。
「しかもその辺の石で……」
「えへへ、褒められちゃった♡」
私は嬉しくて頬を染めた。
認めてもらえたようで、胸の奥が温かくなる。
巨乳だから?
「運命に選ばれし天然の破壊神…カエデ……!」
(さすが超天然…カエデ…常識が通用しない……)
ツバキが呟く。
──しばし沈黙。
「……この旅……想像以上にしんどい……」
ツバキがぽつりと呟いた。
そして頭を抱えて、その場にしゃがみ込んでしまった。
「え?楽しいよ?ね?ウィルソン」
「おうよ!!」
ウィルソンの声が聞こえた。
「大丈夫ですよ、ツバキ様」
ポン。
ツバキの肩をローザさんが優しく叩いた。
「カエデ様と一緒にいると、
『普通』という概念を忘れてしまいがちになりますから」
ツバキは無意識にカイ様の言葉を呟いた。
「虚無の深淵がまばたきをした。
──我が魂が一瞬、視線を逸らした気がした」
(つまりビックラこいた)
「それですッ!!」
ローザさんが叫びメモメモメモーッ!!
「それですじゃねー!」
ツバキは膝に手をついたまま、遠くを見つめていた。
どこか諦めたような、悟ったような顔で──。
「……まぁカエデだしね。昔から何でもアリだし。いまさらか」
「えへへ。ツバキに褒められた!」
「褒めてない」
──その時。
「あ!ほら!シーガの街が見えてきましたよー!」
ローザさんの明るい声に、私は顔を上げた。
「わあっ、本当だっ!」
私は思わず駆け出した。
風が、旅の続きを告げていた。
(つづく)
《平穏なる幻想に飲まれたか……?》
──これは翌日、シーガの街の教会の壁に彫られていた。
しかも金ピカの額縁で飾られ、下にはこう書かれていた。
【カメリア聖典 第九百五十章 第十四節】
「ローザぁッ!?」
◇◇◇
──今週のカイ様語録──
『虚無の深淵がまばたきをした。
──我が魂が一瞬、視線を逸らした気がした。』
(つまりビックラこいた)
解説:
TVアニメ『堕光のカイ』第1764話より。
冥獣の咆哮にビビった瞬間のセリフ。
カイ様だけが一人で驚いて尻もちをついた。