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コメント
6件
尊い。素晴らしい。美しい。とても美味しい。
カランコロン、と控えめに扉に付いた鈴の音が鳴る。
控えめ、とは言っても静まり返った店内には十分に響き渡る音だ。
手元のメモから目を放して顔を上げる。
ゆっくりと扉を締め、軽く会釈をするのはこのお店の常連さんだ。
今日は木曜日。二週に一度ほど、決まって木曜日にふらりとこの花屋を訪れる、不思議なひとだ。
「いらっしゃいませ。今日は何のお花をお探しですか?」
「どうも。今日はただ、花に触れたくてそれでもいいですか?」
「もちろんです。じゃあ、こちらへどうぞ」
俺の母が経営しているこの花屋は一風変わった店だ。
こぢんまりとしたレジや花が並ぶスペースに加えて温室ガーデンがある。
いくつもの花が植えられていて普通の花屋にはないような珍しい花まで様々な種類を取り揃えている。
とはいってもそこだけで花を揃えるのは不可能でもちろん店の外からの仕入れにも頼っている。
「どうぞ」
扉の先にあるのは丁寧に世話をされたと一目でわかる生き生きと咲く花々。温室の中心には小さなテーブルとイスが
2脚あってお茶を楽しめるスペースもある。元々は母の姉、つまり俺の叔母が作った温室なんだとか。
趣味で作るにしては中々金がかかるだろう広さだ。ネットで紹介すれば瞬く間に人気が出るような場所なのに、
母が嫌がることもあってここは一部の常連さんのみが知る秘密基地となっていた。
隣を見るとそのひとりたる常連さんがほうと小さく息を吐いていた。
不快を示すそれじゃなくて安心できる空間に入ったときにふいにでる、そういったものだった。
「うん、やっぱりここは何度見ても綺麗だ。」
小さくぼそっと紡がれるひとりごと。ガーデンの花を褒められると自分も褒められたような気分になる。
心の隅々までじんわりとあったかいものが行き届いて、心に余裕が生まれる。
お店に来て、花を見るお客さんの表情が好きだ。
でも、そう思えるようになったのはつい最近のことで。
きっかけは今隣にいる優しい目をしたこの常連さんだった。
hrurを書こうと思ってhrurじゃなくなった作品です。
彼らがプライベートならこんな感じかなとか妄想しているものなので
感覚的にはhrur風味ということでお願いします