『天使が泣いた日』
attg
tg視点
あの日の空は、音がしなかった。
風も止まり、街の喧噪も、鳥の声さえ消えていた。
世界が、息を潜めていた。
俺がその存在を見つけたのは、そんな朝だった。
――光の中に、ひとりの少年が立っていた。
白じゃない。
“白よりも静かな光”だった。
その背には羽があって、風もないのに揺れていた。
俺は、呼吸を忘れた。
少年は、俺を見た。
その瞳は、どんな言葉でも届かないような青で。
目を合わせた瞬間、心臓がゆっくりと痛くなった。
「……人間?」
声が、降りてきた。
音というより、触れる光のように、胸の奥に届いた。
「そう。あなたは?」
「俺は天使。……名前は、ちぐさ」
天使。
それが冗談じゃないことは、見れば分かった。
現実に存在してるのに、存在していないみたいだった。
「なんで、ここに?」
「……君が泣いたから」
息が詰まった。
そんなはず、ない。
誰にも見せていない痛みなのに。
ちぐは俺を見て、少しだけ微笑んだ。
その笑顔は、“赦し”みたいだった。
まるで、俺の全部を知って、それでも受け入れるみたいに。
「人間って、痛いね」
「……あんた、何言ってるの」
「悲しいのに、それでも生きようとする。
壊れてるのに、光を探そうとする。
それが、痛くて、美しい」
風が吹いた。
ちぐの羽が鳴って、ひとつ、羽根が俺の足元に落ちた。
拾おうとした手の先で、それが光に溶けて消えた。
俺は、泣いていた。
自分でも気づかないうちに。
「泣かないで」
「……勝手に涙が出るんだよ」
「それが人間。俺には涙がないから、羨ましい」
その言葉に、胸が締めつけられた。
涙がない世界に生まれて、それでもこんなに優しいなんて。
「ねぇ、ちぐ」
「うん?」
「天使って、恋をするの?」
一瞬、風の音が止んだ。
空が、息を潜めた。
羽の影が震えて、光が滲んだ。
「……しちゃ、いけない」
「でも?」
「でも、君の声を聞くたびに、胸が痛くなる」
ちぐの指が、俺の頬に触れた。
冷たくない。
あたたかい。
ただ、それだけで世界が変わってしまうほどだった。
「それが、恋だよ」
俺が言った瞬間、
ちぐの瞳から、一筋の光がこぼれ落ちた。
それは涙じゃなく、羽の光だった。
「……そっか。じゃあ、俺、堕ちたんだね」
「ちぐ」
「君に触れた時、もう戻れないって分かってた」
空が裂けたみたいに、光が強くなった。
羽が震える。
そのたびに、世界が泣くような音がした。
「行かないで」
「行きたくない。でも……天使は、愛を持つと、空にいられないんだ」
光が俺の視界を包んだ。
最後に見えたのは、彼の笑顔。
世界のどんな色よりも、綺麗だった。
「ありがとう、あっとくん。
君に出会って、俺は“生きる”を知った」
そして、羽音が消えた。
手のひらに残ったのは、
ひとひらの白い羽と、まだ消えない温もり。
俺は、それを胸に抱いたまま、空を見上げる。
光が降りていた。
――まるで、彼がまだここにいるみたいに。
そして俺は、そっと呟いた。
「なぁ、ちぐ。人間は、泣きながらでも生きるんだよ。だからまた、どこかで見ててくれ」
空の向こう、羽の残光が揺れた気がした。
それが“返事”みたいで、俺は少しだけ笑った。
――天使が泣いた日。
俺は、生まれて初めて、“祈る”ということを覚えた。
コメント
7件
切ない… でも、こういうの好き😊
今回はあとちぐ!✨最高すぎる😭👏✨もうハチャメチャにラブ💞すぎる🥰🩵🫶 でも、自分がアホすぎて考察するのがちょびにむじかった🥺 次の作品楽しみにしてますね!🩵🫶
初💬失礼します.ᐟ.ᐟ こんな切ない恋愛物語、?書けるの凄すぎです.ᐟ.ᐟ次も楽しみにしてますっ.ᐟ.ᐟ