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最初にピアノに触れたとき、彼は驚いた。
鍵盤は白と黒の繰り返しで、まるで規則そのもののように見える。だが、押した瞬間に鳴る音は、どこか不安定だった。強く弾けば荒れ、弱く弾けば消えそうになる。
「もっと指を軽く」
教師の声が飛ぶ。
彼は例の旋律を弾く。
ド、ド、ソ、ソ――
だが、すぐに止められる。
「それじゃ“歌”にならないわ。飾ってごらん」
「飾る……?」
言葉の意味がわからない。
だが教師は、同じ旋律を弾いてみせた。
音が増えている。
細かく分かれ、流れ、同じはずのメロディが別のもののように聞こえる。
「同じでも、同じじゃないの」
彼は何度も繰り返す。
指がもつれ、音が濁り、形が崩れる。
それでも、不思議と“あの星”は消えない。
「……ある」
小さく呟く。
どんなに崩れても、どこかにあの旋律が残っている。
それが彼には、奇跡のように思えた。
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