テラーノベル
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町を出た日のことを、彼はよく覚えている。
駅のホームは思ったより狭く、人の声が反響していた。
見送りに来た母は、昔と同じように笑っていた。
「遠くに行くのね」
その言葉に、彼は一瞬だけあの夜を思い出す。
遠いと、光る。
列車が動き出すと、景色が流れ始めた。
畑、川、知らない家々。
音楽も、同じだった。
新しい街で出会う旋律は、どれも流動的だった。
形を持たず、変わり続ける。
「固定されてないんだな……」
彼は気づく。
音は、場所によって表情を変える。
同じメロディでも、弾く人が違えば意味が変わる。
まるで水のように。
夜、見上げた空は少し違って見えた。
星の配置も、光の強さも。
それでも、あの旋律は浮かび上がる。
ド、ド、ソ、ソ――
どこへ行っても、それは彼の中にあった。
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