テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
RanJam
#病み
若井は軽くため息をつきながら冷蔵庫の扉を閉めた。
「いや、偏りすぎだろ…」
さっきまで“なんか作ろう”なんて余裕ぶってた自分がちょっと恥ずかしくなる。きのこオンリーでどうにかなるほど料理スキルに自信はない。
けど、ふと口元が緩む。
「…涼ちゃんらしいわ」
きっとスーパーで適当にカゴに入れて、気づいたらこうなってたんだろう。目に浮かぶようで、つい笑ってしまう。
スマホを取り出して、キッチンにもたれながらメッセージを打つ。
“冷蔵庫、きのこ祭り開催中なんだけど”
送信ボタンを押してから、もう一度冷蔵庫を開ける。しいたけ、えのき、しめじ、舞茸……種類だけはやたら豊富だ。
「…逆にすごいな」
少し考えてから、腕まくりをする。
「よし、やるか」
フライパンを取り出し、バターを落とす。じゅわっと広がる香りに、ちょっとだけやる気が出てきた。
そのとき、玄関の方からガチャっと音がした。
「ただいまー…」
聞き慣れた声に、若井は振り返る。
「おかえり。ちょうどいいとこ」
「…なにそれ、いい匂い」
少し疲れた顔の涼ちゃんが、靴を脱ぎながら首を傾げる。
若井はフライパンを軽く揺らしながら笑った。
「お前のせいで、きのこフルコースな」
「え、まじで?」
「冷蔵庫見てみ。引くぞ」
くすっと笑う涼ちゃん。少しだけ元気が戻ったみたいで、若井はそれに気づかないふりをした。
「…まあ、たまにはいいだろ。きのこも」
「うん、いいかも」
そう言って隣に立つ涼ちゃんの横顔を、若井はちらっと見る。
——こういう何でもない時間が、意外と嫌いじゃない。
フライパンの音が、静かな部屋にじんわり広がっていった。