120万円の出金をした日付で‘ロサンゼルス大会。航空券○円、保険○円、ホテル○円…’と内訳が書いてある。
これはしーちゃんと一緒に行った大会だから、二人分ちゃんとここから出金されていたことにホッとする。
「どれも丁寧にありがとう、しーちゃん」
そう言いながら順番に通帳を捲ると
「…入金…ヤマダタロウ?」
私の18歳の誕生日に、300万円の入金があった。
「父親が他人名義で入金してきたんでしょ…明らかに偽名よね」
「…そう……」
「ま、いいわよ。もらっておけば。見て分かるでしょ?ずっと公立だったし、ダンス以外の習い事もゼロ。あ、英語の個人レッスン1年はここから出てるけど、何とかやって来られたのよ」
「うん。これまでありがとう、しーちゃん。ここからは一人でやってみる」
「そう思う年齢でもあるでしょうけど、条件はうちで週に二度の夕飯。ダンスを続けるなら絶対条件よ。体がもたないに決まってるもの」
そうして私が独り暮らしを開始してから2年後に、しーちゃんが再婚した。
久しぶりに4年前のことを思い出しながら電車に揺られる。
事故遅延の電車とは路線が違うので、いつもと同じ時間にスクールの最寄り駅に到着する。
ここで電車を降りるとホームから一旦階段を降り、地下を通って反対側の改札へ上がる。
いつもと同じはずだった。
線路の下をくぐり抜ける通路への階段だから結構長い。
ホームにはもちろんエレベーターがあるけれど、私は使ったことがない。
あまり混んでもいない時間なので軽快に階段を降り始めると、ゴトッ…か、ガタッ…か、の音が上から聞こえるのと同時に
「ぅ……おいっ…」
「あっ…!」
と声も聞こえたので振り返る……普通なら瞬間的に振り返るのだけど、私の少し前にいた二人の小学生が振り返るのが僅かに先で、その子たちの目と口が異常に大きく開かれるのを見てから振り返ると……
すでに目の前にシルバーの巨大な物体があり、私の肩を直撃すると、私もその重い衝撃に下へ落ちる以外になかった。
素直に力に逆らわないのが一番だったのかもしれない。
でも、瞬発力などを常々鍛えている私は無駄に自分の力を発揮して
‘この角度で落ちれば小学生の上だ’
と反射的に計算してしまったところまでは覚えている。
目が覚めた時には救急車の中で、名前を聞かれてから家族の連絡先を聞かれる。
それだけ答えたあと
「…ケガ……は?」
私は救急隊員に聞いていた。
「着衣で確認できる出血はありませんが、意識がなかったくらいの頭部打撲。大島さんが把握している状況は?」
そう言う間も、救急隊員は脈や血圧をとっている。
「上から物が落ちて来て右肩にぶつかって…」
私が思い出したように右腕をゆっくりと動かしてみるのを、救急隊員が見守っている。
「…打ち身かな…動きます…で…階段から落ちると思って、真っ直ぐ頭に気をつけて落ちれば良かったんですけど……下に子どもがいたので…そのあとはわからないけれど、多分余計な動きで落ちてしまった…」
「ぶつかったのは大型のスーツケースです。二人の子どもも‘来る、と思ったお姉ちゃんがスーツケースの方へ体をやった’と言っていますし、上から目撃した人も‘子どもを庇って落ちたように見える’と証言してるので、二人の子どもを助けられたと思いますが、結果的に頭部打撲があり、スーツケースが左足に乗る形で最後の段に止まったので、スーツケースの重さと階段で足にケガをしているのでは、との疑いがあります。今は腰や背中の打撲の状況も考えて足まで固定していますのでわからないでしょう。搬送病院での検査となります。意識がはっきりされていて良かった。首の動きにも問題なさそうですし」
良くない…足のケガはまずいでしょ。
背中と腰も困る。
頭をぐるぐると回る闇を瞼の裏で追いかけながら
「○○総合病院」
「□□署」
という声を聞く。
「…警察……?」
コメント
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足は?才花ちゃんにとって腰も体全てが大事なのよ!特に足…🥺大事に至りませんように🙏 でもどうして警察?