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Side 黒
借りてきた毛布を、ソファーに横になる高地に優しくかける。
「ありがと…」
取材を何とか乗り越えて楽屋に戻ってきた頃には、いつも強がりの高地が俺に向かって「無理」と言うほど疲弊していた。
事の発端は、今から1か月くらい前。
健康診断で高地だけが見事に引っ掛かり、沈黙の臓器が限界であることを知らされた。
それを本人の口から伝えられたときのみんなの顔は、今でも忘れられない。十何年一緒にいても見たことがないくらい、放心しきって魂の抜けた感じ。
6人でいる中で、一番無音の状態が長かった時間だった。
ありえない、と思った。でも今自分の目の前にいる彼には、紛れもなく病気の影がちらついている。
それが事実。受け入れなくてはならない現実。
そして高地は、俺らやファンの人たちに迷惑をかけるのを嫌がってか、頑なに仕事をやめようとしなかった。
ジェシーが必死に止めたが、結局「個人仕事は断る」というので落ち着いた。
もうそのときから、高地は色々な覚悟ができていたのかもしれない。
「生涯現役を貫きたい」
そう力強く言ったのだから。
それを尊重すべく、今日もグループで出る雑誌の取材に2人で来た。
でも心配で心配でたまらないのは、俺の性格。
下腹部を押さえて小さなうめき声を上げる高地に、「痛み止め飲む?」と訊いてみるが、
「…なくなったら嫌だからいい」の一点張り。
一日に服用できる錠剤の数に限りがあるのは仕方ないが、やはり心配で、怖い。
「一個だけ飲んどいたほうがいいって」
そう言うと、渋々身体を起こして薬を飲む。
不安そうに見つめる俺を、「別に大丈夫だって」と笑ってみせる。
そういう悪い顔色で平気だと言うのが心配なんだけれど、高地はわかっていない。
「大丈夫じゃないときに大丈夫なんて言ったら、もっと大丈夫じゃなくなるだろ」
「…いや、俺は大丈夫。今日は軽いから」
自分たちの知らないところで一人強い痛みに耐えているのかと思うと、こっちが耐えられなくなってくる。
「そんなこと言わないでさ」
なんで隣にいるのに、伝えられないのだろう。
どうしてこんなにも頼ってくれないのだろう。
普段でも高地から寄ってくることはあまりないけど、こういうときに必要としてくれないと。
距離が遠くなっていったら、あなたという存在が届かないところまでいって、虚空に消えていきそうで。
それこそ、いつ目の前からいなくなってもおかしくないのに。
続く