「かんわいぃ~」
「映えね、映え」
「ちょっと、写真撮りましょ」
撮影タイムになって私とエミリさんがスマホを出したところ、おもむろに春日さんが一眼レフを出したので笑ってしまった。
「凄い! 本格的!」
「SNSで見栄を張るなら、写真にも気合い入れないと~」
彼女は言いながら、中腰になって高層階からの眺めを背景にし、ティースタンドを激写した。
撮影タイムが終わったあと、ホテルご自慢のブレンドティーをいただきながら、いざアフターヌーンティーが始まった。
「でも意外。春日さん、SNSとかこだわるタイプなんですね」
苺味のスコーンを食べながら言うと、彼女は首をすくめる。
「私、友達いないから、そういうところで見栄を張るしかないの」
「ええ? 嘘~。春日さんなら絶対に皆の人気者じゃない」
エミリさんが言い、私も「んだ」と頷く。
てっきり笑いをとるための冗談かと思っていたんだけれど、春日さんは困ったように笑い、マカロンをポンと口に放り込んだ。
彼女は口の中の物をモグモグと咀嚼し、紅茶で流し込んでから、お酒を飲んでいる時のような荒っぽい溜め息をつく。
「皆そういう〝補正〟があるのよねぇ。うちって結構大企業じゃない。で、子供の頃から周りの子は『春日ちゃんと仲良くするのよ』って言われてるワケ。そのお陰で喧嘩一つない人生だったわ」
波風がないのはいい事……と思いがちだけど、春日さんには春日さんの苦しみがあるようだ。
「中学生の時、親友が他の女子に囲まれてシクシク泣いてるから、何事かと思って問い詰めてみたら、その子の好きな男子が私に告白して振られたんだって。でも私に悪気がないのは分かってるから、何も言えなくてつらい……って。気まずくなってその子とはなんとなく疎遠になったけど、高校生になっても似たような事があったわ」
美人でモテるがゆえの、苦しみもあったのか……。
「皆、私に遠慮して、言いたい事の一つも言えず、好きな人を取られても何も文句を言えない。……そんな状態で本当の友達なんてできないじゃない」
「……確かに……」
春日さんの悩みを聞き、私は頷く。
「それなりに、取り巻きみたいな友達はいるのよ。でも一緒にいて心安らぐ……って感じではないわね。皆、美人で金持ちの友達しか持ちたがらなくて、会話も〝そういうの〟ばっかり。腹の底が見えないから、一緒にいても何だかつまらなくて」
言ってから、春日さんは私とエミリさんを見てニヤリと笑う。
「その点、二人はいいわぁ~。こういう、偶然の出会いを待ってたの! 自分がいつも過ごしている環境だと、他の会社に勤めている女の子となかなか出会えないじゃない」
「……そ、そんな大したもんじゃないですが……」
恐縮すると、春日さんは「やだー!」と言って私の肩をどーん! と押してきた。
「副社長と恋愛してる秘書、部長と恋愛してる社員! 漫画みたいじゃない!」
「そんなの、三ノ宮グループにもいると思いますけど?」
エミリさんは首を傾げ、スコーンをサクサク囓りながら言う。
「自分の会社は嫌なの。下手したら泥沼化して、聞きたくもない報告を聞く羽目になるわ」
うっ……、き、気をつけよう……。
「惚れた腫れたは、安全圏にいて酒の肴に聞く程度が丁度いいのよ」
「確かに、一理ありますね。私も社内恋愛は自分の事で精一杯で、あとはまったく関係ない人の話を聞くぐらいが丁度いいかな。……あっ、朱里さんと尊さんは別ね」
エミリさんが言い、私も「確かに……」と流されて頷く。
「……っていうか、風磨さんお元気ですか?」
エミリさんに尋ねると、彼女はニコッと笑った。
「元気よ~。一月の事があってから、まぁちょっとは落ち込んでいたけど、『尊だけに重荷を背負わせる訳にいかない。俺は兄だから』って言ってたわ。あの人、ちょっと流されやすくて頼りないところもあるけど、責任感はあるの」
彼女の微笑みの奥に、風磨さんへの無限の信頼感を感じ、私は思わずニコニコしてしまう。
「朱里さんの事も気にしていたわ。『ぜひまた食事会でも開いて、尊ともども仲良くなりたい』って」
「はい、ぜひ!」
ニッコリ笑って頷くと、エミリさんがニヤリと笑って付け加えた。
「もし食べたい物があるなら教えてね。秘書の腕を遺憾なく発揮して、オススメの店をリザーブしておくから」
「えっ? た、食べたい物?」
そこまで食い意地張ってる顔をしてるかな? と思った時、エミリさんがクスクス笑った。
コメント
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食べ物で誘拐されるアカリン😅(笑)
食べ物で釣られるアカリン😆
春日さんのSNS写真は一眼レフ☺️気合いが良いし可愛くて仕方ない💕