「なんで…なんで死んじまったんだよ、親父!」
鎮痛な面持ちで、鳶色の髪の青年、ルーカスが叫び哭く。彼の育ての親にして、最も敬愛するボス…ドン・ベルトルドの遺体の前で。
嗚呼、偉大なる大ボスよ。今は亡きこの組織の父よ。彼がボスの座に就任する前のこの組織は、マフィアとは名ばかりの荒くれ者と烏合の衆の集まりだった。
それをたった一代で纏め上げたその手腕は、組織の内外どちらからも尊敬され、一目置かれていた。
しかし、マフィア社会に於いては…
既に死んだ者に価値は無い。
“人は死んだらゴミになるだけ”それがこの街…“インカシナート”の、絶対の不文律。
例えどんなに尊敬されたボスであろうとも、その規律には抗えない。
だがしかし。
“右の頬を張られたなら鉛で返せ”、それもまた、この街の不文律。
まして此度は、頬を張られた所の比ではない。
嗚呼、だからこそ。
見るも無惨に暗殺された死体を前にしても、数多の思惑が交錯する。
ルーカスに同調して泣き出す者。
言葉も出ないとばかりに黙り込む者。
思わずグラスを取り落とす者。
ヒソヒソと囁きを交わす者。
周りの出方を伺い縮こまる者。
そして、そっと裏でほくそ笑む者。
「…ぶっ殺してやる。」
昏い響きが、ルーカスの口から零れ落ちる。波が引くように囁きが止まる。
シンと静まり返った今は亡きボスの屋敷に、これでもかと響く決意の証。
それは、報復を誓う声。
或いは、復讐の前奏曲。
「貴方に救われたこの命に賭けて誓うぜ、親父…いや、ボス。必ずや俺が、犯人を三ミリ刻みにしてその死体を貴方への手向けとします。」
通常、この街のマフィアは「殺す」という表現を使わない。
彼らにとってそれは、“絶対的な宣言”に他ならず、必然的に自らの威信を賭けたモノになるからだ。
だからこそ、確かなる意志を込めた青年の呟きは死神の大鎌として確定する。
敵対者に苦痛を。
裏切り者に罰を。
関わった全員に、死よりも残酷な災いを。
誰も味わった事の無い、圧倒的な蹂躙を。
さぁ、賽は投げられた。処刑の時間は刻一刻と近づいている。
しかし、この状況がどう転ぶのか、上層部はどう対処するのか、どの組織が動いてくるのか…事態は混迷を極めるだろう。
行く先はまだ未知数であり…ひょっとすると彼の決意は、日の目を見る事も無く虚しく散るのかもしれない。
だが一つ、たった一つだけ言える事がある。
「頭を失った蛇が、満足に動ける筈が無い。」
絶対的な主を失ったこの組織と彼らが住まうこの街は、否応なしに混沌に呑まれる事になる___。
コメント
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わぁぁぁ!!ルーカス!!( KANで見てましたけど最高でした(( マフィア…好き!!()