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再びソロソロと移動を始めた『聖女と愉快な仲間たち』、暫く(しばらく)すると揶揄う(からかう)ハミルカルに、挑発に乗るアスタロト、暗闇、励ます声、ソロリソロリ、揶揄うハミルカル、走るアスタロト、と言ったループを十回ほど繰り返した結果、遂にアスタロトが音を上げたのであった。
「もう無理っ! 絶対立ち上がんないっ! 我ばっかり痛くてズルいだろ、皆は痛くないんじゃ不公平っ! 待遇改善を求むっ!」
「そんな、自分を信じなきゃって最前から言ってるじゃないの! ほら、立って! 頑張るのよ!」
「そうでござるよ、アスタなら出来る! ほら立てよ、立てって言ってるでござろう! お前、黙ってないで何とか言えよぉ! 見えないから不安になるだろうが! せめて炎だけでも出せよっ! 殴ってやるからっ!」
そんな事言われて居場所を報せる馬鹿はいないだろう……
案の定アスタロトは無言を貫き、当然炎を出す事も無かった。
真っ暗闇の中で適当に動く訳にもいかずじっとしている一行の中からモラクスの声が響いた。
「あ、あれは? あれ使えるんじゃないですか! ほらスカンダの守っていたアーティファクト! あれ、目的の場所まで迷わずに行けるんですよね? 持って来ています?」
手を打つポンっという音の後に善悪が答えた。
「おお、ナイスでござるモラクス君! 傘地蔵の傘若しくは手拭いでござるかっ! 確かにあれを使えば容易に目的の場所まで辿り着けるのであるなぁ、えっと、はっ! そうだ! さっきコユキ殿に渡したのでござるよ、持ってるでしょ、毒恐いって言ってたから持たせた手拭い、あれがそうでござるよ♪」
その言葉を聞いたコユキは片手に握りしめていたハンカチ、実は折りたたんだ手拭いに視線を落とした。
何も見えなかったし、さっきまで鼻と口を覆っていた時は塩化バリウムの毒性を恐れる余り気が付かなかった匂いを確認する為に、鼻に近付けてクンカクンカしたのであった。
流石はアーティファクト、聖なる遺物と言った所であろう。
幾星霜(いくせいそう)の時を越え以前の人間の所有者、お地蔵さん達を降雪から守りたかった優しいお爺さんの、汗と涙と他にも色々な苦難を感じさせる香り、主に饐(す)えた汗の浸み込んだ悪臭がコユキの鼻腔を刺激するのであった。
クラアァ……
一瞬意識が飛びそうになるコユキであったが、持ち前のガッツは石松以上である、何とか自我を保つことに成功すると、徐に手拭いを頭に被り、以前と同じように鼻の下で縛り込んで盗人スタイルを取ったのである。
コユキは動き出した。
直後、大きな悲鳴が暗闇の中に響くのである。
「ギャッ! 痛いでござろう、何なの? コユキ殿ぉ、酷いでござるよぉ!」
善悪だ…… 多分臭い手拭いをハンカチ代わりに渡したバツでも受けたのでは無かろうか。
その声を聞いたからだろうか? 割と近い場所からカサカサとした物音が聞こえて、どうやら少しづつ離れて行っているようである。
「スッ! ふふん、不埒者(ふらちもの)、召し取ったりぃ!」
「あわわわわわ」
「『散弾(ショット)』!」
「ぐわぁぁ! キュゥ~」 パタン
不埒者は倒されたようであった、コユキは自信満々の声で宣言をする。
「さーて、次はいよいよ本命のハミルカルよっ! アスタのベンケイを破壊寸前まで追い詰めてくれたお礼は確りさせて貰わなきゃあねっ! 魔神の心を折るとか、許されない行為だわ!」
たった今自分で昏倒させた仲間の為を謳う(うたう)なんて事、まともな人間には中々出来る物では無いだろう、個性的だ。
コユキがハミルカルの捕獲に向けてスッッと行こうとした瞬間、部屋の中がパッと明るく変じ、イメージ通りの広間が姿を現したのであった。
広間をぐるりと見回したコユキが声を漏らした。
「ほう」