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「ユニレーム商会の使いの方がうちの店にどういったご用件でしょうか? 休業と理解なさった上でのご訪問……よほど差し迫った深刻な事情があるのでしょうねぇ」
「あなたは?」
「失礼。私、ルーイと申します。オーナーが不在の間、店の留守を任されている者です」
ルーイ先生は椅子から立ち上がると、クライヴさんと男性の元へ向かった。クライヴさんに代わって、先生が男性の対応をしてくれるようだ。
こういった交渉ごとはクライヴさんよりも先生の方が得意である。クライヴさんもそれを自覚しているのだろう。先生が前に出て来た瞬間、彼はあからさまにほっとした表情になっていた。
「店の責任者が留守なんですか?」
「ええ。更に言うと現在従業員のほとんどが休みを取っておりまして……残っているのは接客担当のみでございます。よって、あまり込み入ったお話を持ち込まれても対応できかねますが……」
先生はコニー嬢から聞いた話は知らないというていでこの男性の相手をするつもりなんだな。下手にこちらが事情を知っているのがバレると、そこに付け込まれるかもしれない。クライヴさんがコニー嬢を奥の部屋に隠したのはそれを見越してのことだったのか。
先生は店の責任者がいないのを早々に伝え、難しい相談ができる状態ではないとアピールした。これは男性が自主的に引くよう促しているのか。
「……ちなみにオーナーはいつ頃戻られるのですか?」
「予定ではひと月後ですが……あくまで予定ですので、もしかしたらそれよりも延びるかもしれません」
「ひと月!? 他の従業員たちは?」
「彼らも同様ですね」
「つまり、それまでは店も休業だと。最低でもひと月は……」
「申し訳ありませんが……そういうことになりますね」
先生は男性の問い掛けに笑顔で淡々と答えている。物腰は柔らかく丁寧だけど『早く帰れ』という圧をひしひしと感じてしまう。これは私が先生の思惑を分かっているからそう思うのだろうか。
コニー嬢の話通りであるなら、ユニレーム商会の使いと名乗るこの男性が『とまり木』へ要求したいのは店舗の貸切である。しかし、店の責任者が不在となればその要求を通すことは不可能だ。ここは一旦引くしかないだろう。
「はあ……それなら仕方ありませんね。今日のところはお暇……って、するわけねーだろうがっ!!!!」
男性が突然大声を上げた。声の大きさにも驚いたが、先ほどまでの穏やかで落ち着いた雰囲気からは想像もできない言葉使い。そちらの方により衝撃を受けてしまう。直前まで彼と会話をしていた先生も、驚きで瞳を丸くしている。
「あー、いかんいかん。つい素で叫んじまった。これじゃまた嬢ちゃんにどやされる。キレるな。落ち着け」
礼儀正しそうな人に見えたが、どうやらそれは演技だったみたいだ。私は横目でクライヴさんとラリーさんの様子を窺う。ふたり共……視線が男性に固定されていた。ガン見である。
私の方にまでピリピリとした空気が伝わってくる。男性は大声を上げながら態度を豹変させたことで、一気にふたりの警戒を煽り、臨戦態勢を取らせてしまったのだ。もし、次になにか不穏な動きをしようものなら、問答無用で制圧されるだろう。
男性は呑気に胸に手を当てながら深呼吸なんてしているが、ことの重大さが分かっているのだろうか。
これはラリーさんとクライヴさんだからこの程度ですんでいるのだ。もし、この場にいたのがクラヴェル兄弟だったなら……男性の喉元には今ごろ刃が突き付けられていたに違いない。いや、腕の一本くらいは切り飛ばされていてもおかしくはないかも。
この男性……名前は確かサイラスだったな。この程度の会話でイラついて冷静さを欠くなんて、本当にユニレーム商会の使いなのか。
目の前の男性のあまりにも稚拙な振る舞いに、ユニレーム商会の使いというのは嘘なのではないかという疑惑まで浮かんできてしまう。しかし、タイミングを考えるとその可能性は低い。そうなるとやはり、彼は間違いなく商会の……いや、でもそれにしては――――
「ルーイさん……だったっけ? 留守を預かっているのだからオーナーの連絡先くらいは知ってますよね。早馬を使うなりして店に呼び戻して貰えますか」
「はあ?」
「用件は……『本日から2日後、ユニレーム商会があなたの店を1日貸し切る。休暇中の従業員を直ちに召集し、早急に対応されたし』と、お伝え下さい」
私が男性の正体についてあれこれと考えているうちに状況が進展していた。いきなり態度が変わったと思ったら……耳を疑ってしまうような台詞が飛び出してきた。さすがの先生もこれには呆れ果てたのか、間の抜けた声を上げてしまった。
りた🤍☁️
42
#闇
ruruha
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がびょ
841
瀬名 紫陽花
11,525
「……オーナーを呼び戻すまでもないですね。そのような要求でしたらお断りさせて頂きます。うちの店は店舗貸切を一切受け付けていませんから」
先生の雰囲気も変わった。平和的な話し合いをしてお帰り頂くという選択肢が消えたみたいだ。クライヴさんとラリーさんも相変わらず男性から視線を外さない。
「あなたには権限がないと仰っていたじゃないですか。オーナーに直接聞いてみないことには分からないですよ。まあ、こちらも難しい要求をしているのは分かっていますので、その分料金は上乗せさせて頂きます」
「お金の問題じゃないんですけどね。今現在オーナーがいる場所はどんなに馬車で急いでも片道3日はかかる。君の要求に応えるのは物理的に不可能なんだよ」
先生の言う通りだった。仮に私たちの独断で貸切を受け付けたとしても、指定の2日後に従業員を揃えることなんてできないのだ。
「はあ? オーナーは今どこにいるっていうんだよ」
また口調が変わった。この人……今後大丈夫なんだろうか。3人の正体を知らないからこそ、こんな命知らずな言動ができるんだろうけど……
自分と縁もゆかりもない他人とはいえ、ここまでくると心配になってくる。
「……北部のルブロイだ」
「ルブロイ……」
先生から地名を聞いた男性は無言で俯いた。さすがにルブロイから1日や2日で帰ってくるのは不可能だと悟ったようだ。悔しそうな舌打ちの音が聞こえた。
「分かったのならお引き取り願おうか。オーナーが戻ってきたら、一応話だけはしておいてやろう。君をここによこした主人にそう伝えな」
先生の口調も若干荒くなる。男性に触発されたのだろうか……いや、先生は昔から相手によって喋り方を変えてくる人だ。これはきっとわざとだろう。
これ以上会話をしても無意味だと思ったのだろう。男性は乱暴な仕草で出入り口の扉を開くと、店から出ていってしまった。
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