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「漸く国境か……ここまで長かったなぁ…」
いや、普通の旅人の移動速度だから遅くは無いんだよ?
でも全然気楽じゃなかったからさぁ……
「エミリー……は、要領いいから平気だな」
領都で別れたエミリーのことが一瞬気掛かりになったが、あの子なら何処ででも生きていけるだろう。
ちなみにあの夜は何もなかった。
何もなかったと言えば嘘になるが、何かあったのは別のことだ。
『悪いが俺にはこれから仕事がある』
『では!私も!』
『危険な魔法を使った仕事だから、側にいれば確実に死ぬけど良いのか?』
『お気をつけて!』
手を振るエミリーは、それはそれは清々しい笑みを浮かべていた。
危険な魔法とは、もちろん異世界転移だ。
エミリーと別れた後、別の部屋をとってその部屋から転移魔法を使いリゴルドーへと向かった。
それで溜まりに溜まっている配達の仕事を頑張って終わらせたのだ。
聖奈さんも異世界転移は出来るけど普通(?)の転移は出来ない。
よってこれは俺の仕事でアイデンティティだっ!
誰にも奪わせないぞ!
それで翌朝、エミリーと朝食をとって細かい話をした後に別れたのだ。
お金はそのままあげた。
いくらこの国の治安が良くても、この世界は女が何も持たずに一人で生きていけるほど甘くはない。
魔力や異世界不思議パワーのお陰で、昭和の日本よりは職業に男女差は少ないが、それでも犯罪の被害に遭うのは女性が多い。
エミリーは受け取りを断っていたが、俺がゴリ押しした。
だって、俺みたいに騙される人がまた出たら可哀想じゃん?
豚貴族だっけ?アイツみたいな奴らからはいくらでも取ってくれ。
そして念願の一人旅に戻ってこれた俺の次の目的地は小国だ。
どの小国に行くかなんてことは決めていない。というか、そもそも情報が少な過ぎて選べなかった。
得意の行き当たりばったりだけど……
「国境って河かよ…」
目の前には対岸が見えないほどの広大な大河が流れていた。
流れは一定だし波もない。つまり海じゃないってことは河なんだろう。
「さて…どうやって渡ろう?」
泳いで渡るのは論外だし、転移魔法は行ったことがなく見えない所へは行けない。
「やっぱりあそこしかないか…」
船渡しをしているところが見えるんだけど。
あまり行きたくないなぁ…乗りたくないなぁ……
船は屋形船みたいな大きさだけど屋根はない。
それに、明らかに定員オーバーな人数がギュウギュウに詰め込まれていた。
「客が女性ばかりなら喜んで乗るんだけど、明らかに汗臭そうな体育会系男子しかいない……」
はぁ。
俺は溜息をその場に残し、船着場を目指した。
「傭兵?それで男ばかりなのか…」
船着場に着き待ち時間が暇な為、自然と隣の人と話をすることに。
そこで情報集めとは名ばかりの雑談を始めたのだが、思いもよらない情報が舞い込んだ。
「ああ。という事は、アンタは傭兵志望じゃないのか?」
「そうだな…俺は旅人だ。アテの無いな」
ふっ。かっこいいだろ?
「無職かよ…いいな。脛を齧れて」
ちょっと待てっ!?
よくよく考えてみれば、この世界であてのない旅をしてる奴なんているのか?
そしてこの世界の無職のヒエラルキーはどうなんだ?
旅の恥はかきすて……
俺は訂正するのはやめて続きを促すことにした。
「何で安全で平和な共王国を出てまで傭兵なんてするんだ?」
「?そりゃ戦いたいからだ。それと出稼ぎには充分な報酬が貰えるしな!」
そういえば獣人は戦闘狂が多いのだったか……
金払いもいいのか……そりゃそうか。
自分達の命運が掛かっているのに出し惜しみして負けましたじゃ後悔してもしきれないもんな。
「ちなみにどこの国に行くんだ?」
「俺は中央近くの国に行くぞ。中央に近ければ近いほど激戦区だし、金払いもいいからな!」
態々危ないところに行くのかよ…戦闘狂の考えることはわからんな……
それより・・・
「俺は?みんな違う国なのか?」
「当たり前だろ?一つの国に肩入れしたら共王国が面倒なことになるだろ?
だから共王国内では小国の傭兵の募集は自由だけど、偏りがないように分配されるんだ。
もちろん行きたくない国は断れるけどな」
それってつまり……
「それだと近所の知り合いと戦場で敵対することが起こるんじゃ?」
「はははっ!そりゃ滅多に起こらないが起こることも稀にはある。
そうなったら殺り合うだけだな!」
いや、どこに笑うポイントがあったんだよっ!?
まぁ高い金貰っているし、仕方ないことか……
まぁ小国一つ一つは小さいけど、全体で見れば国土はこの国とそう変わらない。
人口は7割ないくらいだろうけど。
戦争で日夜人が死ぬところと、食も豊かで一般人が魔物の襲撃に遭うこともほぼない国とでは、人口に差が出るよな。
傭兵か……まだしたことがないな。
似たようなことは帝国戦でしたけど、あの時は仲間が沢山いてぼっちじゃなかったし。
「それって現地でも募集しているのか?」
俺は次にすることを見つけられたのかもしれない。
船で男達に揉まれながら辿り着いた対岸では、傭兵達の迎えでごった返していた。
どうやらこの河沿いは非武装地帯のようだ。
これは対岸から難民が押し寄せたことが過去にあった共王国が小国に、『河沿いでは戦争するな!』と怒ったことがあるからだ。
その時は難民と共に血が共王国側まで流れてきたほど、戦争でこの大河を汚したらしい。
それからは河沿いでは戦闘及び、軍の移動を禁止する条約が小国同士で交わされた。
小国に対し戦争とも呼べない蹂躙を共王国は行える力がある。
小国家達は戦争により滅びるなら本望なのかもしれないが、蹂躙により滅びるのは避けたかったようだ。
当たり前か……
「じゃあまたな!」
「色々と助かった。死ぬなよ。また会おう」
いや、また会って敵同士なら殺さなきゃいけないか。ここは会わないことを祈っておこう。
船でこちらへ来るのに40分ほども掛かった。その間に話を聞くことが出来たのは怪我の功名ではあるが。
もちろん俺には迎えなんてものはなく、多くの馬車が向かっている街道に向けて歩き出す。
「ここでぼっちなのは俺だけだな…」
目的もなく戦地に行く奴なんていないのはわかっていたけど……
再び孤独な旅が始まった。
どの国でもどの場所でも明日戦地になるのかわからない。
そんなところを一人旅していると、そのお陰か立ち寄る町で結構色々聞けた。
最初に着いた名も知らない町では・・・
『ここはアルケミス共和国ってところだ。三十年ほど前にトップが変わってな。
ん?ああ。そんないいもんじゃねーな。
クーデターだよ。
当時の王族は皆殺しにされてな。今は軍のトップがそのまま国の代表になってる。
だからか元々は王国だったが、今は共和国を名乗っている』
次に着いた町では・・・
『ここの傭兵?やめとけやめとけ。死にたくないならジャパーニアの国境近くの国にしとけ。
金儲けがしたいならここから南西に一つ国を跨いだところが戦地としては激しいし、その分金払いもいいってきいたぞ?』
こんな感じだ。
何故一人旅だと情報を集めやすいかだが。
ここはどの国でも傭兵がいる。
集められた雑兵も合わせればかなりの数の兵だ。
そんな奴らが金を落とすのは決まって女か、酒場だ。
それでどの町でも…下手したらその辺の小さな村にまで必ず酒場がある。
宿がなくてもあるくらいだ。
飲食店といえば酒場。宿と言えば酒場だ。
そしてそんな酒場に一人で行くとなると、必然的にカウンター席に座る。
そうすると酒場の店主が暇な時は話し相手になってくれるんだ。
その店主から聞いてもいないのに情報が……
まぁ、ほとんどは役に立たない情報だけど、中には先程のような重要なモノもあった。
この国は…というか、ここの殆どの国がだが、ここは特に軍部の力が強い。
正規軍がデカい面をしているから、雇われ傭兵は割に合わない仕事しかさせてもらえないみたいで、ここでは傭兵家業は勧められないと聞いた。
この国の王都には立ち寄らず過ぎようと思い、激戦区の方面へと足を伸ばすことに決めた。
国境を越えてから十日経たないくらいでまた国境の町へとやって来た。
いつも通り宿と食事の為に酒場を探して入る。
あれ?酒飲みに凄くいいところなんじゃ…?
朝から飲んでるのもここでは普通だし。なんなら夜通し……
カランカラン
目当ての酒場兼宿屋を見つけた俺は、ドアベルを軽快に鳴らしながら店へと入っていった。
ガヤガヤガヤガヤ
ガヤガヤガヤガヤ
「凄い人だな…」
「お食事ですか?お泊まりですか?」
俺が人の多さに挙動不審になっていると、店の従業員の女性(30代)が声を掛けてきた。
「両方だが…空いてるか?」
「はい。空いてますのでご案内しますね」
どうやら殆どが飲み客のようだ。
流石国境付近…繁盛しているな。
部屋へと案内された俺は荷物も魔法の鞄くらいなので、腰の剣をそこにしまって一階の食堂…酒場へ行く。
「お早いですね。こちらが空いてますよ」
くっ…相席じゃねーか……
まぁこの混み具合なら座れるだけマシか……
少しテンションを下げて空いている椅子へと座った。
「邪魔して悪いな」
席に着く前にしっかりと同席者に挨拶をしておく。
コイツらは戦士だ。
プライドこそそこまで高くはないが、命を預けあっているからこそ仲間意識が高い。
なので余所者の俺は下手に出るのだ。
えっ?コミュ障だからビビってるだけ?
ち、違う!それは断じて違うっ!
だって命の安売りしてる人達だよ?
いくら俺でもこの距離で捨て身で来られたら怖いもん……
「おう。ん?1人かい?珍しいな。俺はガゼルってんだ。見たまま傭兵だ。騒がしくて悪りぃな」
「俺はバックスだ。気にせず酒を楽しんでくれ」
「ナードだ」
3人がそれぞれ挨拶をしてくれた。
良かった……良い人そうな人達で。
「セイだ。良かったら3人に一杯奢らせてくれ」
「いや、気にすんなって」
「そうじゃない。俺は余所者だからこの辺の事に詳しくないんだ。
もし良かったら酒の肴に色々と教えてほしい」
俺はそういうと店の人を呼び、3人それぞれに同じ物を、俺にはオススメの料理とオススメの酒をそれぞれ注文した。
「そういう話なら奢られてやるよ!」
そう言うと、ガゼルは酒を持ち上げて笑顔を向けてきた。
「む。すまないな」
「気にしないでくれ」
「……」
バックスは静かに礼を言い、ナードは無言で酒の入ったコップを少し上げて応えた。
俺と同じくシャイなんだろう。うん。
「それで何が聞きたい?俺たちはこれでもこの家業が長いから、傭兵のことなら大概話せるぞ?」
「それは頼もしいな。飲みながら話そう」
特にガゼルとは意気投合してしまい、夜明けまで語り明かした。
(呑んでただけとも言う)