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白羽蓮と付き合うことになってから、5日が経った。
三上さんにはその日の夜に付き合うことになったとしっかり報告をした。
三上さんはかなり驚いていったっけ……。
恋愛はあまりいいとされていない雰囲気の中、三上さんはちゃんと話してくれてありがとうと言ってくれた。
応援はするけれど、くれぐれも写真をとられないようにとのことだ。
週刊誌にだけは気をつけなくちゃいけない。
彼と付き合ったからと言って浮かれてはいられないんだ。
今日は雑誌の撮影がありスタジオに行く予定だ。
白羽蓮とは連絡はとっているけれど、忙しそうであの日以来会っていない。
学校もほとんど来ていないし……まさかここまで忙しいとは思わなかったな。
でも私のことで負担にならないようにしないとね。
そんなことを考えながらスマホを開く。
やっぱり白羽蓮からの連絡は来ていなかった。
負担にならいようにしないとと思いつつも、ちょっと寂しい……。
仕事場をこなし、未だに連絡がないのを落ち込んでいると、コンコンと楽屋のドアがノックされた。
「はい」
ドアを開けてみてみると、そこにいたのは白羽蓮だった。
「どうしたの!?」
「実は急きょ撮影場所が変更になってさ、花と同じ場所だったから来ちまった」
ウソ、嬉しい……。
まさか会えるなんて思ってもいなかったから。
「飯まだならさ、スタジオの食堂で一緒に食わねぇか」
このすぐ下の階に食堂がある。
そこで一緒にご飯……正直行きたい。けど、行ってもいいのかな?
「ちょっと待ってて、三上さんに聞いてくるから!」
すると彼はむっ、とした表情を浮かべた。
「お前って、何かあったらすぐアイツのところ行くよな」
「だって三上さんは私のマネージャーだから。確認取らないと」
「なんか、ムカつく。好きだったとかねーだろうな」
「ちょっ、何言って……」
じりじりと近づいてくる彼。
すると部屋の奥から三上さんが出てきた。
「おいおい、僕を当て馬にして盛り上がるのはよしてくれよ」
「うわ、いたのかよ」
「お付き合いはいいけど、くれぐれも油断しないようにね。今だって楽屋に誰かいるかもって思っていなくちゃ……ふたりとも売り時なんだから」
「分かってる」
白羽蓮はそっぽを向きながら頭をかいた。
私たちは普通の恋愛が出来ない。
付き合っていることはなんとしてでも隠さなきゃいけない。
さっきみたいに人はいないとは限らないし気を付けなくちゃ……。
「まぁ、あそこの食堂で堂々と食事する分には大丈夫だと思うよ」
「三上さん……!」
私たち会話が聞こえていたのか、聞く前に答えをくれる三上さん。
「ただし、あくまでも友達としての距離で食事をすること。さっきのような会話を謹んでね?」
「はい!」
「余裕」
私たちは俳優と女優だ。
それに関してはプロだから、いくらだって演技は出来る。
「じゃあ行ってきます」
私たちは楽屋を出た。
すぐ下、1階にあるこの食堂は色んな人で賑わっている。
関係者がたくさんいるので、私たち同じ年の男女が一緒にご飯を食べているくらいでは誰も気にしない。
私はハンバーグ定食を、そして白羽蓮はラーメンを頼んで空いている席に座った。
いただきますと手を合わせると、彼はー口食べてからため息をついた。
「最近全然学校行けてねえわ」
「元木くんとりんちゃんが心配してたよ」
私は、撮影が終わってから三上さんが学校中心の生活になるように今は仕事をセーブしてくれている。
白羽蓮の方もセーブしているはずだって三上さんが言っていたけど、それでも追いつかないくらい仕事の依頼が来ているんだろうな……。
だって、街を歩いていると、必ずどこかで白羽蓮が映ってる。時々、近い存在のはずなのに遠くにいるような錯覚になることもある。
「でも明日から学校行けるから」
「えっ、そうなの?」
「おう、しっかり勉強してこいってマネージャーに言われた」
じゃあ明日から学校でも蓮に会えるんだ。
嬉しいな……。
「1週間分のノートなら見せてあげられるかも」
「貸して、まじでテストしゃれになんねえ」
そうは言ってるけど、白羽蓮は頭がいい。
一度やったことはすぐに覚えてしまうから大丈夫だろう。
それから何事もなく食事をし終えると、私と彼はそれぞれのマネージャーが止めている駐車場まで向かった。
駐車場には誰も人がいない。
「つーか、いつまでもフルネームで呼ぶつもりだよ?」
彼は口を尖らせて文句を言う。
「そ、それは……ずっと呼んでたし今さら」
「俺は花って呼んでる」
「う……」
何も反論が出来なくなった私に彼は追い討ちをかけるように彼は言った。
「なぁ、花は俺のこと名前で呼んでくれねぇの?」
「……っ」
そうやって、ちょっと困ったように眉尻を下げてくるのズルい。
私だっていつか呼びたいなって思ってたけど、いざ呼ぼうとすると、恥ずかしくなっちゃって……けっきょく呼ぶことが出来なくなっちゃう。
恥ずかしさや、照れもなく白羽蓮の名前を呼べるようになるのはきっと、もっと先のことだろう。
「そ、そのうち呼ぶよ」
そうやって話をそらそうとした時。
「ダメ。今呼んで」
「今!?」
「うん、今」
白羽蓮は止まって私からの言葉を待つ。
「……っ」
「早くしないと帰っちゃうぞ」
うう、今日別れたらまた会えるのは先になるかもしれない。
彼の顔を見つめて、それから私は小さな声で呼んだ。
「れ、蓮……」
顔から火が出るくらい恥ずかしかった。
「ふっ、かわいい」
蓮が嬉しそうに笑う。
それを見て、ちゃんと呼べて良かったと思った。
実は本当は心の中でずっと練習してたんだ。
「でもこれからはもっと周りの目にも気をつけてかなきゃね……」
「そうだな」
もっともっと会えなくなるかもしれない。だけど、そこは我慢していかなくちゃ……。
今会えるこの時間を大切にして、今の気持ちをちゃんと伝えていきたい。
「じゃあまた、明日ね」
「ああ」
それぞれのマネージャーが待つところで、別れると私は三上さんの車に乗って家ヘと帰った。
そして翌日。
学校に行くと、すでに蓮は来ていた。
私は昨日の段階でりんちゃんにメールをして、蓮と付き合うことになったということを伝えた。
そしたら「やっぱり~」なんて返ってきたから驚いちゃった。
でも私と一緒になって喜んでくれてすごく嬉しかった。
「蓮くんやっと来たね」
小さな声で私に言ってくるりんちゃん。
「アリバイ工作ならいつでも協力するからね、蓮くんと会えない時は言ってね!」
本当にありがたい。私たちは普通に2人会うことは難しいから。
蓮はクラスの友達と無邪気にはしゃいでいた。
仕事で疲れてるんじゃないかって思ったけど、元気そうで良かった。
私たちが撮影を終えた映画『イジワル男子の愛情表現』は今公開真っ最中。
少し周りの目が恥ずかしかったりもする。
「ねえ、花ちゃんとの映画見たよー!ヤバくない?ハグしてたよね?」
「あー、まあ」
ピクっと耳が動く。周りは興味深々だった。
「そんなことしたらさ、好きになったりしないの?」
わくわくしながら答えを待つ女子。
私もなんて答えるのか、気になる……。
しかし、白羽蓮は彼女たちに向かってばっさり言い捨てた。
「なるわけないだろ、西野とか興味ねーし」
むっ。一言多くない?
これは演技。
そう分かっているのになんだか不満だ。
すると、今度はその女子の視線が私に向く。
「花ちゃんはどう?蓮のこと好きになった?」
わ、私にも聞くの!?
驚いたけど、私はあえてこう答えた。
「いや、全然だよ」
仕返し。ちょっと怒ったから意地悪しちゃった。
「じゃあほら、広瀬くんは?めっちゃかっこよかったよね?どうだったの、花ちゃん」
「うん、すごくステキな人だったよ」
キャーと女子たちがはしゃぐ横で私は答える。
女子たちが騒いでいる横で蓮がむっとしたのが分かった。
私だって言われっぱなしじゃ嫌だもん。
すると蓮は誰にも気づかれないように「後で覚えてろよ」とロパクをしてきた。
知らないもん!
学校での1日があっと言う間に終わり、みんなが教室を出て行く。蓮はこの後、仕事かな?なんて考えていたら彼から連絡が入っていた。
【時間置いて、別校舎の図書室まで来て】
別校舎の図書室?
それって今は使われてない教室じゃ……大丈夫かな?
別校舎はこれからリニューアルをする予定らしく、しばらくは出入りが禁止されていた。
蓮が先に出て行くのを確認すると、私は15分くらい時間をおいて教室を出た。
そして、別校舎の使われていない図書室のドアを開けると、少し薄暗い部屋の中から蓮が出てきた。
「こっち、ここ座れば?」
誰もいない2人きりの場所。
「こんなところ来ても平気なの?」
「平気だろ、バレなきゃ」
バレたらどうするのよ……!
そんなこと考えながらソワソワしていると、ぐいっと私の手を引いた蓮は言う。
「さっき覚えてろ、って言ったけど花ちゃんはちゃんと覚えてんのかな?」
「あ、あれは蓮が最初に言ったんだから!」
「広瀬は素敵だって?もう許さねえ」
すごく嫌味ったらしく言ったあと、そっぽを向く蓮。
ウソ、怒った?
「ご、ごめんって……!」
私が慌てていると、彼はくるりとこっちに向き直りあるものを差し出した。
「冗談。はい、これ」
「えっ」
蓮が手に持っているのは、何かの紙であった。
「これは?」
「……遊園地のチケット、ぺアの」
彼が渡してきたのは、ここから少し離れた所にある遊園地のチケットだった。
「付き合ってからさ、お前と1度もデートらしいデートしてねえからさ」
ーードキン。
仕事が忙しいこと、人目につくところでデートなんか出来るわけなくてデートというものをまともにしてこなかった私たち。
2人きりで過でせる時間は本当にわずかしかなくて、ちょっと寂しいなって思ってた。
「だから、これ。許して欲しければ俺とー緒に行くこと」
嬉しい……すごく嬉しい。
「でも大丈夫かな?」
「一応ここからも距離あるし、変装して平日に行けばなんとかなるだろ」
「そうだね!」
初めてのデートだ。
蓮と、1日中一緒にいられる特別な日。
「ヘヘっ、楽しみだなあ」
会いたくても簡単に会えない分、よくばりになっていく。
好きだって思っても簡単には伝えられない。難しい私たちの恋。
「それまで仕事頑張るね」
「俺も」
だけど会えば幸せを感じられるから、頑張っていけるんだ。