「おっはよー皆んな! 今朝も私は遅刻しませんでしたー! さすが葵さん! 超優秀! 今のところ皆勤賞だし!」
葵の朝の挨拶で、教室中の空気を持ち前の明るさで花を咲かせた。葵はそんな人間だ。皆んなを元気付ける存在。僕とは大違いだよ。
しかし、葵さんよ。超優秀だったら赤点ばかり取ったりしないって。
で、今日も今日とて、天馬くんは僕を観察するかのように鋭い視線を送って――と、思ったら。見ていない。
この前の視線、あれは僕の勘違いだったのかな? いや、違う。そんなはずはない。葵も気付いてたんだから。
そして、葵の言葉が頭を過る。
『憂くん、気を付けて』
僕はもう一度、後方の席に座る天馬くんを見た。
すると――
不敵であり、不気味な笑みを浮かべながら視線を送っていた。僕に対して。
身の毛がよだった。
その笑みが脳裏に焼き付いたまま、僕は強引に視線を逸らした。
……と、思ったら。
「うわっ!!」
「おはようございます、陰地くん」
「た、竹田さん。脅かさないでよ」
天馬くんから視線を外して葵の方に目を向けようとしたら、眼前には竹田さん。相変わらずのニヤニヤ顔で。ど、どうしたんだろ?
「うひひっ。いやいや、お安くありませんなあ。早朝から葵ちゃんにピッタリくっかれながらの登校とか」
「え!? み、見てたの?」
「見てたよー、じっくりと。木陰に隠れながら」
「こ、木陰でなんだ」
「うん。そこからぜーんぶ見せてもらっちゃった。朝からラブラブな二人の様子を」
まさに油断大敵。ほらね。やっぱり誰かが見てたらって僕言ってたじゃん!
「に、しても。ついに、あんなことやこんなことをしちゃったでしょ? あー、妄想が止まらない。ヤバっ。鼻血出そう」
「いや、竹田さん。もう出てるから、鼻血。はい、これポケットティッシュ」
「あ、どもども」
竹田さん、一体どんな妄想してたのさ。
「で、どうなのー、陰地くん? お二人の関係は? どこまで進んだ? A? B? C? とりあえずAはもうしちゃってるよねえー。うひひっ」
「え? ううん。Aとかそんなことしてないよ? ねえ、葵?」
葵の顔を確認すると、めちゃくちゃ真っ赤。恥ずかしがるようにして、ちょっと俯きながらモジモジしてるし。
はて? Aってつまりはキスのことだけど、僕達はそんなことしてないじゃん?
「葵? なんでそんなに赤面してるの?」
「べ、べべ、別に? てか竹ちゃん! 私達そんなことしてないから! くっついてたのは……そ、そう! 猿団子ってやつ! くっついて寒さを凌いでただけなの! それだけだから!」
猿団子って……。葵さあ。嘘付くの下手すぎ。しかも、もうほとんど夏で寒くなんかないし。むしろ暑いし。
「ふーん、そうなんだあ。じゃあじゃあ葵ちゃんは、陰地くんのこと何とも思ってないってことだよね?」
「え? そ、それは……」
「どうしたのかなあ、葵ちゃん? あ、そうだ! じゃあ私がこんなことしちゃったら――」
「ちょっ! た、竹田さん!?」
竹田さんは今朝の葵よろしく、僕の腕に抱きつくようにしてピッタリとくっついてきた。
な、何? この展開とこの状況。
僕は葵の様子が気になったので、チラリと見やる。すると、葵は顔を引き攣らせていた。そして、竹田さんのそれをやめさせようとしたのか、コチラに来ようとする動作を見せた。
が、途中で静止。
それがまるで、自分の本心を押し殺すかのように僕には見えた。
「ん? どうしたのかなあ、陰地くん? 葵ちゃんとも、ただの幼馴染同士だからってくっつき合ってたんだったら、私が同じことをしても別にいいと思うの。うひひっ」
竹田さんのせいで、葵に対する思考をぶつ切りにさせられてしまった。
しかし、なんたる暴論。
と、言うかさ。
「いや、あ、あの……竹田さん。その……あ、アレが……」
「んー? アレって何かなあ? ハッキリ言ってくれないと分からなーい。さあさあ。その『アレ』とやらの名称を言ってくださいな」
「ハッキリ言ってって……なんか、セクハラオヤジみたいだよ? ただ単に僕にあの単語を口にしてほしいだけでしょ?」
「そうかも。まあ、私は女子だから恥ずかしいから言わないけど。で、どうどう? 私、結構大きいでしょ?」
た、確かに。制服の上から見ても大きいのは分かってたけど、こ、ここまでとは。しかも、めちゃくちゃ柔らかい。
「そ、そうだね。大きいね」
「でしょでしょー。陰地くん、ご満足いただけましたかな?」
「えーと……ま、まあ。うん」
下手なことを口にしたら、後で葵に何をされるか分かったもんじゃないので、僕はそれだけを竹田さんに返す。
でも、何でだろう? 今朝、葵にくっつかれた時と違ってドキドキはしないし、割と冷静でいられてる。
竹田さんの柔らかさには確かに驚いた。
でも、心は動かない。
それに気付いた瞬間、僕の中の答えがはっきりした。
僕が求めてるのは葵の温もりなんだ。
そんな、葵に対する自分の想いを、僕は再確認できた。そんな感じがした。
「ね、ねえ、竹ちゃん! そ、その辺にしておいてあげて。その、ゆ、憂くんは……」
葵のそれを聞いて、竹田さんは僕からするりと離れていった。
そして――
「あははっ! ごめんごめん、ちょっとやりすぎちゃった。いやー、だって陰地くんってほんと反応が面白いからさ」
そう笑ってみせた竹田さんだったけど、その笑顔の奥に、一瞬だけ寂しさのような影が見えた気がした。
僕の気のせいだろうか。
『第12話 竹田さんと葵と』
終わり
コメント
2件
yu.nnさん、コメントありがとうございます!!😭本当に嬉しい……。今はテラノベさんはコンテストやってないので別のところに応募中なのですが、自信と勇気をもらえました。僕も第二部まで更新しちゃいますね。感謝です!!
すごい展開ですね〜😂 やっぱり面白いです^^ これまで見てなかった話とかがあったので、今から一気見しようかな……👀