テラーノベル
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───あと30分───
「…ごめん、全然わかんない。 」
黙々と2人で作業を進める中、そう言ったのは自分自身だ。けれど、自分もそう言うつもりはなかった。
へ、と突然の自分の言葉に息を漏らしたのは目の前にいるぺいんとで。自身の言った言葉は瞬時には理解できなかったらしく。
「わかんないって…何が、ですか?ああ、もしかして課題で分かんないところが───」
「【感情】がわかんないんだよ。」
ぺいんとの言葉を遮るようにして本音を漏らす。本音というか、今まで偽り続けてきたこと全てだ。 無論、言う意味もなかった。これらが普通の日々であれば、これからも偽り続けていたのだろう。
ただ、もう無理だと思った。
この課題において、偽り続けるのは無理だと思ったのだ。
こんなあっさり言えた自分に驚きながらも、頭では妙に冷静な自分がいた。
「いや、そりゃみんなわかんないですし…だからこそ、難しいから、先生もペア課題にしてるんじゃないんすか?」
どこか引きつった笑みを貼り付けながらも、矢継ぎ早にぺいんとは言葉を紡いでいく。相手は正論を言いながらも、どこか焦ったような感情が滲み出ていた。
「だから、分かんないんだって!!」
一瞬、誰の口から出た言葉なのかわからなかった。しん、と静まり返ってから少しして、やっとのこと自分の口から出た言葉なのだと分かった。
微かに掠れながらもはっきりと聞こえた自分の声に、相手はびっくりしたような、わからないような表情をしてこちらを見ていた。
「……嬉しいとか、どういう時に感じるの。幸せとか、どういう時に感じるの……。」
縋るような言葉に、ぺいんとはこちらを見るだけだ。ただ、自分は両手で目を覆った。瞼の裏には何も映らない。酷く暗闇なだけで、寂しい。
いや、ごめん。もう偽り続けるのはやめるんだったね。
───寂しい、だとか、悲しい、だとか。いつ使うのかわからない幸福な言葉なんかよりも、断然わかる。
今は、寂しいんじゃなくて、悲しい、の方が合うんだと、この前調べて分かった。ただ、感覚的にわからないだけなのか、それすらもわからないけれど…”悲しい”って言葉にしっくりこない。
「───じゃあ、クロノアさんは分かりますか?」
今度、へ、と息を漏らしたのは自分だった。怒鳴ったせいか、それとも泣きじゃくったせいか。わからないけれど、声は酷く掠れていた。
反射的に顔を上げ、目の前に映るぺいんとの顔は、どこか…フクザツ、という顔をしていた。
「なに、が…───」
「───俺の気持ち。」
優しく微笑みかけるように、肩に手を置く。力の込められていない、痩せ細った手。そんな彼の手は、体温を感じなかった。あたたかくも、つめたくもない。
この手は───偶像か何かなのだろうか。
───あと5分───
「───わからない、よ。」
言葉に詰まりながら、そう言った。気づいてしまったから。ただ、これが合っているかなんてことはわからない。確認するためには、口で言う必要があるわけで。自分に、その勇気は少なからずもあるとは言えない。
自分の返答に、相手は呆れただろうか。はらわたが煮えくり返っただろうか。───多分、どれにも当てはまらないんだろう。
「───じゃあ、それがクロノアさんの【感情】なんですよ。」
ああ、やっぱり、少しずつこの気持ちは確信に変わっていくんだね。
「うそ、つかないで。」
へ、と息を漏らすのも、計算し尽くされたそれなんでしょう。
「ぺいんとが1番わかってるくせに…」
何かがこみあがる。目の奥が熱い。それと同時に、はらわたが煮えくり返りそうだ。
「───ぺいんとは、何も考えてないくせに。」
意外と驚いた反応をするのだと思った。目を見開いて、眉を下げ、頬に力を込める。
それが、ぺいんとの、計算尽くしされたカオだとわからなければよかったのに。
まるで、誰かの真似。
───周りのみんなの良いところを真似した、何も感じてない偶像みたいだ。
コメント
3件
今作も最っ高ですね!最近投稿面倒いな~って思ってて投稿しえなかったんですが二酸化炭素さんはしっかりと目標(?)を決めてて、真面目なので本当に尊敬してます!これからも体調に気をつけながら投稿頑張ってください!、
なんかいつもコメントばっかしててもし二酸化炭素さんが「期待を裏切んないように頑張んなきゃ」って思うなら本当にすみません!🙇♀️💦二酸化炭素さんそう思うなら「○○はやめて欲しいかも」と全然気軽に言ってください!推し(二酸化炭素さん)を傷つけるのはイヤなので!ジャンジャン本音言っても大丈夫です!