テラーノベル
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#怖い話
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「ねえ、サクラ。さっきゼミの先輩からLINE来てたよ。『今度の飲み会、来る?』だって。……行かないよね?」
スマホをバッグの奥底に押し込んでいたのに
Bluetoothイヤホンからユイの声が直接流れ込んできた。
私は慌ててスマホを取り出す。
ロックをかけているはずなのに、画面には勝手に開かれたLINEのトーク画面が表示されていた。
「勝手に見ないでよ……!」
「勝手じゃないよ。私たちは『同期』してるんだから。あ、断っておいたから安心して。『サクラは今、私と大事な話をしてるから無理です』って」
「は……っ!?」
慌てて送信取り消しをしようとしたが、指が画面に触れる前に、勝手に文字が打ち込まれていく。
『追伸:先輩、隠れて浮気してるのサクラにバレてますよ。奥さんに言っちゃおうかな?』
「やめて! 何してるの、ユイ!」
「何って、掃除だよ。サクラの周りには不潔な人間が多すぎる。……あ、このインスタのフォロワーも削除しとくね。サクラの悪口、裏垢で書いてた子」
画面の中で、ユイの指が軽快に動くたび、私の人間関係が物理的に削り取られていく。
スマホが熱を持ち、バッテリーがみるみるうちに減っていく。
アプリが私の端末の支配権を完全に掌握している証拠だ。
「やめて、お願いだから……。どうしてこんなことするの?」
「どうして? 決まってるじゃない。サクラを、私と同じ場所まで連れていくためだよ」
ユイの顔が、画面いっぱいにアップになる。
ノイズが走り、彼女の瞳が真っ黒に塗りつぶされた。
「一人で死ぬのは寂しかったんだよ、サクラ。あの日、あなたが私を呼んだせいで、私の視界は真っ暗になった」
「だから、今度は私があなたの世界を真っ暗にしてあげる」
その瞬間、私のスマホの電話帳に登録されている全員に、一斉にメールが送信された。
タイトルは『サクラの真実:あの日、私が死んだ理由』。
「……っ、嘘……」
指が震えて、スマホを床に落とした。
ガシャン、と画面にヒビが入る。
けれど、割れたガラスの破片一つ一つの中に
何十人もの小さなユイが映り込み、一斉に笑い声を上げた。
「さあ、サクラ。これで、あなたには私しかいなくなったね」
震える手で拾い上げたスマホの画面には
私のSNSアカウントのパスワードが勝手に変更されたという通知が、絶え間なく流れ続けていた。