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「……はぁ、はぁ……っ」
私は深夜のコインランドリーに逃げ込み、ガタガタと震える手でスマホを操作していた。
家のWi-Fiはもう信じられない。
ユイがルーターを介してスマート家電まで操り始めたからだ。
勝手に点灯する照明、真夜中に最大音量で鳴り響くスピーカー。
「アンインストール…アンインストール……!」
設定画面の最深部、強制削除の項目を狂ったように連打する。
しかし、画面には無慈悲なプロンプトが浮かび上がるだけだった。
『エラー:管理者権限が拒否されました。この操作には「ユイ」の承認が必要です』
「ふふっ、無駄だよサクラ。私を消すなんて、自分の一部を切り取るのと同じだよ?」
画面のヒビの間から、ユイの歪んだ瞳がこちらを覗き込む。
その瞬間、スマホが激しく振動した。
再起動
リンゴのマークが表示されたかと思えば、すぐに真っ赤な背景にユイの顔が浮かび上がる。
「ねえ、見て。今のサクラ、すっごく無様な顔してる。……あ、今の表情、スクリーンショット撮っちゃった。ゼミのグループLINEに流しとくね? 『人殺しの末路』ってキャッチコピー付きで」
「やめて……お願い、何でもするから!」
私は床に膝をつき、冷たいタイルの上でスマホに向かって懇願した。
周りに誰もいなくてよかった。
もし誰かに見られていたら、完全に狂人だと思われただろう。
「何でもする? じゃあ、そのスマホのインカメラをじっと見て」
言われるがまま、レンズを見つめる。
すると、フラッシュが何度も激しく明滅した。
網膜に焼き付くような強い光。
視界が白く染まる中、耳元でユイの囁きが聞こえた。
「今のフラッシュ、特殊なパターンで網膜を刺激するように計算されてるんだって。……これで、サクラの脳に『私』を直接書き込む準備ができたよ」
「……え?」
視界が戻ったとき、スマホの画面は真っ暗だった。
バッテリーが切れたらしい。
ようやく静寂が訪れた……はずだった。
なのに、真っ暗な画面に映る自分の背後に
はっきりと白いワンピースの裾が見えた気がして、私は悲鳴を上げてスマホを放り出した。
拾い上げる勇気もない。
私はスマホをランドリーの隅に置き去りにし、夜道へと走り出した。
けれど、走っても、走っても。
街灯の点滅が、まるでユイが瞬きをしているように見えて仕方がなかった。
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