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ついに、ウチの切実な願いが神様に届いた。 病院のガラス越しに、新しい家族――三女の「あお」が寝とった。
「……あ、本当に増えた」 ウチは、やっと手に入れた「新しい戦力」を前に、安堵の溜息をついた。 これでいい。これで、あの破壊神みあの相手を一人でせんでも済む。これからは二人体制(ダブルお姉ちゃん)で、あの暴君を抑え込むとよ。 四歳のウチは、そんな「完璧な経営戦略」を立てて、心の中でガッツポーズしよった。
ばってん、隣におる三歳のみあは、ウチとは全然違うこと考えとったみたい。 ガラスにベッタリ顔をくっつけて、清楚可愛い(自称)声でこう呟いたと。
「あお……清楚やね。みあが、もっと清楚にしてあげるけんね」
……不穏。バリ不穏。 赤ちゃんに向かって「清楚の英才教育」ば宣言しよる。 しかも、あおが「ふぎゃあ!」って泣き出した瞬間、みあが「あ、あおが呼んどる! 清楚な声で呼んどる!」って大興奮。……絶対、今のは普通に泣いただけやけん。
文くんも病院に来てくれて、「まきちゃん、お姉ちゃんが二人になったね。大変そうだけど頑張って」って苦笑いしながら頭をなでてくれた。 文くん、分かっとらん……。「大変そう」どころか、クセ強な妹が「二人」になったっていうことは、ウチの苦労が「二倍」になる可能性が高いってことに、この時のウチはまだ気づいとらんかった。
こうして、我が家に三姉妹が揃った。 静かになるはずやったウチの日常は、さらにカオスな方向へ加速していくことになる――。
あおが家にやってきて、ウチの輝かしい「楽々お姉ちゃんライフ」が始まるはずやった。 ばってん、現実はそんなに甘くなかった。
お母さんは新生児のあおにつきっきり。お父さんも仕事で忙しい。 そうなると、今まで以上に行き場をなくした「破壊神みあ(3歳)」のエネルギーは、全部ウチに向かってくるとよ。 「まきねぇ! あおは寝とるけん、みあと遊ぼ! ほら、こうかって(おんぶして)!」 ……増員したはずなのに、なんでウチの業務が増えとると!? 5歳にして、ウチは「現場の深刻な人手不足」を痛感しとった。
さらに、みあの「清楚プロデュース」もエスカレート。 寝とるあおの顔の横に、自分の小さくなった清楚系ワンピを並べて、 「あお、これ着たら清楚よ? みあみたいに清楚可愛い女子になるとよ?」 って、寝起きの赤ちゃんにスパルタ教育ばしよる。 「みあちゃん、あおはまだ首も座っとらんけん無理ばい!」 ウチが必死に止めても、「清楚に早すぎることはなか!」って聞きゃせん。
そんなカオスな我が家に、救世主の文くんが登場。 あおを抱っこして「ちっちゃいねぇ、可愛いなぁ」ってデレデレしよる文くんを見て、ウチはやっと一息つける……と思った、その時。
みあが清楚な顔を作りながら、文くんとあおの間にグイッと割り込んだ。 「ふみぃ、あおはまだ清楚が足りんけん、みあを見とった方がよかよ?」 ……3歳児の嫉妬心、バリ怖か!
結局、文くんはみあに連れて行かれ、ウチは泣き出したあおをあやす羽目に。 おかしい。ウチ、楽になるためにあおをお願いしたはずやなかったっけ……? 5歳のウチの計算は、完全に狂い始めておった。
あおがハイハイを覚えた。 お父さんとお母さんは「成長したねぇ」なんて目を細めとるけど、ウチからすればそれは、新たな「動く時限爆弾」が誕生したのと同じやった。
あおのハイハイは、とにかく速い。しかも、狙うのは決まって「みあが大事にしとるもの」ばっかり。 みあが鏡の前で「清楚……清楚……」って言いながら、髪に飾ろうとしとった清楚可愛いリボン。それをあおが、一瞬の隙を突いて猛スピードで強奪! そのまま、あおは口の中にリボンを突っ込んで、ヨダレまみれにしながら高速で逃走したと。
「清楚じゃなかー!! あお、清楚じゃなかばいー!!」 みあが三歳児とは思えん絶叫を上げながら、あおを追いかける。 でも、逃げるあおも必死。ウチの足の間に逃げ込んできたり、テーブルの下に潜り込んだり……。 ウチは、泣き叫ぶみあと、ヨダレを撒き散らすあおの間に挟まれて、もう白目。
そこにタイミングよく、文くんが遊びに来た。 部屋の中に散らばったオムツ、よだれかけ、そして発狂しとるみあ。その中心で髪を振り乱して二人を止めとるウチを見て、文くんがポツリと言ったと。 「まきちゃん……なんか、学校の先生か、お母さんみたいだね」
その言葉に、ウチの中の何かがプツンと切れた。 「ウチは母ちゃんじゃなか! 五歳のピカピカのお姉ちゃんばい!!」 ウチの怒号に、一瞬だけ静まり返る三姉妹。
ばってん、その静寂も三秒。 あおがウチの靴下を脱がそうとして食らいつき、みあが「ふみぃ、今のウチ、清楚に見えた?」って文くんにすがりつく。 増員して楽になるどころか、ウチの五歳は「三姉妹の統制」という過酷な任務で幕を開けたとよ……。