テラーノベル
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灰色の雲が低く垂れ込める朝は、どうも落ち着かない。
僕の髪と同じ色だな、なんてどうでもいいことを考えながら、基地の廊下を歩く。
「なろっち、今日の訓練、早いで?」
後ろから聞こえた声に振り返ると、翔くんが立っていた。
いつも通り、きちんとしていて、少し笑っている。
「うん、わかってるよ翔くん。君はほんと、頼れるエースだね」
軽口のつもりだったけど、翔くんは一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、表情を固くした。
戦争が始まってから、みんな少しずつ、そういう“間”が増えた気がする。
格納庫に入ると、そらくんがすでに走り回っていた。
「なろ屋さん!見てくださいこれ!昨日拾ったんです!」
「基地で拾い物するなって言われてなかったっけ?」
「えへへ」
やんちゃで、戦争の現実をまだ全部は理解していない。
その無邪気さが、逆に胸に刺さる。
その奥で、かいてぃーが一人、何かをぶつぶつ唱えていた。
「……この黒き翼が、闇を――あっ、噛んだ……」
「お前、また一人で世界救ってるんか?」
「うるせぇサムライ!今回は成功するはずだったんだ!」
笑い声が起きる。
でも、その輪の中に、かもめんの姿はなかった。
選ばれた、と言われた瞬間、頭の中が真っ白になった。
特攻隊。
その言葉の重さは、年上だからこそ、誰よりもわかってしまう。
「お前が適任だ」
上官の声は淡々としていて、そこに感情はなかった。
命の重さを、数字で測る人間の声だった。
基地に戻ると、みんながいつも通り笑っていた。
なろぴはふざけた顔で、翔ちゃんは周囲を気遣い、
そらくんは走り回り、かいにゃんは相変わらず中二病をこじらせている。
――言えるわけがない。
「かもめん、今日遅かったね」
なろぴが声をかけてくる。
いつもなら「ちょっと野暮用」って返すところだ。
「……ああ、まあな」
それ以上、言葉が出てこなかった。
父親みたいだって言われる立場で、
みんなを守る側で、
“死ぬ予定です”なんて、言えるはずがない。
最近のかもめん、明らかにおかしい。
笑う回数が減った。
それに、やたら俺らを見てくる。
「なろっち〜最近かもめん、なんか隠しとらん?」
「え?そう?」
なろっちは首を傾げる。
こいつは良くも悪くも、人を信じすぎる。
戦争が激しくなるにつれて、仲間が減っていく。
次は誰だ、って考えるのが怖い。
かもめんがいなくなったら?
考えたくもない。
「翔ちゃん」
振り返ると、かもめんが立っていた。
「俺さ……」
何か言いかけて、やめた。
その背中が、やけに遠く見えた。
嫌な予感ってのは、当たるもんだ。
俺はこういう勘だけは外れない。
「かもめん、最近変だよな」
「だねー」
そらくんは軽く言うけど、俺は笑えなかった。
夜、格納庫の隅でかもめんを見つけた。
一人で、機体を撫でていた。
「……兄弟」
そう呼ぶと、かもめんはびくっと肩を揺らした。
「俺さ、噛むし、ドジだし、頼りないけどさ」
言葉を選びながら、続ける。
「一人で背負うのは、かもめんらしくないんじゃないか?」
かもめんはしばらく黙っていた。
それから、小さく笑った。
「……ありがとうな」
それだけだった。
夜明け前、空はまだ暗かった。
みんなの寝顔を、一人ずつ見て回る。
なろぴ、翔ちゃん、かいにゃん、そらくん。
――ごめんな。
守るって決めてたのに、
最後まで、真実を言えなかった。
機体に乗り込む。
エンジン音が、すべてをかき消す。
これが俺の選ばれた役目だ。
「……行ってくる」
誰にも聞こえない声で呟き、
俺は空へ向かった。
コメント
1件
うわーーーー😭😭😭 特攻隊って1番悲しい気がする